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小さな発見は大きな事件14
しおりを挟む男と女。
世の中には大別すると2種類の人間が居る。
男性と女性、性別の違いというのは時に厄介な認識の違いを生む。
男からすれば友人や知人と共有する必要の無いパーソナルな情報さえも恋バナと言い張り、話してしまう女性が多い。
逆に女性からすれば隠す必要の無い情報はむしろ恋バナでマウントをとる為にとても重要だったりする。
そんな事は無いと思う人も居るだろう、特に男は。
中には女性のパーソナルな情報をぺらぺらと喋る男性も居るだろう、けれどその軽薄さは男性グループ内での受けは良いかもしれないが信用は失うだろう。
男社会では喋れば喋る程に信用度や信頼度が落ちやすい傾向がある。
想像してみて欲しい、何でもぺらぺらと喋る軽薄そうな男とあまり多くは語らない寡黙な男が居たとしてどちらが男から見て信頼が置けるかを。
寡黙な男に憧れを抱いた事がある人ならば尚更後者の方が信頼出来るだろう。
逆に女性社会は男性社会よりも複雑で厳しい社会だ。
まさに弱肉強食、食うか食われるか。
いかに相手よりマウントを取るかが重要になってくる。
集団や群れでの序列というのは確実に存在しその序列が群れの中では重要になってくる。
横並びでは決して無い。
だから使えるものは何でも使って、より高みを目指す。
けれどそれを意識して行う人は少ない。
本能的に動いている人がほとんどだ。
男性と女性が入り乱れる集団ではまた話が変わってくる。
特に学生時代ではクラスカースト制が導入されている。
クラスには必ず頂点と底辺が存在する。
雄はより強さをアピールして雌の気を引こうとし序列争いをする。
雌は雌同士で序列争いを行い雄と対抗しようとするか取り入ろうとする。
そしてカースト上位の者たちがクラスを仕切っていく。
これは群れで生活する上で必要な事なのだ。
☆ ☆ ☆
二人の会話を俺が知る由もないが仲は良かった筈だ。
「千尋、お前先輩に喋ったのか?」
「あぁ聞かれたので仕方なくな」
ドヤ顔で先輩を見る千尋。
「そりゃ聞くよ、だって面白そうじゃない?」
余裕の笑みを浮かべる先輩。
「……まぁうん、仕方ないよな……それで本題に入りたいんですけど良いですかね?」
このままでは俺の黒歴史暴露話が始まる予感がしたのでさっさと本題に移る。
「本題というのは加護の事かな?」
真っ直ぐに俺の目を見て聞いてくる先輩。
俺の些細な動きから何かを確かめようとする意志を感じた。
「えぇまぁそうですね」
先輩の眉がピクリと動いた気がした。
「それだけでは無いか……まぁこの只者では無いメイドさん達の事も含めて話をしてくれるって事かな?覚悟は出来てるから話を聞かせてもらうよ拓美君」
余裕の笑みを浮かべる先輩に今までの経緯とこれからの話を語った。
☆ ☆ ☆
「にゃるほどにゃー」
全てを語った、俺の能力から<怠惰ダンジョン>の事もなにもかもを。
「出来る事なら他言はしないでください、特に<怠惰>の事については」
顎に手を当てふんふんと何度も頷き何かを考える先輩。
「協力者になるよ!断る理由も無いし!というか……断ればお家に帰れなくなりそうだからね!勧誘というよりもはや脅迫に近いしね!でも……ありがとう!拓美君達からすれば私を引き入れるのはメリットよりもデメリットの方が多いと思うし、それなのに私を勧誘してくれた事が素直に嬉しいよ!」
先輩の無垢な笑顔に安堵する。
不安はあった、頭は良いが何をするか分からない怖さが先輩にはあるから。
「「ありがとうございます!」」
千尋と二人で頭を下げた。
「でも先輩として一つだけ忠告しておくよ。<怠惰>の事はこれ以上喋らない方が良い、このスキルは異常だよ。神の加護なんて霞むぐらいに強力で凶悪だ。悪用しようと思えばいくらでも可能だし、スキル自体が明らかに対人間用の能力に思えて仕方がない。いや、というよりも……<ダンジョン>側に適した能力と言えば良いかな……。とにかくこのスキルは私達以外の<人間>には喋ってはいけないよ?良いね?」
先輩は真顔で俺に忠告してくれた。
俺も何度か考えた事があった<怠惰>はあまりにも<ダンジョン>との相性が良すぎると。
もし仮にこのスキルが俺では無く、他のダンジョンのマスターが持っていたらどうなっているかを想像しただけで俺は底知れぬ恐怖を感じた。
「忠告ありがとうございます。俺もこれ以上はこのスキルについて知る人は増やさないつもりですよ」
「そっか!なら大丈夫だね!……それで今日から私もレベリングしても良いのかな?」
「勿論です!でもこの後用事があったんじゃないですか?」
手で口元を隠すように笑う先輩、何かおかしな事でも言ったかと疑問に思い首を傾げてしまう。
「拓美君はおかしな事を言うね!これから夫婦になるんだからそんな遠慮は必要無いだろうに」
おや、これはどういう事だろうか。
「ちょっと待て!末永先輩、どういうつもりだ?返答次第では貴方を斬りますよ?」
隣で刀を取り出したアラサー剣道女子のカットインで俺の頭は更に混乱している。
一応千尋の手を掴み抑える。
「待て待て待て!千尋落ち着け!先輩、どういう事ですか?」
こんな状況でも微笑みを絶やさない先輩は本当に何者なのだろうか。
「ふふっ!だって拓美君は今日私に告白するつもりだっただろう?だから告白されるよりも先に答えを伝えて君を安心させてあげただけだよ!それと千尋ちゃん、私は側室で構わないからね!正妻は千尋ちゃん以外務まらないから!一緒に拓美君を支えて行こうね!」
「勿論です!」
頭が痛い。
俺だけがこの状況を理解出来ていない。
どういう事だ、訳がわからない展開だが分かった事が一つある。
「ハーレムじゃん!」
「酒池肉林だね!男の夢が叶って良かったね!拓美君!」
何故か人ごとのように語る先輩。
「いや、あの……俺が言うのも何ですけど、先輩はこれで良いんですか?今時、側室なんて意味が分かりませんよ」
「そうか!今の日本は重婚出来ないんだったね!なら……内縁の妻という事になるのかな?……まぁお父様もお母様も納得してくれるだろう!私も元々は妾腹だしね!お母様と同じ道を辿るのは血筋なのかもしれないね!ふふふっ!」
何がそんなに嬉しいのか、理解出来ない。
俺が間違っているのだろうか。
今時、日本でハーレムなんて時代錯誤の勘違い野郎だと思ていたんだが。
これはこれでありなのか?
