何ノ為の王達ヴェアリアス

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第9話 亡命と遭遇に確信

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   攻略法。
   それを見つけたインジュとゼッガに対し、二人の敵である感染者は成す術もないのは言うまでもなかった。
   肉体は同じ二つ、けれどその数的対等は何の意味を為さなかった。

「完全再生が済んだら僕が拘束します」
「タイミングは俺が合わせてやるよ!」

   ゼッガは大斧を改めて構え直す。そしてインジュもウィザライトの出力を上げその瞬間を見極める。

「今だ。アブソリード・・・フルバインド!!」

   光鎖がウィザライトから放たれる。その圧倒的な迫力に一瞬だけゼッガは目を見開いた。自分が見た事の無い未知数の力、それが今目の前で展開した。

   ゼッガは大斧を足元に振り降ろす。
   負けらていられない、ガキと呼ぶダークエルフに見せ付けられたままではいられない。もはや目の前の感染者なんてどうでも良いという気持ちが勝ってします。

「・・・・に・い、・・の・に!」

   ゼッガは小さく呟いた。その瞬間地面から魔力が溢れ出すようにゼッガの大斧に呼び集められ、次第にゼッガの身体にまで魔力が浸透を始めていた。
  
「まさか・・・龍脈の同調!?」
「ほぉう、ただの馬鹿では無いようだねーこれは」
「はっ! 見せてせっかくだから見せてやろうってんだよ!!」

   魔力に満ち溢れる大斧に力を込めるゼッガ。隣に立っているインジュが大勢を崩す程の振動、大地を揺れ動かしていた。ゼッガの力はもはや自らに流れる魔力だけでは無い。インジュと共に立っている周囲の龍脈をも自らの力に変えていた。

   周囲から更に光の粒子が飛び交う。
   そして魔力が、龍脈が雄叫びを上げていた。

「沈下・・・爆参!!!」

   ゼッガの一撃。振り下ろされる大斧、振り下ろされた先にはもはや語る事の出来ない物が生まれるだけ。
   敵の叫びも、悲痛も無い、ただ全てを奪うだけの絶対的な力。

   そんな物を目にした者は言葉を失うしかなかった。

「なぁぁああああー!!! 被験サンプルがぁああああー!!!」
「耳元で叫ばないで下さいって、ビックリしたぁ」

   正気を失う程の光景を目の当たりにしたインジュが目を覚ましたのは先生の悲痛な叫びであった。

「はっ! 先に言わなかったてめぇが悪いな、まぁ言われたところで手加減なんて物は俺の選択肢には無いけどな」
「あぁああー馬鹿を通り越して脳筋だったぁあー!! 思考放棄主義の糞垂らしかよぉおー!!」
「てめぇー!! 誰がお漏らししょんべん小僧野郎だもういっぺん言ってみろ!!」

   またしても立体映像の先生とゼッガは喧嘩を始めてしまう。そんな光景をインジュはただ苦笑いを浮かべるしか出来ないでいた。

   北区での感染者との戦いは、決して人が一撃で作ったとは思えない大きさのクレーターを残し無事?に終わった。
   結局何があったのか、インジュはため息を吐いたが。それを見たゼッガは喧嘩をやめて言い放った。

「何を落ち込んでるのか知らねぇーが。明らかに逃げ出した奴等追わなくていいのか」
「ッ!!!」

   ゼッガの言葉に顔を上げるインジュ。
   まだ・・・終わっていない、と。

「先生!!」
「補足してる、今視覚情報に移すぞ」
「なんだこれ!? てめぇ勝手に俺の魔力に割り込みやがったな!」

   インジュはすぐに飛び立つ、それを追うようにゼッガも先生が送った位置情報へと向かうように飛び立った。
   遠隔音声も3人共有し目標へと高速で接近する。相手はただ北区の町中を逃げる様に地を走るも、インジュとゼッガの二人の速度には到底及ばず視界に捉えられていた。

