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英雄も事件が無ければただの人2

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 佐々木一馬。
 剣道場と不動産で主に生計を立てている千尋の父。
 佐々木家は元を辿れば地元では有名な名家と言われる家柄であり、立花家の系譜とされるが本当かどうかは分からない。
 俺達の地元では知らない人は居ないんじゃないかと思う程に有名な家柄のおかげで、ひと昔前迄は道場生もかなり多く居たらしいが今ではそれほど多くの門下生は居ないらしいが、その影響力と知名度は未だ健在で、地元のお偉いさん方や古くからある地元企業のお偉いさんの纏め役を代々担っているらしい。
 俺からすれば剣道の師範で幼馴染の父親であり、家族ぐるみで仲良くさせてもらっていた人で優しく頼りになる第二の父親のような人だ。

 元々俺の父親も道場に通っていたらしく、一馬おじさんが同級生で仲が良くなったと生前親父に聞いていた。その親父と一馬おじさんの繋がりから俺も剣道場に通い始めて千尋と出会ったのだが俺自身は才能が無いと中学で剣道の道は諦めてしまった過去がある。


「まずは一馬おじさんの事を千尋に相談するか……」

 地元で何かアクションを起こすのならば一馬おじさんの協力があれば色々な場面で有効に働くだろう。

『千尋、一馬おじさんの事で相談したい事が出来たからちょっと部屋まで来てくれないか?』
 絶賛レベリング中であろう千尋に念話して部屋まで呼んだ。

『あぁ分かった、すぐ行くよ』
『悪いな』


 念話を終えて数分程で俺の部屋の扉が勢いよく開け放たれ、満面の笑みを浮かべた千尋が俺に詰め寄ってきた。
「それで一体なんの相談だ?」
 千尋が部屋に着くなり嬉しそうに聞いてくる。

「まぁとりあえず座れよ……実は<超常現象対策本部>という国が管理する団体とは別に、俺達で民間団体を組織してダンジョンの攻略を進めようと考えたんだけど何かしらの後ろ盾とかが必要だろうて事で、一馬おじさんの力が借りられないかと思ってな」

「そういう事か……てっきり結婚の報告の相談かと思って急いで来たのに損した気分だよ……」
 思っていた展開と違ったらしく、あからさまに拗ねているアラサー剣道ニート女子が居た。
「結婚報告じゃなくて婚約報告だけどな」
 
「でもまぁうちのお父さんの事だから、まこちゃんが言えば協力してくれると思うけど?」

「そんな簡単に力は貸してくれないだろ……しかも大事な一人娘に手を出した男だぞ?俺が父親なら殺してるぞそんな奴……」

 ここが問題なのだ、一人娘で大事に育てられてきた千尋をある種手籠めにした男にそう簡単には協力などしてくれるとは到底思えない。

「いや、むしろうちのお父さんとお母さんは泣いて喜ぶと思うぞ?最近は毎日のように結婚と孫の話をしてくるからなぁ……それにうちの両親はまこちゃんの事を息子だと思っているし、私に結婚したらどうだと良く言ってくるからな。婚約の話をすれば何でも協力してくれると思う」

 何故かは分からないが、昔からおじさんとおばさんには気に入られていて、俺の両親が死んだ時にも色々と手伝ってもらっていた。

「まぁとにかく近いうちに婚約の話と民間団体立ち上げの話をおじさんとおばさんにするから。それと<怠惰ダンジョン>とかの話をするかどうかも相談したい、俺としては結婚が認められれば義理とはいえ家族になるんだし、信頼も置けるから話しても良いとは思うが、千尋的にはどう思う?」

「私は……話さなくて良いと思う。理由は単純にあの脳味噌筋肉達磨に話すと面倒な事になりそうだからだな、信頼はしているし外部に漏らす事も無いとは思うが……<怠惰ダンジョン>に入り浸る姿が容易に想像できるから伝えたくない!」
 娘に酷い言われようなおじさん。
 けれど俺にもダンジョンに入り浸る剣道大好きおじさんの姿が容易に想像できてしまった、下手すればここへ引っ越してきかねない。

「確かに一馬おじさんなら嬉々としてレベルリングと称してスライムを切り伏せるだろう。それでも俺は義理は通しておきたい」

 真っ直ぐ見つめて俺の意思を伝える。

「はぁ……まこちゃんのやりたいようにすれば良い。私はあなたに着いて行くだけよ」

 優しく微笑む千尋に改めて見惚れながら、全てを話す覚悟を決めた。



「それじゃあ私はレベリングに戻るよ、今のうちに脳味噌筋肉達磨との差を広げる為にも!……やっぱり純先輩の家にも協力してもらうのか?」

 察しが良い、俺が民間団体の話をした時点である程度予想していたんだろう。
 こう言っては聞こえは悪いのかもしれないが、このご時世だ使えるものは何でも使っていくつもりだ。
 それが自分の嫁になる予定の人の実家だろうが関係ない。

「そうなれば良いかなとは思ってる」

「そうか……がんばれ!まこちゃん!じゃあな!」
 千尋は俺にエールを送った後、再びスライム狩りに戻って行った。

「次は先輩に相談だな……」


 ☆ ☆ ☆


『先輩、ちょっと相談したい事があるので俺の部屋まで来てくれますか?』
 先輩に念話を掛けた。
『はーい!すぐ行くねー!』
 念話がきれて、暫く部屋で先輩の到着を待つ。


 大海グループ。
 主に九州で展開するグループ企業で、その業種は多岐に渡る。
 飲食、衣料、建築、不動産。
 地元で就職するならここが一番人気と言っても差し支えない程には大きなグループである。
 現に俺の同級生で地元に残っている奴らの多くは大海グループの系列会社に勤めている。
 そんな大海グループだが、実は先輩の父親の父親、つまり先輩の祖父が作った会社らしい。
 この間初めて先輩から聞かされた時は本当に驚いた。

 先輩の祖父は引退して会長職を務めているらしく、今は主に現社長である先輩の父親である、大海博信がその経営手腕を活かして大海グループを更に大きくしている。

 先輩は大海博信の正妻では無く、お妾さん。つまりは愛人の子供らしいが大海博信の子供の中で唯一の娘という事もあり、それはもう可愛がられて育ったらしい。
 先輩の兄弟は腹違いの兄が5人。全員、年が先輩と15個以上離れていることもあり、妹というよりも娘みたいな扱いでアイドルさながらの人気ぶりらしい。

 そんな大グループの娘である先輩に手を出した俺が、先輩の父親に協力を求めるのは下手すれば破滅を招きかねないが、何があっても先輩は俺の味方で居てくれるという信頼があるのである程度の無茶は可能だ。

















「入っても良い?」
 先輩が部屋に訪れた。
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