俺としては理想の展開なのだが、あまりにも俺に都合が良すぎやしないだろうか?
もしやドッキリなのだろうか。
「えぇ……これで良かったのか?」
「良いに決まってるだろう?魅力的な雄に雌が群がるのは自然の摂理だ!正妻は私!末永先輩は……いや、純はお妾さんだ!」
「えぇ!これから一緒に怠惰な夫を支えて行こうね!」
多少もやもやはするが男の夢が叶うのだ。
嬉しくない訳が無い。
「えぇとじゃあ……これから末永くよろしくお願いします!結婚してください!」
「「喜んで!」」
先輩を無事引き込む事に成功し、その場の流れで千尋と先輩とも目出度く婚約する事に成功した。
☆ ☆ ☆
「ベル、頼む」
「はい!マスター!ではいきますよ?……はい!終わりです!これで純にゃんにも<念話>と<隠蔽>を付与出来ましたよ!」
「ありがとうベル!早速ですけど先輩……純、念話を俺に掛けてみてくれ」
未だ慣れない呼び名に戸惑いながら純に念話を掛けてもらう。
「うん!」
『どう?聞こえるかい?』
『聞こえるよ、それにしても本当に良かったのか?』
『あぁ問題無いよ、千尋ちゃんと決めてた事だったし!むしろ計画通りだね!』
『ん?それってつまり……どういう事?』
意味が分からない。
『ふふっ!車の中で千尋ちゃんに言われたんだ、今日拓美君が告白するから、受けるつもりがあっても正妻の座は譲らないって。私は元々そういうのに頓着しないし、そもそもお母様もお妾さんだからね!』
『いや、それとこれとは話が違う気が……』
『私もそろそろ子供欲しいし、結婚するなら拓美君が良いなって思ってたからね!あと、私は正妻とかには向いてないと思うし!これは渡りに船だと思ってね!お妾さんになろうって決めてたんだけどね!拓美君的にはすんなり受け入れられる話じゃ無いなとも思ったから、千尋ちゃんに頼んでお芝居をちょこっとね!』
『お芝居とは?』
『ふふっ!私が拓美君に告白される前に結婚するって伝えて、千尋ちゃんに怒ってもらう!それだけは決めてたよ!こうすれば拓美君が混乱してる間に千尋ちゃんと私で畳みかければ、なし崩しで婚約出来ると思ったし、千尋ちゃんが正妻だっていう序列関係も拓美君にはっきりと認識させられると思ってね!こんなにうまくいくとは思わなかったけど!大成功だったよ!』
『へー』
『もちろん拓美君の事が大好きっていう前提があってこその婚約だからね!』
ここで念話が終わる。
すると純が立ち上がり俺の隣に座った。
純は自らの顔を俺の顔にゆっくりと覗き込むように近づけてくる、体も段々俺にしな垂れかかってくる。
何がしたいのか分からないが非常に緊張する、もしや接吻でもされるのだろうかと。
「お慕いしております旦那様」
耳元で囁かれ心臓が跳ねる。
「ひゃい!」
体が動かない、自分が何処に居るか分からない。
頭が茹で上がっている。
ぐらぐらと揺れる視界。
これからの展開を期待せずにはいられない。
憧れの先輩と婚約して、その先輩が今俺の体に体重を預けながらじわりじわりと顔を近づけてきている。
もう少しという所で先輩が目を閉じる。
これはお前から来いという合図だろう。
ここで行かねば何が男か。
据え膳食わねばなんとやら。
心臓の音がやけにうるさい。
壊れてしまったのかもしれない。
それでも良いさ。
もうゴールは目の前だ。
俺も先輩と同じように目を閉じる。
そのまま先輩。
いや純の小さな可愛らしいくちびるに俺のくちびるを重ねる為に顔を近づけて行く。
近いようで遠い数センチの距離。
そして遂に。
「やらせる訳無いだろ!馬鹿者!」
思いっきり頭を横殴りにされた。
「やるなら私が先だ!」
幸せかよ!
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