「逃がしゃしねぇーぞ雑魚共!!」
「投降願います。僕は・・・僕達は争う気はありません」

   「あん?」とゼッガはインジュを見るが、インジュは申し訳無さそうな顔で懇願した。舌打ちしながらもゼッガは構えた斧を収める。

「お、お前ら! 話に聞いてた奴じゃないな!? 一体何なんだ!!」

   インジュ達が立ちはだかる者達は旅人のような洋装を纏い怯えていた。自体が飲み込めない、そんな様子を察すしてインジュは自らの震えに喝を入れ一歩踏み出す。

「いや、俺が話す。お前は少し待て」

   インジュの肩に触れ止め、ゼッガが前に出た。斧を肩に乗せ完全に脅しているかのような格好で怯える者達の前に立つ。

「テメェーら、帝国の人間だろう? しかも兵隊あがりの」
「な、何を証拠に」
「臭うんだよ、そんな寄せ集めの服装で騙そうったって俺にはわかるんだよ。何たってつい最近まで前線でやり合ってたんだからな」

   また一歩、ゼッガが踏み出す。その姿を見た一人の女が口を震わせた。

「あんたまさか・・・アルバスの!?」
「それなりに有名だと自負してたが、安心したぜ。しっかりと”刻み込まれて”てな?」
「貴様が! 貴様が・・・同胞の仇ッ!!」
「よせ!! 我々はここへ戦いに来たのではない! その事を忘れるな!」

   ゼッガの存在を認識し頭に血が上った若い男を制止する。あまりにも反応がバラバラだった。ゼッガの存在に震え顔を出さない者も入れば、若い男のように殺意が剥き出しになっている者。
   そして・・・。

「ぁぁ・・! やっぱりはぁ・・罠・・・こんなぁ・・!」

   息が上がり続け呼吸すらままならない者もいた。もはや自らの震えを抑えることすら叶わず今にも吐き出しそうな血相で男は・・・懐から何かを取り出した。

「おい!それは!!」
「馬鹿やめろ!!」

   同じ仲間達から引き止める声が上がる。

「あぁぁあ!!あぁああああああああ!!!」

   言葉にならない慟哭と共に口を大きく開く。
   極度に震え上がった手が口へと近付く。

「・・・ぁ」

   男は自分の腕がこれ以上口に近付かない事に目を見開いた。
   目に映ったのは光鎖。光る鎖が腕に締め上げ止めていた。

「何をするのかわかりませんが、僕達の・・・僕の話を聞いて頂けませんか」

   真っ直ぐな瞳。自分を制止した小さな身体のダークエルフを見て男は崩れるように意識を失った。
   すぐに仲間達は倒れた男へ駆け寄る。息はしている、ただ気絶しているだけだった。

「雑ー魚雑ー魚、コミュ力雑ー魚」
「チッ!!」

   選手交代とでも言うかのようにゼッガはインジュに任せるように一歩引き、入れ替わるようにインジュがリーダー格の者へと歩み寄る。

「僕は、インジュと言います。とある人物の動向を探る為にここへ来ました」

   インジュはただ警戒心を持たれないように精一杯振る舞った。目の前にいるのは帝国出身の者、王都アルバスの外から来た人物達。どうゆう形で話を聞いていけばいいか思考を巡らせる程にインジュは冷静で入られた。恐らくゼッガの傍若無人な姿を見て緊張が消えた、ゼッガは狙ってやった・・・のだきっとと思った事は口にしなかった。

「さっきの騒ぎ、感染者の件だけでも何があったのか教えてもらえませんか」
「感染者・・・感染者だと!!?」

   若い男が再び熱くなり声を上げた。

「あれは、お前らアルバスの策略だったんだろ!! 俺達帝国を何だと思って!!」
「策略・・・!? ちょっと待って下さい!一体何が!」
「黙れ! これ以上は騙されないぞ!!」

   リーダー格の制止を振り切り、剣を抜く。男は地面を蹴ってインジュへと駆け出す。
   振り上げられた剣がインジュへと向かう。
   話し合いをしたかった、自分は何か間違えたのか、一体彼らの身に何が起こったのか。雑念がインジュを鈍らせる。
   気を取り戻した時にはもう目の前まで男が走って来てしまっていた。

「両者共控えろ!!!」

   風に乗る言葉が世界を制止させた。その一瞬はあまりにも長くインジュを釘付けにした。目の前で男が自分に剣を振り下ろそうとしている姿が目に焼き付いていた。

「これ以上続けると言うのであれば、王位継承3位であるルージェルト様の顔に泥を塗る事となると知れ!」

   帝国の者達の背後からその声の主が悠々と歩み寄って来た。

「おぉ! センナ殿!」
「到着に遅れ申し訳ありませんでした。この謝罪は後ほど」
「いえ、これで我々も安心出来ました。バルグ卿もご一緒とは痛み入ります」
「不測の事態にも関わらず良くぞご無事で、あなた方に何かあればルージェルト様に申し訳が立ちません故」

