上 下
111 / 155

夢を追うもの笑うもの38

しおりを挟む

 続いて準決勝。

 対戦カードは英美里対リーダーの名持ち同士の戦いになる。

 この二人が勝ち上がる事は予想はしていた。

 けれどそれでも番長ならリーダーを倒す事が出来るかもしれないとも思っていたのだが、ベル曰く番長ではリーダーにはまだまだ実力では劣っているという評価らしい。

 それだけ名持ちというアドバンテージは大きいのだという事が今回の模擬戦で再認識する事ができたので、改めて怠惰ダンジョンの増築をベルに推し進めてもらいたい。

 怠惰ダンジョンは現状、色々な事に手を出し過ぎているので、中々怠惰ダンジョン自体の階層を増やすという所にまで手が回っていないのだ。

「じゃあ準決勝を始めようと思うんだけど……休憩とか必要なら言って欲しい」

「必要ありませんご主人様」

「私も大丈夫です」

「分かった、じゃあスタート位置に着いてくれ」

 英美里とリーダーがスタート位置に向かう。

 俺の予想では流石に英美里が負ける事は無いと思うのだが、やはり隠れエルフスキーの俺的にはリーダーにも頑張って貰いたいといのが本音だ。

 俺の中ではエルフというのは魔法が得意でかなりの実力者というイメージがあるので英美里には申し訳ないが、リーダーを応援したい。

 両者がスタート位置に着いて開戦の合図を待っている。

「それではこれより、準決勝の試合を始めたいと思います!両者準備は良いですか?……では、試合開始ぃ!」

 開始と同時に両者距離を取った、お互いがバックステップで距離を離して魔法戦を仕掛けるようだ。

 口火を切ったのは魔法のエキスパートであるリーダー、得意の水魔法で水槍を多重展開して一気に英美里に撃ち込んだ。

 対する英美里は魔法では無く影槍で迎え撃つ、地面から生えた影槍がリーダーの放った水槍を悉く撃ち落としている。

「これぐらいでは魔法も使ってくれませんか……」

「魔法よりも便利というだけの話よ」

「……少し強い魔法をぶつけます!」

「先輩として正面から受けて立ってあげますよ」

 後輩と接する時の英美里は普段の雰囲気とは少し違う。

 いつもはにこにこ笑顔で優しい英美里なのだが、やはり先輩であり一応の立場としては職場の上司に当たる存在なので部下に対する態度もそれなりに厳しめにしているのであろう。

 リーダーや他の怠惰メンバーに対する態度は俺やベルの時とは違って新鮮さもあるが、少しだけ高圧的にも見えてちょっと怖い。

「行きます!アクアトルネード!」

 地下広場の天井に達する程の水の竜巻が5本英美里に向かって行く。

「数が多ければ良いという訳ではありませんよ!」

 英美里は5本の水の竜巻を前にしても全く動じず、水の竜巻に対抗するように同数の岩の像を生み出して水の竜巻にぶつけた。

 岩の像が水の竜巻を抱き締めるようにして英美里に向かうのを止めている。

「ベル、あれって岩の像を無視して英美里に攻撃出来ないのか?」

「それはあまり効果的では無いですね!英美里が岩の像に魔法誘因効果を付与しているので、リーダーのアクアトルネードは岩の像に引き寄せられてしまっていますから!無理やりにでも英美里に向かわせる事は一応可能ですが、仮にそのまま英美里に魔法をぶつけた所で英美里は再びリーダーの魔法を防ぐ何かを用意しながら岩の像をリーダーに向かわせるだけなので結局はリーダーも岩の像を防ぐ為の魔法を使うか、回避せざるを得なくなりますからね!」

「ふーん」

 俺には魔法戦の事はさっぱり分からない。

 ここに居たのが俺では無く純であったならベルの言っている事も理解出来ているんだろうが、俺にはまだ魔法戦を熟せる程の実力も知識も何もかもが足りていない。

「……これも簡単に防ぎますか」

「これぐらいはまだ小手調べでしょう。もっと本気で掛かってきなさい」

「……申し訳ありません。それではお言葉に甘えて……出でよ!水龍!木龍!」

 リーダーが生み出したのは水で作られた精巧な龍と木で出来た精巧な龍。

「なんだあれ!かっけぇー!純の水龍とはまた違ったカッコ良さだな!木龍もすっげー!ただの芸術作品じゃん!」

 純の龍が和風の蛇のような龍だとすれば、リーダーが生み出したのは4本脚で背中には大きな羽の生えた恐竜のような見た目の西洋龍だ、大きさが地下広場の高さギリギリなので大体15m程はあるだろうか。

「これは恰好良いですね!私も魔法で龍を作りたいです!後でちょっと真似してみよう!」

 ベルと俺はリーダーの生み出した魔法の龍の姿に大興奮していた。

「……これはお見事ですね」

「純の水龍に対抗して生み出した新たな魔法です。魔法龍と言った所でしょうか、この子達は見た目だけでなく強さも兼ね備えています。現状、私が出来る最大の最高の魔法になりますので誠に勝手ながら、この子達が破られれば私は降参させて頂きます……それでは参ります!行け!水龍!木龍!」

