何ノ為の王達ヴェアリアス

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第28話 行き止まりの進み方

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「それはあまりにも必然な事・・・」

   下水道の地下。ゼッガがちょうど王城に到着したくらいの時間帯。
   ゲヌファーが終戦協定に関して語っていた時と同時期。
   先生は1人、その会合の画面を見て呟いていたのだった。

   そして勝手に息を整え語り出す。

「降臨戦争の跡地、それが王都アルバス。常に最前線で竜と戦い、そして終息へと導く事が出来たのも現王含め当時の勇敢ある者達の尽力があったからこそ、そしてその産物はあまりにも大きい物だった。他国、王都アルバスに住む者以外が魅了され目の色を変えるほどに」

   その正体は、今となっては誰もが使う事の出来る魔力。

   降臨戦争当時にも魔力という異業を扱う事が出来る者達は居て、軋轢が生まれなかったわけでは無い。
   しかし戦後とでは話は変わった。本当の意味で誰でも使えるようになった魔力は次第に全ての生きる者に必要不可欠な存在へと変わっていった。

   これで全て丸く収まった。
   本来であればその結果に皆が納得するはずだったが、胃を唱え、他の国よりも魔力の存在をいち早く認知し活用していた当時の王都アルバスに一石を投じたのは数年後の帝国だった。

「人の竜のいざこざが終わったと思ったら、今度は人同士のいざこざ。君はどう思うよ・・・ルジェ嬢」
「・・・・・・」

   先生は、下水道に戻ってから倒れ込むようにソファに寝転ぶルジェに話しかけた。
   転移からここまで、ルジェはずっと口も開かずにただずっと焦点の合わない眼差しで虚空を見つめ続けていた。

   そんなルジェにようやく反応があった。
   ソファを立ち上がり、先生を見る。

「人間は欲深く、哀れな生き物。だから・・・でしょ」

   しかしフードを被ったままの姿で先生からその表情を読み取る事は出来なかった。

「欲深いかぁ・・・。本当にそうなのかなー?」
「何」
「いや、別にー・・・あまりそう思えないってだけなんだけどねー」
「そう」

   それを最後にルジェは自室に籠るかの如く、その場を後にした。
   先生は止める事無く、再び画面へと視線を移した。

「でもまぁ、我が子達は欲深くて結構結構。たくさん悩んで悩んで、悩み切りたまえ。それがきっと・・・人なのだから」









      先生が無駄口を叩いている最中も、ゲヌファーとの会合は続いている。

「帝国は、これ以上の抗争を望んでいない。その為、帝国は王都アルバスに対して友好国として招き入れたいという事らしい。それで間違い無いですねゲヌファー殿」
「あぁ、あくまで対等の立場。ゆうなれば苦難を共に乗り越えた友人以上の関係さ」

   鼻高く宣言するゲヌファーにゼッガは冷めきった目を向けた。
   友好国とゲヌファーは語った、勝手に自分達は対等であると、勝手に吹っかけておいて何を言っているのかと、違う意味で本気この馬鹿を殺してやろうかと考えてしまうゼッガ。
   そんな様子を説明を終えてないアストは鼻で笑いながらもさらに続けた。

「だけど、私達が行った抗争。それで、もたらされた互いの被害を重んじて以下の条件をゲヌファー殿は提示されたのさ」
「は?」

   またしてもゼッガの表情が変わった。
   まだ提示されたという条件を聞いていないのにも関わらず、ゼッガの多くの意味を込めた目線は、未だに鼻高く踏ん反り返っていた。

「まず1つ。王位継承4位のゼッガ、君の身柄を帝国へと受け渡す事」
「はッ・・そんなこったろうと思ったぜ」
「待て待てまだ、話は終わっていない」
「あん?」

   目付きが悪いままアストに目線を送るゼッガ。アストと目が合うとアストは一度深く目を閉じた。
   ゼッガは、察した。そっちが本命である事を。

「2つ目。昨今話題の”感染者を戻す力”その譲渡だ」

   アストは目を閉じたまま説明を終えた余韻に浸る様にして静寂を作り出した。

   帝国から出された条件は2つ。
   それが王都との抗争を終える為の物。

   誰も何も言わない沈黙が続く。
   そんな静寂を破ったのは、ゲヌファーだった。

「母国からはこの2つが絶対条件と言われている。しかしねー、私はそうじゃ無い、兵をまとめ上げる将軍として、民を纏める王子として、そして何よりも、君達王都の者達を誰よりも理解している友として」