   ルージェルトの側近であるセンナ、そしてバルグ新部長の登場により空気は一変した。
   インジュに斬りかかろうとした男も何事もなかったかのように剣を収める仲間の下に戻って行った。

「ほぉ、ゼッガ殿がこちらにおいでになっているとは聞いておりませんでした」
「白々しい、テメェーらの主人様が俺の動向を知らねーわけねぇーだろうが。急いでゾロゾロと」
「ご冗談を、私達は元より彼等は”亡命者”としてこちらへ赴いた。言わば客人に等しい方々、我々がその出迎えるのは当然の事」

   またしてもゼッガは舌打ちをして会話を切り上げた。あまりにも口下手なゼッガにセンナは分が悪い相手だった。
   センナが引き連れて来た兵士達に亡命者達を任せこの場を去ろうとしている中、センナとバルグ、二人はまるで鬼気迫るかのような意を見せながらそこに立っていた。
   センナの視線は、ただ一点。インジュを捉えている。

「・・・何でしょうか」
「いや・・・褐色肌の銀髪。ダークエルフの少年」
「ッ・・・その呼び方」
「くくくっゼッガ殿、ご無礼を承知でお伺いします。何ゆえ・・・」

   勿体振る息遣い。風が衣服を靡かせる中、バルグは戸惑い無く言い放った。

「感染者と共に行動されているのですか?」
(やっぱり・・・この人達は)

   初めての対峙。バルグの一言で確信へと変わった。
   インジュの抱えていた一つの問題、自らが感染者であるかどうか。そしてインジュという者を感染者として認定している者がいる事を。
   警護団に訪れた際の違和感、それはダークエルフという者への警戒心の無さ来る物。「ダークエルフが感染者」その情報は警護団には降ろされていなかった。どうゆう意図があるのかは今のインジュにはわからない。
   だが、今のセンナの言葉、そしてバルグの問いで得られた情報は多かった。

「僕を感染者に仕立て上げて、何が目的なんですか!」
「仕立て上げる? くくくっ! 何を言い出すかと思えば、君は感染者だ。自分が一番わかっているだろうに」
「わかるものか! 僕は今もこうして人として生きている、自我だって失っていない。これの何処が感染者っていうんだ!」

   引き下がらない、ここは立ち向かうところ。今のインジュにはそれが出来る。
   そう、自分をただ奮い立たせ胸を張り、自分を信じそこに立っている。

「僕を感染者と呼ぶのであれば、貴方はどうなのですか。バルグ公爵いや新本部長!」
「何?」
「先日の警護団襲撃、そして今回の亡命者の件・・・いずれも感染者が”偶然!”現れているように思えますが」

   情報なんて一切揃っていない。インジュが調べてみたいと調査を始めたのも今朝の事、ただでさえ何も知らないインジュがゼロからいや、マイナスに等しいところから調べ上げるのはあまりにも無謀な事だった。
   だからこそインジュは、全てを口にした。自らが口に出来る物を全て。

「モーゼス・フランドさん。彼の事、ご存知ですよね?」
「あ? 誰だそれは」
「では、お父様・・・モーゼスさんの父親は知っているんじゃないんですか?」
「知らん!! 誰だそいつらは。何の関係があるって言うんだ」

   インジュはバルグの聞く耳を一切持たないような態度に・・・鼻で笑った。

「モーゼスさんのお父様・・・あなたが就任式で黙祷を捧げた警護団の班長さんですよ。どうして知らないんですか?」
「きっ! 貴様!!!」

   インジュの言葉にまんまと騙されたと目を真っ赤にするバルグ。その様子を見てさらなる確信を得るインジュ。
   間違いない、こいつだ・・・こいつらだ、と。

「それまでだバルグ卿。当初の任を見誤るな、それに・・・ゼッガ殿、先ほどの問いを答えを聞かせて頂けませんか。返答内容、お互いの立場を明確にしておきたいので」
「あん?」

   全員の意識がゼッガに向けられた。
   インジュは固唾を飲む事しか出来なかったゼッガという男に出会ったのは当然今日が初めて、成り行きからの成り行きでここまで共に戦ってくれた。亡命者の件も形は悪くあったとしても助けにはなった。
   協力関係はもうほぼ終わったと言っても過言では無いはず。ここから先の道がどうなるのか、期待と不安が入り乱れる感情をインジュは必死に抑えながらゼッガの言葉を待つ。

