上 下
39 / 51

因縁 1

しおりを挟む

 俺の声は・・届いている。
 
 目の前で息を荒くしている透と目が合う。

 そして、大きく息を吸うと同時に透は表情を一変させた。


「やっぱ・・・気が付いてたか藍」
「あぁ、あの時から。お前手加減してたんだろう」
「ふっ、そうでも無いけどな」


 俺の知る透。
 澄原にずっと悪夢を見せられていた時の獣のような仕草はもうそこには無かった。

 演技だった。
 何処から何処までなんて俺にはわからない。だが俺と再会した時には恐らくもう澄原の人形を演じていたのだろう。


「澄原の為・・・か」


 そう俺が呟いた瞬間だった。
 一瞬で俺との距離詰めてきた。

 透の拳が俺の顔面目掛けて振り被られた。

「ちっ・・・!」

 瞬時に俺は剣で防いだ。
 普通の人相手なら恐らくやられていた。だが相手が相手だった。

 親友の透、親友だからこそだった。
 いくら俺も力を付けたからと言って心構えは変わらない。

 親友だからこそ、一切の気も許してはならないと。


「あぁ! そうだ!! 澄原と・・・俺と!! 二人の為のな!!」


 防いだ俺の剣を掴み取り、俺ごとぶん回しす。されるがままに抵抗出来ず俺は壁へ投げ付けられ激突する。

「二人の為・・・か、お前らしからぬ事言うじゃないか。随分と様変わりしたじゃないか透」

「!!!! 藍ぃぃいぃいいいー!!!!」

 何事もなかったかのように立ち上がる俺に透は血相を変えて飛び付いてくる。

「メリス!! 預かっててくれ!!」
「えっ!? な、なんで!!?」

 俺は剣をメリスに投げて渡した。

 そして透と同じように両手を光らせた。

「ぐぅぅ!!!」
「がぁぁ!!!」

 お互いの拳が顔面に減り込む。
 こんな事は過去に多くやってきたことだ、事あるごとに俺達は喧嘩をしている。他のクラスメイトは知らないだろうが、意外に俺達は馬が合うようで合わず、こうして殴り合うことが多くあったのだった。

「てめぇ等の都合で殺され掛ける身にもなってみろよな!!!」
「うるせぇー!! 何も知らない癖に!!!」
「はなから何も知らねぇんだよ!!」

 殴り合いは続く、お互いがお互い身体強化をしている。
 攻撃を上げた拳は強化された防御力で相殺しあっているのがわかる。それは恐らく透も同じだ。

 刻印の力が偉大なら、俺の培ってきた経験の魔力も決して引きを取らない。

「透! お前まさか、まだ俺が犯人だって。この世界に来てしまった原因が俺だって、そんな事言うんじゃないだろうな!!」
「そんな訳あるか!!」

 透の頭突きが俺の頭にクリーンヒットする。
 どれだけ石頭なんだこいつ。

 でもまあ、二人して同じように思っているはずだ。
 その証拠にお互い頭から血を垂らして睨み合う。

「いいかよく聞け藍! 俺達はな!! 俺達の転移は間違いだったんだよ!!」

 間違いだった?

 透の言葉が一瞬わからず思考を停止してしまった。その隙を付かれ俺は胸倉を掴まれそのまま地面に倒された。

「ふはははっははははは!! そうなんですよね! あなた達はふはは・・・あははははっは!!!」

 俺達が殴り合っているのを見て高笑いをしているのは、大司教だった。
 そんな耳に入れたくも無い声が頭に突き刺さり刺激した。透の言っている事を意味。

「まさか・・・"事故"なんて言うんじゃないだろうな」
「そうだ・・・!! 俺達は間違ってこんな世界に来ちまったんだよ!! 大司教が呼び出そうとしていたのは俺達じゃない!!」

 それを聞いて。俺は頭がおかしくなりそうになった。
 何がどうなってるのか、俺が最初にこの世界に来てからわからない事だらけで今もそうだったと改めて実感した。

 この白昼夢のせいだとばかり思っていた。
 何のゆかりも無いみんなを巻き込んでしまったのでは無いかと。


「だから言ってるじゃないですか、私の目的は・・・邪災神の復活だと!! まさか、復活の儀式でふふふふ、こんな! こんな出来損ないのガキ共が転移してくるなんて、誰が予想出来たっていうんだ!!」

 豹変したかのように大司教はキレ散らかし始めた。

「パンドラに記された通りの儀式で邪災獣は復活するはずだった!! 復活するはずだったのに!! それなのに訳のわからんガキ共が現れてその世話なんてさせられて・・・私の気持ち、わかりますか??」
 
 豹変したと思ったら次は涙を流し出す。なんて情緒不安定なんだあの大司教とか言う奴は。

「だから、もう俺達は帰れないんだ」
「なら、何でみんなに人殺しなんてさせ――っ!?」

 俺が口にする事をわかっていたのか。
 透の目からは悔し涙が零れ落ちていた。

「透・・・」

 名前を呟いた途端に俺は投げられた。俺にその表情を見せないかのように悟られないように。

 もうその行動でわかってしまった。

「だ、大丈夫」

 ズサーっと地面を転がりメリスの足元まで飛ばされた俺は、手で大丈夫だと告げるだけに済ませた。

 透、お前・・・。
 何で泣いてるんだよ。何でそんな面見せてるんだよ。


「いいか藍、俺達はこの世界では異物なんだ。異物の俺達には、元々生き残る術はほぼ無かったんだ。何をどうしても・・異物の俺達はこの世界から食み出される」

 抵抗は出来ない。その悔やみ。
 刻印という力を持ってしても、いや持ってるからこそ透にはわかってしまったのだろう。

 自分達の未来が。

「なのに俺は由子を・・・!! 一番大切にしなきゃならない由子の心を壊させちまったんだ・・・だから!!!」

「だから、俺を殺すのか」

「そうだ!! それしか俺と由子が生き延びる方法が無いんだよ!!!」

 再び透が俺に飛び掛かる。
 拳は震えながらも確実に俺へと届いていた。

 当然俺も反撃して殴り合いが再開されるたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...