 リーダーは水龍の背に乗り、足を埋め込むように自身の体を固定した。

 そして水龍と木龍が英美里に向かって攻撃を開始した。

 水龍は口から水のブレスを吐き、木龍はそのまま突進しながら自慢の龍爪で引っ掻き攻撃。

「なるほど、龍の背に乗って影移動対策ですか……考えましたね」

英美里が岩の像で軽く邪魔をしながら更に後ろに飛びのいて攻撃を躱した。

 英美里の影移動はとても便利は魔法ではあるが、魔法のエキスパートであるリーダーには何処に現れるか特定され易く、しかも水龍という自らが生み出した魔法生物の背に乗っているので英美里としては余計に手が出し辛い。

「影移動はこれで完全に封じました!私には影移動は使えませんよ!さぁ!英美里も本気を出して下さい!」

「リーダーに敬意を表して私もとっておきを見せましょう!……大影・包躯巣!」

 英美里の体を影が包み込むが、いつもとは大きさが違う。

 英美里の影はみるみるうちに大きくなり、水龍木龍と大差が無い程にまで膨れ上がって形を整えた。

 影で出来た真っ黒い鳥、猛禽類のような見た目なので鷹か鷲では無いかと思うのだが如何せん真っ黒いのでちょっと変わったカラスにも見える。

「動物には動物で勝負です!」

「……それはカラスですか?」

「鷹です!失礼ですよリーダー!どこからどう見ても鷹でしょう!」

「いえ、真っ黒なのでカラスかと……」

「もう良いです!結局は勝った方が正義です!行きますよ!」

「はい!」

 そこからはもう、とてつもなく激しい大怪獣バトルが勃発。

リーダー側は木龍を前衛に据えて、水龍で後方からブレスと魔法で英美里の黒鷹に攻撃を仕掛けていた。

 英美里は英美里でいくら強いとはいえ、1対2では不利だと思ったのかもう一体の全く同じ造形の黒鷹を生み出して両前衛でとにかく突いたり鋭い鷹爪で攻撃を繰り返していた。

「……なぁベル、これって決着着くのか?」

「そうですね……スタミナ切れ、つまり魔力が先に尽きた方が負けるんじゃないですかね!」

「そうか……流石にもう見飽きたぞ、俺は」

「同感っすね!最初は大迫力で面白かったんすけど……結局やってる事が大味過ぎて飽きたっすね!」

「だよな……」

 二人には申し訳ないが、如何せんどちらも実力が拮抗しているようで対戦時間が長引いてしまい観戦している我々はもう飽きてきていた。

「大体今で30分ぐらいはああして戦ってますからね!私の見立てではそろそろリーダーの魔力が尽きると思いますよ!英美里の影が少しづつリーダーの魔力を吸い取ってますから、こういう長期戦にもつれ込めば英美里には中々勝てません!」

「流石は英美里と言った所か……相性が悪いからな、リーダーには」

「ですね!」

 ここでリーダーの水龍と木龍の動きが鈍くなってきた、もう限界が近いのだろう。

「押し切れませんでしたか……降参します!」

「試合終了!勝者!英美里!」

 リーダーが水龍と木龍を解除して地面に降り立った、その姿はまるで女神の様に美しかった。

「お疲れ様、流石に相性が悪かったわね。もう少し、攻撃力が高ければ押し切れていたかもしれないわね」

「お疲れさまでした……流石に敵いませんね……もっともっと私も精進致します!ありがとうございました!」

 敗者であるリーダーは博士と助手ちゃんの方へと歩いて行き、勝者である英美里は俺達が居るステージ側に歩いて来た。

「お疲れ英美里!」

「ありがとうございますご主人様!一応は先輩としての威厳を保つことが出来て良かったです」

「英美里お疲れ!あの大きな黒鷹は初めて見たよ!いつの間にあんな事が出来るようになったの?」

「そうですね……あれは私がベル様にバレないように、自分の影の中で隠れて特訓していたものの集大成ですね……本来ならベル様との対戦まで隠しておきたかったんですが、リーダーにあそこまで言われてしまったので出してしまいました」

「そうなんだ!やるねぇ英美里!」























 これで決勝の対戦カードが決定した。

 決勝戦は、怠惰ダンジョン最強ベル対戦うメイド英美里。

 正直な話、英美里がベルに勝てるとは思って無い。

 けれどベルとの模擬戦を通してまた何か成長するきっかけになってくれれば良いと俺は思う。

 最初から敵わない相手だと分かっていても本気で戦って負ければ誰だって悔しいのだ、その悔しさがある者は一歩先へと進むことが出来ると俺は知っている。

「負け続けると俺みたいになるんだけどな……」

 かつての俺は千尋に何度負けても立ち上がっていたのに、いつの間にか立ち上がる事を辞めていた。

 人間負けすぎると心が立ち上がる事を拒否してしまうものなのだ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...