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抑止 2
しおりを挟む「ふぅ・・さてと」
曾孫さんに魔法を教えてから俺は本部の中に入って行った。
なんだかあの後、曾孫さんの姿を見た大人達が次々とモンスターに立ち向かおうとし始めた。
我が身大事の自分達を恥じたのだろう。俺の声掛けに応じたのはたった一人の年端もいかない少年だったのだから。
まあ、熱苦しいあの人が曾爺さんって言われたら何となく納得出来た。
とにかく正義感の強い人だった、逃げるよりも人を逃がす方が似合うような姿はなんだか受け継がれているようにも思えた。
子供の子供か。
なんだか色々考えさせられてしまうな。
「嘘っ・・・藍君!?」
本部を歩いていると俺は名を呼ばれた。
つい剣を握り身構えてしまったが、すぐにそれは解けた。
「凛上・・・なのか」
「そうだよ・・・そうだよ!!!」
瞳に溜め込んだ涙を決壊させたかのように泣きじゃくり俺に抱き付いてきた。
「無事でよかった・・・本当に」
なんて返せばいいのか全く思い付かなかった。
普通ならここで背中をさすったりして慰めてやるのが定番なのだろうが、今そんな感動に浸れる気になれなかった。
「みんなは、透達は!?」
「それが・・・」
凛上は混乱しているのか、上手く説明でき無さそうにしていた。
とにかく、こっちへと。俺は凛上に案内されるように本部の中に更に入って行った。
禍々しい魔力が所狭しと感じる。
普通なら気が狂いそうになるが、凛上もまた刻印の力でそれを跳ね退けているのだろう。
走りながら凛上の後を追っていると所々に騎士達が倒れている光景を目にした。
何かと戦っていたようには見えない。どちらかというと、何かを吸い取られたかのような・・・。
「ここ・・・」
そこは何の変哲も無い一室。
扉を凛上が開け中に入るように促された。ふと凛上を見ると凛上は今にも泣きそうな表情を浮かべながら目を背けていた。
中には一体何が。
俺は、意を決して・・・中に入った。
「・・・っ!」
中は綺麗に纏まっていた。特別な物なんて何一つなかったが、一番最初に目にしたのは大きなベッド。
そしてそのベッドには、一人の少女が横になっていた。
「澄原・・・」
透の彼女。そして俺を一度殺そうとした俺の友達の一人。
そんな彼女の体は、黒い粒子に覆われ半透明な姿で苦しんでいた・・・。
・ ・ ・
藍が宝華と共に澄原由子の部屋向かっていた時。
礼拝堂では、大司教がとある儀式を進めていた。
「満ちて行く・・・! これが世界の理、これが真理!! そうでしたか、世界は元々・・・世界はもはや存在しなかったというのですね!!」
両手を高らかに上げパンドラに集まる黒い粒子を自らに少しずつ取り込もうとしていた。
白い大きなローブは黒い粒子の影響を受けてか黒く染まり始めていた。
「なのに・・・。なのにあなた方は、そんな世界を救ってしまったというのですね」
「戯言は聞き飽きたわ。随分と手こずらせてくれたじゃない」
たった一人礼拝堂に踏み入れたのは、ボロボロになっているメリスだった。
メリスはここへ来るまでの間、多くのモンスターと戦っていたのだった。
この礼拝堂に通じる通路、その扉が開けられる度に見知らぬ場所へと放り出されていた。
「お気に召しませんでしたか? あなたの為に用意した幻覚結界魔法、大変だったのですよ?」
「何度も言わせないで、戯言は聞き飽きたと。これ以上、何をしようっていうの!!」
弓剣を構えた途端に大司教は高笑いをし出した。
「何を? ですって!? これは異な事、そんな物決まってるではありませんか! 世界の救済に決まってるじゃないですか!!!」
今までの不敵な笑みを浮かべていた者とは打って変わり大司教は盛大に表情を変えていた。
そんな大司教を見たメリスもついに堪忍袋の緒が切れたかのように、怒り狂う。
「"邪災獣の復活"なんて!!! それの何処が救済だと言うの!! あなたがやろうとしている事は真逆の行為よ!!!」
「いいえ、正当な行為です。確信したのですよ私は、この刻印の力だ視せたのですよ! 私の行為が正しいと!!!」
刻印が光り輝く。
あまりの眩しさにメリスは目を細める。
光が収まった途端に見た大司教の姿にメリスは驚愕した。
右腕に刻まれているはずの刻印、それが首から顔にまで及んでいた。
恐らく、大司教の全体に刻まれていると容易に想像出来た。
「世界終焉。それは、人々が神を不要と定めた結末なのです。だから神はその慈悲深い心を持って人々から離れて行った。それが終わりの始まりなのです」
まるで教壇から教えを告げる聖職者のように、大司教は語り出した。
「必要なのはそう、信仰心。未来永劫、我々には神が必要不可欠なのです。子が常に親を必要とするのと同じように」
「その為の・・・邪災獣」
「その通り、世界の救済には最悪が必要。人々には今・・・絶望が必要なのですよ」
大司教の目的が今明らかになった。
邪災獣の復活。それはメリスと前世の藍が仲間達と共に命を掛けて封じ込めた世界の天敵。
ただ破壊の限りを尽くす存在。そこに国家や人種などという人々が抱えていた問題など介入する余地も無い物。
邪悪な災害。世界の終わりを告げたとされる大事件だった。
そして今、それを抑えた一人であるメリスの前でその邪災獣を復活されようとしていた。
理由は世界を救う為だと大司教は口にする。
世界を救う為に、世界を脅かすと。
「あなたは・・・邪災獣の事を何も知らなさ過ぎる、あまりにも悠長だわ」
「何を言うかと思えば、年寄り臭いお説教ですか?」
「あれはあなたなんかが思っている物では無いわ、あれはこの世界に居てはならない物、世界を蝕み、破壊し尽くすだけのモノ。それ託けて救いなんていう要因が入るはずもないのよ」
思い出すかのようにメリスは語る。
邪災獣との戦いまでに多くの者達と戦ってきた。
人間、モンスター、災害。ありとあらゆるモノに自分達は立ち向かいどうにか事を進めてきたはずだった。
だが邪災獣は違う。
その存在自体が世界にとっての破壊の象徴。自分達が何をしようが破壊の限りを作る化け物。
それには何も無い、ただ息を吸うように世界を蝕むだけの存在。
人の意思、神の意思など何の役にも立たない。その事実だけを付き付ける。
「まだ、間に合います。これ以上愚かな行為はやめなさい」
「愚かかどうかはあなたが決める事では無い・・・神が決める事なのですよ」
そう・・・。
何か淡い期待をしていたのかと、メリスは気を落とした。
間違いを正したい、そんな考えはとっくに捨てたはずだったが名残が残っていた自分に少し嫌気が差した。
だが、もう不要だ。
そう覚悟決め、弓剣を握りしめた。
もう、何も言う事はないと、飛び出したのだった。
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