何ノ為の王達ヴェアリアス

三ツ三

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第6話 始まりの途中経過

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「脱走した感染者、ダークエルフ。再処分の対応が終了。ルージェルト様、また勝手に動かれたのですね。しかも北区への橋を壊すなんて」
「仕方のない事よ、戦いに犠牲は付き物。人々の命よりは安い物よ、それよりも捜索は進んでいるのかしらセンナ」

   インジュとルージェルトが対峙してから1日が過ぎた。ルージェルトは現在先日の戦闘の報告をしていた。

「感染者の消滅の確認ならば、ご存知の通り確認のしようがありません。生命機能が停止すれば跡形も無く消滅する、それが常識です」
「まぁそうね、けれど報告書にも記載したでしょう? あのダークエルフ、随分と自我があったように見えたのよ。それに・・・」

   感染者が口にする事は妄言か虚言、信憑性はルージェルトの感という不明性な物であるが、ルージェルトは勘付いていた。
   あのダークエルフには協力者がいるのでは無いのか、と。
   正確な会話は覚えていない、けれどダークエルフが口にしている言葉は殆どが会話に思える物ばかりだった。もし本当にあれが会話であるのであれば、ダークエルフの先に黒幕がいるのでは無いか。
   そう、ルージェルトは考えていた。

「まぁいいわ、どちらにせよ橋の復旧はしなくてはならないから、捜索は同時進行で進めてちょうだい」
「承知しました」
「私は”選定会議”の準備で当分忙しくなると思うから、後はお願いねセンナ」
「はっ、仰せのままに」

   机から立ち上がり、部屋を後にするルージェルト。
   扉の前で一度動きを止め、目を閉じた。

「”巫女様”のご容態は?」
「依然として変わらずとの事です」
「そう・・・センナ、わかっているわね。私達の計画、何としても完遂させるのよ。これ以上巫女様、あの方に負担を与えない為にも」

   その言葉を最後にルージェルトは部屋から姿を消したのだった・・・。







   感染者の襲撃とその対処。この王都アルバスではある意味では日常茶飯事の出来事であった為にインジュとルージェルトとの対峙は噂話にもなっていない。あるのはまた王位継承3位様が感染者を討伐処分した、という話だった。

   当然本当の真相を語る者は誰一人としていない。
   ルージェルトが疑った、協力者の黒幕以外は。

「おぉぉぉおぉお! 湧き出る戦闘データ! 改良の為の発想と考察!! そして何よりも抑えられない創作意欲!!! ぬおおぉぉぉ! 何処から手を付ければ良いのだぁー!!」
「あのすみません、他の部屋でやっていただけないんでしょうか」

   全身包帯だらけのインジュが仰向けに倒れて居た。

「だって君のウィザライト何だもの、それを装着している状態じゃないと君多分死ぬよ? 
それに起動しっぱなしの方がデータ取り易いし」
(後者が本音だろうなきっと)

   以前インジュが寝て居た個室が自動的にインジュの部屋、という事になっていた。もはや暗黙の了解のような物だった。それはつまり、今のインジュの寝どころはここ、という事になるのだ。

   「まぁ仕方ないか」と呟きインジュは先日の事を改めて思い出しホッとしていた。
   インジュは完全にルージェルトの攻撃で気を失う程にダメージを追っていた。最後の策を決行するのも相当勇気を振り絞った物だった。
   ウィザライトの力を自動的に作動するようにセットし、自らの気を失う瞬間にそれを起動させ気絶状態でも仕掛けた光鎖が自分の体を引っ張るようした。
   そして最後は目標地点である”川”に飛び込むことで先生が転送し無事に逃げ切る。これがインジュが考え付いた逃走劇の詳細だった。

「まだ生きてる心地がしない」
「そうりゃそうだろうさ、諦めないっていう前向きな姿勢は誰もが志す物だろうが。気絶した身体を魔力に任せて運試しなんて、滅茶苦茶にも程がある」
「上手くいって本当によかったです」

   またも先生はインジュと会話をしながらも何か不思議な作業をしていた。今回はインジュ
にもわかった。
   左手に装着されているガントレットのウィザライトから無数の線が繋げられ、先生の作業台まで伸びている。そこでは立体映像が先生の全身を覆うほどに展開されていた。先生の動作はまるで踊っているかのように軽やかに作業を進めていた。

「そうだ少年、聞きたいのだが。みんなが言うその感染者?とか言うのって何なんだい?君の知っている範囲でいいから教えてくれたまえ」
「・・・わかりました。と言っても僕も本当に一般的な事しかしりませんが」

   インジュはゆっくりと息を吸い、自分が知っている感染者の事を語り始めた。

   まず大前提である事、それは今もまだその真相の解明が全くと言っていいほどに進んでいないという事だった。何故発症するのか、原因が何なのか、発症する条件は存在するのか。ありとあらゆる事が不明瞭。
   わかる事は、感染すると狂暴化し化け物のような人あらざる者へと変異する事が多く、その殆どが自我を失い破壊とさらなる感染を巻き起こすようになる。

「ふむ、自我喪失に破壊衝動。後者は繁殖行為に近しい物と考えられるか、新たな生命と考えるか、生命の変異体と考えるか、それとも・・・ふむ」

   先生は、一つの作業を終えたのか一つ立体映像画面をインジュへと投げ付けた。今も仰向けで動けないインジュでも見れるようにベッドの上に配置した。
   インジュはそれに目を通す。そして通せば通すほどに不可解な部分が多く浮き彫りになっていった。