「俺は・・・」

   ゼッガは話す。誰もそれを妨げる事は無く耳をただ傾けていた。

「俺は別にこのガキの味方じゃねぇ」
「・・・そう、ですよね」
「ただしテメェーらが俺の敵である事に変わりはねぇーがな」
「え?」

   センナとバルグに指を差すゼッガの姿を見て言葉を詰まらせるインジュ。そんなインジュを置いてゼッガは啖呵を切り続ける

「あのドリル頭に伝えろ。裏でコソコソやってるようだからテメェーは2位にも1位にも何にもならねぇーんだってな!」
「ドリル頭・・・あ、髪型」

   ついゼッガが誰を指したのかインジュは疑問に思ってしまったがすぐ思い当たる人物を頭に浮かべた。

「それに今回の亡命の件もそうだ。王都を脅かそうとするなら・・・本当に容赦しねぇからな」
「ひぃ!!」
「・・・・・・」

   視認出来たのでは無いかと思えるくらいの殺意。バルグを震わせ、センナを沈黙させた。
   すぐ側にいたインジュでさえゼッガのその一面に背筋を凍らす思いをしたが、ゼッガが向ける瞳を見てインジュは改めた。ゼッガという人物を。

「やむおえませんね。ここは一度退かせて頂きます、ですが我々はこの王都アルバスの誇り高き一員としてそのダークエルフ、感染者を放っておくつもりはありませんので」
「はっ! さっさと尻尾巻いて逃げやがれってんだ」

   センナは最後に告げると堂々と背をインジュ達に背を向けその場を後にしバルグも落ち着きのない足取りでついて行くのであった。

「・・・はぁぁー!! はぁはぁ」

   長い間息を止めていたような感覚。全身から緊張の糸が取り切れない思いをしながらもインジュは息を整えていた。

「なんだなんだだらしねぇーぞ」
「いや、その・・・こんな事初めてで、ごめんなさい」
「まぁいいや、それより」

   ゼッガはインジュに手を伸ばす。
   インジュの頬に触れがっしりと片手で顔面を拘束した。

「なななな、何を・・・!!?」
「黙れ、目開けろ」

   インジュの目を覗き込むゼッガの目。何が起きているのかもわからないままただただインジュは震え涙目になりつつある目を凝視された。

「やっぱりな」
「ぐぇ」

   何かを納得されたようでインジュの頬を放り離れた。
   ゼッガは腰に両手を当て何か満足気だった。

「やっぱ俺に間違いはなかったって事だな。ったく今度は何を考えてるんだがあいつらは」
「えっと・・・その、ありがとうございました。ゼッガさん!」
「あ? 何が?」
「まだ、ちゃんとお礼してなかったなって思って。北区での戦いだったり、帝国の人達にだったり、さっきの・・だったり」

   もはや思考がまともに動いていないのかタジタジな言葉遣いのインジュ。そんな本当の子供のようなインジュを顔だけを向けたゼッガは黙ってしまっていた。

「ぶっ!ぶはははははははははははは!!!」
「だぁあああああははははははははは!!!」

   吹いて笑い出すゼッガ。そして何故か大爆笑しながら沸いて出てきた先生。
   キョトンとした表情で置いてけぼりを食らうインジュを余所に辺り一面に響き渡る音量で二人は笑っていた。
   その笑いは決して意味のある物では無いのだった。

「ふっふふふ・・・あははははは!!」

   笑みを浮かべ心の底から釣られて笑ってしまったインジュ。
   ただただ3人は大声で笑い合っていた。

   そう、意味なんて今の3人には、必要の無い物だったのだ。


「馬鹿の馬鹿笑い!!!」
「うっせぇーテメェー!!!」
「あははははは!」
「笑い過ぎだっての。というか、お前らこれからどうすんだよ?」

   ゼッガの唐突な質問。インジュ達の敵では無いが、味方でも無いと宣言したとしても気になる問い口にした。
   それに対しインジュも嫌な顔一つせず、すぐに返した。

「本当にここへ来て良かったです。ゼッガさんに出会えたのが一番ですけど・・・」

   インジュは一人足を動かす。向かった先、それは・・・。

「ようやく・・・手掛かりが掴めたんですから」

   インジュはしゃがんでそれを手に取った。
   発狂し、何かを口に含もうとした亡命者。それをインジュが止めた際に手から零れ落ちた物を・・・。
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