   あまりにも胡散臭い演技にゼッガは再び怒りを覚えてしまう。

「どちらか1つでも構わないよ。それが私から出来る譲歩であり、君達への友好の証として受け取ってくれたまえ! あはははははははッ!」

   ゲヌファーの馬鹿を見せるような高笑いが、部屋に響きみな言葉を失っていた。
   終戦協定の条件は当然の様に王都側が不利な条件であった。
   ゼッガの身柄、そして名が出されていない感染者を治す力、インジュのいずれかを帝国に差し出すという物。
   あまりにも馬鹿げている内容、それがみなの言葉を失わせているという事はゼッガでもわかっていた。
   それがわかっていたこそゼッガは動いた。ここへ来た理由、ネゼリアから告げられた言葉。その真偽を確認する為に。

「本当にこんなアホみたいな事、承諾すんのかよ。アスト」
「・・・・・・」
「俺がこの馬鹿をぶっ殺して帝国に首を差し出してきったっていいんだぞ」

   アストの机を叩き、鈍い音が部屋に響く。
   見開いたゼッガの目はアストを捉え続ける。未だに目を閉じ続けるアストの真意の確認。
   自分が命乞いをしたい訳では無い。ただ何を考えて帝国の馬鹿話を飲み込む判断をするのかを問い詰めるしかなかった。

「私の・・・私の視ている物は何も変わらないよゼッガ」

   ゆっくりと開かれたアストの瞳は、真っ直ぐとゼッガを見つめた。

「アストッ!!!」

   アストの名を叫ぶと同時に机が破壊された。手を乗せていただけの状態から怒りをぶつけてしまった。
   滾る怒りを抑えるゼッガは自らを抑え込むかのように震えていた。

   ゼッガにとってアストという人物は、付き合いの長い友人にも思えたほどの者。全てを理解していると大それた事を言うつもりは無いが他の人間以上には王位継承1位と呼ばれるアストの事情を知っているはずだと自負していた。
   だからこそ、今この瞬間のアストの判断を認めるわけにはいかない。
   真意が何なのかを聞かなくてはいけなかった。

「・・・くそッ」

   踵を返すゼッガは、この場にもう用は無いと部屋を後にしようとする。
   出入り口の扉に手をかけた時、振り向く事も無く、ゼッガはこの場にいる者全員に告げたのだった。

「いいか、てめぇー等。ぜってぇ・・邪魔すんじゃねぇーぞ」

   ゼッガの言葉を止める者もいなければ、拒む者もいなかった。

   帝国との会合。
   ゼッガの退室で終わりを告げた。

   帝国と王都アルバス。
   短いとは言えない因縁に終止符が打たれる時がきたのだった。どれだけの者がそれを望んでいたのか計り知れない。
   多くの命は失われてしまった事実は変えられない、しかしこれからは、これからの命は間違い無く救われる。

   しかしゼッガにはそう思えなかった。
   決して帝国とこのまま争い続けても良いという訳では無い。ゼッガの考えはもっと別にあった。

「理・・・世界の為・・・。ふざけやがって」

   ゼッガが口にした呪文にも似た言葉。
   それは王位継承の資格を持つ者が揃って口にする言葉である。

   改めて口にしたそれに、多くを考えさせられるゼッガだった・・・。









   帰りの遅い息子。
   その様な勝手な物言いで言われている事なんて知る由も無くただ1人、インジュは険しい顔のまま街を歩いていた。

「おいおい、あれ見ろよ!」
「ダークエルフ・・まさかあの!?」
「先日、俺の友人も助けてもらったんだよ!」


   リ・ライゼーション。
   その力を扱う事が出来る様になってからのインジュは、今の今まで感染者の対応に追われる数日を送っていたのだった。
   自主的に警護団と連携を取り、東西南北関係無く感染者が現れればその力を使い、感染者を元の人間へと戻していたのだった。

「インジュさーん!」

   下を向いて歩いていたインジュを呼ぶ声。
   インジュは顔を上げ自分の名前を呼ぶ方へと視線を向けると、そこには手を振る者が。

「カ、カルスさん!?」
「お久しぶりです! って言ってもお見舞いに来てくれた時以来ですが」

   カルスがインジュのもとに駆け寄るよりも早くにインジュはカルスへと近付く。
   そしてカルスの格好を見て驚きながらも目を泳がせていた。

「おいっカルス! エメラルドソーダ無かったから、ルビートマト・・・ってインジュさん!!」

   お店から出て来たのは、飲み物を2つ持っているデドだった。
   そんなデドの格好をも見てインジュは更に驚く。

   そう、2人は・・・私服だった。

「ぁあ・・やっぱりこの格好変ですよね」
「えッ!!? あいやそんな事は全く無くてその2人のそのえっとあの服というか何と言いますか」
「ははははっ、冗談ですよ。あの時私の裸見たのに何を今更」

   あの時。そのワードでついインジュは思い出してしまう。
   当時はそんな事を考える余裕は無かった。しかし、当時の奇跡的な感動を思い出す度にインジュは顔を赤らめるばかりだった。