「君と戦った感染物と感染者、二つの戦闘データだけで殆どが私の仮説で作った物だから信憑性は全く無い。けれど個人的にはあまり間違いは無いんじゃないかとも思ってる」
「これ・・・! え、いやでも。そうなると矛盾が・・・」
「そう、私のその仮説、”感染者は魔力暴走で生じる”はたった一つの矛盾点がある」
「・・・僕、ですね」

   先生が提唱した感染者の詳細は、それは至って簡単な物かつあまりにも信じ難い物だった。
    感染者は誰もが使える魔力と呼ばれる龍脈から人々に与えられている目に見えない力、その暴走により生まれてしまう物ではないかと話す。膨れ上がった魔力が自我さえも失わせ、代わりにその者が扱えなかったであろう強力な力を手にする事になる。
   そして破壊衝動の理由は更にシンプルだった。
   魔力の性質、龍脈が人に力を与えるという性質上、魔力は人を欲する。一種の寄生とも取れる性質。人がこの星で住む以上空気を吸うと一緒に魔力という物もまた空気を吸うように人の中へと入っていく物だと説いた。

「あの馬鹿みたいな力、魔力が一切関係ありません流石に無理がある。何かしらの魔力が作用して生じている事だけは間違いない。龍脈信仰でも無ければ誰もが思い付く事なのにな」
「そうですね・・・でも」

   インジュが体を起こし先生を見る。それに気が付いた先生もまた手を止めた。

「今更、魔力を使うなとは言えないですよきっと。それほどにみんなの生活に魔力は必要不可欠だと。思いますから」
「必要不可欠か・・・”魔力”とは良く言った物だ」

   再び先生は手を動かし始めた。気を落としたようにも思えたがその逆、少しだけ気合いを入れ直したかの様な面影をインジュは感じた。
   それに触発されたからか、インジュもまた一つ小さな決意をした。

「僕も頑張ります! いたたたた!」
「下手に動いたら死ぬぞー」

   確かにインジュにとって不確かな物があまりにも多い。自らが感染者であるという事実を受け入れた、けれどそれが感染者という異質な物の解明においてイレギュラーであるならばその理由を知る必要がある。
   どれだけの事が出来るかはわかない。けれど今のインジュは、以前までの何も出来ないインジュでは無い。その前向きな想いがまた一つ未来への歯車が動く瞬間だった。








   翌朝。インジュは先日戦った場所に一人で赴いていた。

「えーっと、サーチ。でいいんだよね」

   左手を翳す。

「ライゼーション。 サーチ」

   ウィザライトが起動し見えない波動が周囲に広がる。インジュは左手手に浮かぶ立体映像のモニターを見て辺りに目的の物が無いか調べていた。

「やっぱり無いか、本当に全部消滅しちゃったのかなー? んー・・・」

   感染者の破片、もしくは感染物の何か。それがインジュがここにいる理由だった。
   何か自分に出来ない事は無いか、一応インジュは先生に聞いてはみたが「よーし!それじゃあまず被験体になっt・・・ウィザライト付けて色々散歩がてら機能試してくれるだけでいいですはい」とインジュがちょっと嫌な顔をして目を逸らしたら流石の先生も欲望をぶち撒ける事はなかった。
   そこで出来る事は何かと自分で考えた結果、先日の戦いで捕獲出来なかった感染者か感染物の何かが無いかと、考えたのだった。

「んー・・・」

   ウィザライトのサーチ機能。物体を簡単に設定してそれを探す物、先生曰く探索条件を完璧に設定する必要は無く、ウィザライト起動者が考える物をそれとなーく見つけてくれるらしい曖昧な物であった。一応外に出る前に軽く試し、機能しているのは確認済みだった。

「僕のイメージが悪いのかな・・・いててて」

   いつも通りに座り込もうとしたインジュの身体から痛みが訴えられた。あの戦闘から今までずっと休息でベッドの上だった。ある程度の傷は塞がり歩ける程にも回復はしていた事から魔力が使えるだけでこんなにも違うのだとインジュは痛感していた。

「今もこうして外に出歩けるのも、魔力のおかげ。いやウィザライトの、先生のおかげか」

   再び左手に付けているウィザライト、ガントレットに目をやる。改めて自分が魔力を扱う事が出来るのが夢の様に思える。今までその魔力を使う為にありとあらゆる事をしてきた。しかしいざ扱える様になってインジュは小さなため息を吐いた。まるでポッカリと空いた穴が出来てしまったような感覚。
   今は感染者をどうにか出来たらと曖昧な目的でその隙間を埋めてはいるものの、衝動的な動きはまだ自分に無いと自覚をしていた。

「ん? これ」

   ウィザライトを見つめるのに下を向いていたインジュ。その足元には、銀色に光る物が落ちていた。
   それを拾い上げた時、小さな衝撃が走る。

「ドッグタグ・・・もしかして」

   インジュが拾った物、それに思い当たる節は一つしかなかった。
   あの感染者の私物。戦闘中に揺れて動いていたのはわかっていた、それが今ここにインジュの手の上にある。
   多くの感情がインジュを襲った。助けると思い馳せた驕り、何も出来なかった無力さ、感染者を殺したルージェルトへの怒り、そして。

「モーゼス・フランド・・・さん」

   一人の命が絶たれた。その悲しさ。
   本当の顔も声も、どうゆう性格なのかも何も知らない人。インジュはただ一人ドッグタグを握り締め心の中全てを使い、ただ謝る事しか出来なかった。

   助けられなくてごめんなさい、と。




「君・・・もしかして」
「えっ?」


    黙祷を続けていたインジュに一人の男が声を掛けた。
   インジュはその男の事を知っていた。顔と声、そして正義感が強い人であり、名前の知らない男を。

「前に、助けてくれた人・・・ですよね」


   大きく風が吹き草花を揺らす。インジュにとっての新たな風なのか、それとも・・・。
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