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因縁 2

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 透の言う澄原の心。

 俺はここへ来る前、凛上から事情は聞いていた。俺が追放され心を壊した透。
 その透の為に、澄原は賢明に頑張ったそうだった。悪夢を見せる力、それが澄原の力だと説明をされたが、正確には対象を眠らせて思うように動かす物だったらしい。
 それで澄原は、透を使い何とかやり過ごしていたという。
 目黒達の行っていたように、透と共にこの世界の住民を殺し始めたという。

「俺は!! 俺は由子に甘えた最悪な奴だ!!! 由子が一人耐え抜いていたのに!! 俺は!!俺は!!!」

 人を殺せば、元の世界に帰れる、透一緒に帰れると信じて。
 大司教の言葉を疑いもせず懸命になっていた。
 
 そして、あの日。
 俺と再びあいまみえた時。

「俺は!!!」
「ぐっ・・・ぺっ!!」

 強烈な一撃が顔面に入り一本抜けた歯を吐き捨てる。

「俺は!! 引き返すわけにはいかないんだよ!!!」
 
 当時、どうすればいいのかわからないという気持ちがあまりにも強大で膨れ上がった透の心は壊れかけていた
 それを支えていたのは、言うまでも無く澄原だった。

 そんな澄原にも当然限界はあった。

 俺達はただの高校生だったんだ。
 人を殺しを始め出して平気でいられる訳がない。それこそ目黒達のようにゲーム感覚でやらないと精神が擦り減るに決まっていた。

 それなのにも関わらず。

 澄原は、俺という。透の親友を殺したんだ。
 自分の手では無く、透自身の手で、殺させたのだ。

 それが引き金になり、澄原の抱えていた物が崩れ去った。崩壊するのにはあまりに十分過ぎる理由だった。


「そっか・・・」

 俺はふと、攻撃の手を緩めてしまった。

 その瞬間また俺は透に殴られ吹き飛ばされた。
 地面に叩きつけられながら転がり礼拝堂の中央で、仰向けになり俺は大の字になっていた。

 そして、息を大きく吸った。


「なぁ、俺が死んだら。お前達は救われるのか?」
「・・・そうだ。俺の未来視がそう視せた。それしかない」
「そっか・・・」

 俺はゆっくりと、手を上げ指を差す。
 それは、俺達の殴り合いを黙って見守ってくれている、メリスを差した。

「俺の奥さんすげぇ可愛いだろ?」
「は・・・?」
「・・・・・・」

 メリスは目を見開いて驚愕している。

 だが反対に透は黙って俺の言う事に耳を傾けてくれた。
 これも、いつも事だった。

 お互いが言いたいことを言ってそれをぶつけ合う。
 それが俺達。

 安堂透と刻越藍の関係だ。


「悪い透・・・お前のお願いは聞いてやれそうにないわ。俺、これから世界救ってそこのハーフエルフのメリスと一緒に居ないといけないんだわ」

 床が冷たく感じるが、俺の心はそれを凌駕する程に熱くなっているのがよくわかる。

「お前が、澄原とするようなあんな事もこんな事もしないといけないんだわ。わかるよな」
「・・・藍」

 よいしょっと、俺はゆっくりと立ち上がる。

 そしてしっかりと透を見据える。

 俺と目線が合った途端、透はすぐに身構えた。俺が今感じている物を感じ取ったのだとわかった。

「藍・・・やっぱお前すげぇわ」
「お互い様だろ、お前のおかげで俺も・・本当の意味で決心付いたよ」

 透がどれだけ澄原の事を思っていたのか俺にはきっと計り知れない。

 だが。

「俺も・・・」

 決心の一歩。俺は一度目を閉じ開いた。

 そこには俺を見て涙を流すメリスの姿。ハーフエルフの力なのか、あの時と変わらない姿でそこに存在していた。

「あなた・・一体、誰・・・なの」

 言葉では疑いが晴れない様子だがきっと感付いたのかも知れない。