「自分も驚きましたよ。まさかカルスが”女”だったなんて」
「しょうがないだろ、警護団に入るのに何かと不自由だったんだから。ま、その後のデド副班長の反応は面白かったですけど」
「お前ッ! インジュさんの前で余計な事を」

   突然ワチャワチャし始めてインジュは目を点にしてその光景を見ていた。
   正直頭の中では色々な事が浮かび上がるも、何を口にしていいのかという事で固まってしまっていた。

「それにインジュさん、改めてありがとうございます。私を助けてくれた事、それとあの器具・・えっと」
「ウィザライトな。私からも礼を言わせて下さい、おかげで自分達だけでも”感染者の治療”が可能になったのですから」

   デドの言う感染者の治療。インジュが感染者を元に戻す事が出来る力の産物。インジュが初めて開発したウィザライトであった。

   誰でも感染者を元の人間に戻す事が出来るウィザライトであるが、その効力にはまだ課題が山積みであった。
   インジュの力の様に即効性のあるモノでは無いのが1番の難題であり、それを真似てしまうと相応の魔力と時間が必要になってしまう。故にインジュが1番に作ったのは”誰でも”というコンセプトで開発を進めたのだった。

「本当に凄い器具ですけど、個人的に1番の効力は、感染者相手に対して感染を防ぐ力。おかげで、感染を恐れずに戦えます!」

   カルスは男勝りな部分を隠す事も無く心強い事を口にしていた。
   しかしそれを聞かされたインジュは苦笑いを浮かべてしまうが、デドがカルスの頭を叩き説教を始めた。

「これ以上馬鹿な真似なんてさせられるか! お前は当分安静! それにウィザライトは警護団で厳重も厳重に、外に漏れないようにするのが1番なんだ! お前みたいなのが簡単に使えると思うな!!」

   情報漏洩の危惧。
   デドが言うのはウィザライトと言う物の大切さを説いていた。
   インジュは確かに対感染者用のウィザライトの開発を急ぎ、警護団に複数譲渡した。

   いの一番にインジュが説明に赴いたのは目の前にいるデドだった。
   あの会見事件の時に自分を助けてくれたデドを信じ、話を持ち掛けた。
   当然自分達のような者達でも感染者を元に戻す事が出来るのであれば願ったり叶ったりではあるとデドは話した。
   しかし聞き始め当初のデドは二つ返事で承諾する事は無かった。

   それからデドはカルスとインジュに起きた事情をカルス本人から聞き全てを把握した上でインジュの窓口になる決意をしてくれたのだった。
   その時のデドはカルスの裏切り行為をこれでもかという程に詫びを入れたのはまた別の話であり。

「あの・・・デドさん」
「声大きいぞー」
「あッ・・・!」

   一気に顔を真っ赤にするデドを見てカルスは大爆笑をしてしまっていた。
   再び、夫婦漫才の如く会話が弾み続けていた。


   インジュの瞳に映る光景は、あまりにも眩しく。ふと、笑みを浮かべるのであった。

「インジュさん!」
「え? はい」
「何があったのかは聞きません。ですけど」

   インジュを呼んだカルスはデドの方を見る。そしてデドもカルスを見て頷き、真っ直ぐな目でインジュを見る。

「何があろうと。自分達は貴方の味方であり続けます。なのでどうか胸を張って下さい」
「私は、今でも第3位様に言った事を覆すつもりはありません。ですが、この救ってくれた命、もう粗末に扱うつもりもありません」

   カルスの眼差しがインジュへと向けられる。
   愚かな自分を今でも恥じている、けれど腐る事を許してはならないと、カルスは誓っていた。男性と偽るのをやめたのもその表れなのかは、本人にしかわからない。

「カルスさん・・デドさん・・・」

   2人の気持ちは大きかった。
   今にも目を閉じたくなる想いを堪え、インジュは大きく息を吸った。

   一切の結論もこれから示しも、何もかも決まっていない。
   デドは何があったのかは聞かないと言った。インジュにとってその言葉だけで十分だった。
   カルスには多くを感謝された。インジュの感じていた罪悪感を塗り潰すほどの感謝をもらった。

   2人の歪みのない直線的な想いは、インジュに真っ直ぐと突き刺さった。



「ありが・・・ありがとうございますッ!!!!」

   これ以上の上手い言葉を吐き出す事は出来なかった。
   まるで子供の様に、昔の自分に戻った様に、けれど確実に積まれたモノをしっかりと踏み締め様にインジュは我先に駆け出した。

    決意だけでも胸に抱き、転ぶ恐怖を抱き、インジュはただ走っていったのだった。



   我武者羅に人混みを走り抜けるインジュを、カルスとデドはずっと見守り続けるのであった・・・。
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