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英雄も事件が無ければただの人25
しおりを挟む純が想定していたよりもずっとサイズ感が可愛らしい水龍は俺達がこうして話している最中も動き自体は鈍重ながら、召喚主である純の敵であるスライムに接近し続けていた。
そこで俺は水龍の将来性と可能性に気付いた。
恐らく<水龍召喚>を行った本人もその事実に気付いていたからこその今回のようなお披露目の仕方をしたとは思うのだが、念の為確認する。
「なぁ……水龍ってもしかしてだけど、自動で動いてる?」
「そう!そうそう!そこだよ!そこ!そこに気付くとはやはり私の旦那様は意外と賢いね!私の特殊スキルは<水龍召喚>と<水龍送還>の二つ!そして私のG-SHOPには<水龍>関連が追加されたんだけど、その追加された項目を見て私は確信したよ!この水龍は自動で動くってね!正直な事を言えば私の並列思考とは相性が悪いんだけどね!出来れば私も千尋ちゃんの剣精みたいに自分で操作できる方が良かったけど……まぁ水龍が可愛いから良いよね!」
「自動で動くのは羨ましいな……ちなみにあの水龍って強化出来るんだよな?」
「そうだよ!まだ初期状態だからあんな感じだけど……一応今分かる強化項目としては体長調整、思考強化、水流操作、魔法習得、後は基本的なステータス系の強化って感じだね!」
「育てばかなり強そうだな……単純に一人で二人分の戦力になるって事だもんな」
純は相性が悪いと言っていたが、俺は純とはとても相性が良いスキルだと思っている。ゲーム的思考でしかないが純は完全後衛キャラだ、今はまだただゆっくりと動くだけの可愛らしいペット枠でしかないが今後水龍を強化出来れば前衛を任せる事が可能になると思う、そこまで育てる事が出来れば純は後衛キャラでは無くオールラウンダーになるだろう。
「でもSPってレベルアップの時しか貰えないから少しづつ強くしていくしかないんだよね……でも私も魔法が使えなかったら、自分のスキルを取得しながら水龍の強化もしないといけなくなってたって事を考えるとSPを全部水龍の強化に充てられるのは大きいよね!」
「SPを稼ぐ手段が確立出来れば一番良いんだけどな。まぁダンジョンを攻略すればコアをSPに変換出来るから少なくとも普通の人よりかは早く水龍を強化出来る筈だよ」
「そうだね!くふふっ!これでダンジョンを攻略するモチベーションが更に上がった事が実は一番の収穫かもしれないね!やる気出てきたー!なるべく早く大きくしてあげるから待っててね!ミーちゃん!」
自身の召喚した水龍に既に愛称を付けているようだ。
「ちなみにミーちゃんの由来は?」
「<ミズチナナ>が名前で!愛称がミーちゃんだよ!良い名前でしょ?」
「そだね……」
この先、水龍に自我が芽生えない事を心から祈る。
きっと水龍もこんな即興で付けられた名前に対して思う事があると思うから。でも自我が芽生えたら芽生えたで歌を使った攻撃とか覚えそうなのでそこは楽しみだ。
改めて思う、何かごめんなベル。
でもミズチナナよりは良い名前だと俺は思うんだ。
☆ ☆ ☆
スライムは水龍の噛み付きによって無事に討伐された。
俺とベル以外はそのままレベリングを始めたので俺は一足先に自室へと帰った。
今はとにかくお嫁ーずのレベリングこそが最重要なだけで決して俺が午後からは自由にしたいという訳では無いのだ。
「暇だなー……でも暇だと言いながら何もしないで時間を無駄にしているという事実が幸せだったりするんだよなぁ……」
何をしようにも時間からは逃れられない。寿命がある限り俺達には時間が限られている、その大切な時間を無為に過ごしているという事自体が贅沢であり幸せなのだ。
人によっては無駄な時間を過ごす事が嫌だという人も多いとは思う、けれど良く考えて欲しい。働かなくとも生活が出来て、嫁も居て、更には沢山の家族に囲まれ、水龍という新たなペットまで増えたのだ。何をする必要があるというのだろうか、十分に充実した生活を送る事が出来ているではないか。これ以上を望むのはそれこそ贅沢というものではないだろうか。
無駄な時間を過ごしながら、無駄な事を考えている俺は結構ヤバイという事には気付いている。
「そうだな……ゲームも良いけど、本格的に槍の練習でもしてみようかな」
思い立ったが吉日。
まずは槍のかっこ良い動作をアニメやゲームから仕入れる事にした。動画サイトで槍キャラの動きを調べて携帯の動画に保存していった。
お気に入りは願いが叶う聖杯を巡って戦うアニメの青い全身タイツの槍使いと二本の槍を使って戦う色男の動きだ。居間の俺の肉体スペックならばそこそこ似た動きが再現できるだろう、そうすれば嫁にかっこ良い旦那の姿を見せる事が出来、更には何かしら良い事が起こるかもしれない。
「これで良し!コソ練して、驚かせてやろう!地下広場は皆が居るから……山の広場に行くか!」
コソ練はしたいが、嫁がレベリングから戻る少し前には戻りたい。なのでベルに協力を仰ぐ為に念話する。
『ベル!ちょっと良いか?』
『はいマスター!どうしましたか?もしかして……最近は夜一人で過ごしているから……マスターの体がベルを求めているのですか?』
『いや、それは無い。ちょっと槍の練習でもしようと思ってな、手伝ってくれ無いか?』
『はい!マスター!喜んで協力しますよ!』
『ありがとう!
ありがとう!それで千尋と純には練習してるの秘密にしておきたいからさ、山の広場で練習しようと思ってるんだけど……千尋達がレベリングを終えて家に帰って来るまでにはアバターを家に戻したいんだよ、何とかならないか?』
『なるほど……ではでは!英美里に頼んで終了する前に連絡を入れてもらうようにしましょう!そうすれば私もマスターの練習に付き添う事が出来ますから!昔みたいに二人で過ごす時間があっても良いと思いますし!』
『そうだな。じゃあ英美里に連絡頼むな?俺は早速山の広場に向かうから、後から来てくれ。じゃあ!』
『かしこまっ!』
最近はベルと二人で過ごす時間というのはとても減った。
人が増えた事もそうだが、俺自身がコアルームに滞在する時間が減った事が一番大きいだろう。ベルは本体と肉体で別々の動きが可能な為、どうしても本体に会って話す事は減ってしまう。ベル自身は常に働いているし、俺は特にやるべき事以外はする事が無いので余計にコアルームに滞在する機会は減ってしまうので仕方のない事だとは思う。
「……これからはもう少しベルと話す機会が増えると良いな」
山の広場へ向かいながら考える。例えお互いが心の底から信頼しているとしても、触れ合う機会が減れば寂しさを覚えてしまうのは当たり前だ。逆を言えば寂しくても耐えられるのは相手を信頼しているからこその事だと思う。
「良し、着いた……」
「待ってましたよ!マスター!さぁ!二人で色々お話しましょう!肉体言語で!いきますよ!」
野生のベルが突然襲い掛かってきた。
「やば!一旦逃げる!」
しかし回り込まれてしまった。
「はっ!せいっ!やっ!」
「ちょっ!待てマテまて!」
「問答無用!」
その後数十分程テンション爆上げのベルの攻撃によって、俺は槍の練習に来たのにも関わらず槍も持たずにただただ逃げ回る事しか出来なかった。
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