 あり得ない可能性を、メリスは信じたのだ。


 もう、迷う必要は無くなった。


「透・・・。わかってるな」
「あぁ、もう四の五の言う必要はないんだな」

 多くの事を語る必要はもちろんある。

 だが、もうそんな物は、この瞬間の俺達には必要ない。

 お互いが思うお互いの大切な物。
 それは、決して他人の為なんていう綺麗事だけで片付けられる物じゃない。

 男として欲、願望。
 ありとあらゆる要素がこれには含まれている。馬鹿げていると笑う者も必ずいる、くだらないと投げ捨てる者もいるだろう。

 それでも、俺達は・・・それを譲る気はない。


「行くぞ、透」
「来いよ・・・藍!!!」

 負ければ全て終わり。
 勝てば全てを得られる。

 刻印も魔法も。過去も未来も、関係ない。

 今。

 今この瞬間は、ただ相手を捻じ伏せるだけだ。


バァアアアアアアアアアアンッッ!!!!!


 俺の拳は透の頭に、透の拳は俺の頭に、ぶつかり合う。
 衝突音とその余波が辺りを震撼させた。

 だが、まだこれは挨拶に過ぎない。

「こん!! のぉおおー!!!」

 体勢を強引に変え、俺は飛んで顔面目掛けて透を蹴り飛ばす。

「ぐぅ・・!!」

 俺の蹴りが入る寸前。透は両手を頭へと動かし防御姿勢を取りダメージを軽減したようだが。
 受け身を上手く取れず床に転がる。

 起き上がる隙は、与えない。

「おらぁあああ!!!!」

 拳を構えながら飛び付いて寝転んだ透目掛けて拳を振り下ろす。が、寸前で避けられ虚しく地面が粉々に吹き飛んだ。

 俺は拳を地面に付き立てまま宙に浮いている。
 その隙を当然透は逃すはずも無かった。

「ぐはぁ!!!」

 強烈なら蹴りが腹部に減り込んだ。確実に内蔵が行き場を彷徨い衝突しまくっている。

 おかげでとんでも無い量の吐血、口に血の味が物凄く広がる。

「もらっ――!!」
「まだぁー!!!」

 そう簡単にやらせるわけが無い。
 体勢を崩し膝を付く俺をサッカーボールに見立てているのか知らないが、透は蹴り飛ばそうとする姿勢でいた。

 俺が蹴られる瞬間、両手で蹴る足に抱き付く。
 そしてそのまま俺の全身を使って姿勢を回転させる。

「ぐぅうぅぅううう!!!!」

 痛みに耐える透の悲痛の声が耳に入る。
 寸前で俺が回る方向に体を傾けて致命傷を回避したようだが、ダメージは十分だ。

「うらぁあああ!!!!」

 透の足を抱えたまま、一回転振り回し近い壁に放り投げて激突させた。

 それと同時に俺の口からまた血が大量に吐かれた。
 腹部への痛みが予想以上に来ているのがよくわかる、痛いくらいにっていうか痛いから。

「はぁはぁ・・・はぁ」

「ぜぇぜぇ・・ぜぇ」

 壁を破壊する程に激突させたのにも関わらず透は立ち上がってこちらへ歩み寄ってくる。

 へっ、でも足はかなりガタが来ているのを隠せないでいた。

「うぅあ!!!」
「おぉあ!!!」

 それでもお互い拳を振り被って殴り付ける。

 相手の攻撃を避け、ありとあらゆる箇所を殴る。
 殴る度にスタミナが消耗されていくことをお構いなしに。

 ガツガツと何度も何度も。

 相手が、倒れるまで。


 自分が立ち続ける為に。


「ぜぇぜぇ・・おあぁああああああ!!!!」

「はぁはぁ・・うぉぉああああああ!!!!」


 これが最後だと。なんて言葉は必要無い。

 ボコボコの表情を見せ合うのはもう終わりだった。

 最後に立っているのは、自分だと信じて・・・。


「俺・・の・・・勝ちだ。透・・・」


 決め手は呆気の無い物だった。
 最後の最後に透の拳を寸前で潜り込むように避け、俺は、自分の拳を胸部へと届かせた。

 決着が付いた。
 俺は、その一瞬だけ世界が静止したかのように魅せられた・・・。

  
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