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 僕が頼み込んで同行して数時間。

 荷物運びも兼任して僕はようやくクエストの目的地である洞窟ダンジョンへと足を踏み入れた。


「おら! さっさと行くぞ!」
「はい!!」

 笑顔を絶やさずに僕はみなさんの荷物を運びながら先導する。

 松明を片手に進む。
 クエスト内容は、単純な物だった。

 ジャイアントボアの討伐。
 洞窟内に生息するジャイアントボアは時折、町の作物などを荒らし回り、それに抵抗した人に怪我まで負わせてしまったことから討伐依頼が来ていたのだった。

「ジャイアントボアなんていつ以来だよ。こんなクエストしかないなんて流石田舎だよな」
「ぎゃははは、そうだよな。そりゃ冒険者だって寄り付かないっての」
「言えてる! 誰がダサくて安いクエストなんてやるんだよって話」

 笑顔の絶えない素敵なパーティだ。
 きっと凄く腕に自信がある人達なのだろう。持っている装備だって町じゃあ見たことの無い代物ばかりだし。

 ん~~、色もなんか滅茶苦茶で統一感が無いように見えるけど、これが都会の冒険者って事なのか。


「あっ! ハイボアです!」


 そんな事を考えていると目の前に息を荒くしたハイボアが一匹現れた。

「ぎゃはははは、無駄に威嚇してやがるよ超ウケる!!」
「ちゃっちゃとやろうぜ」
「そうだな、俺もうあの姉ちゃんと色々したくて我慢できねぇー!!」


 がははははは、と笑い声が洞窟内に響き渡る。

 3人組が武器を取り出し、戦闘態勢に入った。
 一応僕も荷物を地面に置いて戦闘に加わろうかと思ったが、一応は僕は見学をお願いした身。
 強い3人の戦いを間近で見させて下さいと言った手前、下手な事をして怒られたくないので黙って見ていることにした。


 と、傍観を決め込もうとした途端だった。


「ぐあぁっ!!!」


 一人がハイボアのタックルに吹き飛ばされた。
 他の二人がその光景に気を取られている間に、ハイボアは俊敏に動きもう一人へと襲い掛かった。

「舐めんじゃねぇ!! 雑魚が!!」

 応戦の構え、剣を前に突き出したタックルしてくる瞬間にハイボアの顔面に剣を突き刺した。
 だが、同時にもう一人が宙へ吹き飛ばされた。

「やろう!!!!」

 突き刺さった剣に悶え苦しみ暴れるハイボアに残った一人がトドメを刺すようにハイボアへ向けて深く剣で斬り付けた。

 ハイボアは大きな悲鳴を上げると共に動きを止めたのだった。

「いってぇええ・・・くそ野郎がよ!」
「何してんだよお前等、油断しすぎだろ」
「くっ・・は、ははは悪い悪い」

 初戦の戦いは無事勝利を収めた。
 だが、そこにはさっきまでの余裕の空気感はなかった。

「凄いです!! あのハイボアをこんな簡単に倒すなんて、流石冒険者さんって凄いんですね!!」

 まるで空気を戻すかのように、僕は絶賛した。
 僕の言葉のおかげかどうかわからないが、3人組はさっきまでの空気を取り戻すかのように、胸を張ったのだった。


 けれど、それから戦いは、過酷な物だった。


 相手はハイボアで変わる事は無かった。だが、疲労が募り出したのか、目に見えて3人の動きが鈍くなっていたように思えた。
 ハイボアの数も2体になったりと、人数有利は変わらないが、完全に悪い空気が充満するのは必然だった。


「おい、聞いてねぇぞ。なんでこんなにハイボア如きが強いんだよ」
「はぁはぁ、知るか!」
「それよりどうすんだよ。このままじゃあジャイアントボアなんて」
「あぁ!? 逃げれる訳ねぇだろうが。それに・・・」


 相変わらず松明を持って先導する僕の背後から視線を感じた。


「いざとなったら、わかってるよなお前等」
「へっ、ひでぇお前」
「ガキのせいにも出来るって奴か。お前頭良いな」


 一体どんな会話をしているのか、僕には皆目見当も付かなかった。

 きっと次の作戦会議に違い無いと思いながら、僕は会話に入る事はなかった。
 だってここから先が本命なのだから。

 クエストの内容のジャイアントボア。
 それがこの先にいる。










「なんだ・・・このデカさ」


 3人が巨大なボアの姿を見て固まっていた。
 僕は応援するかのように、遠くからその動向を見守っていた。

 そして、衝撃波に似た咆哮が耳を襲う中、3人は完全に委縮していたのだった。


「ガ、ガキ!!!」
「はーい! なんですか!!?」
「お前も一緒に戦え!!」
「どうしてですかー!!?」
「いいから!! 早くしろ!!!」

 ん~。流石にジャイアントボアは大変なのか。
 なら仕方ないと、僕は荷物を地面に置き、剣を抜き皆さんの隣まで足を運んだ。

 そして戦いが始まった。


 と、思った瞬間。
 3人が一斉に来た道へ向けて猛スピードで走り去っていった。

 あれ? おかしいな、一緒に戦うんじゃないのかな?


「一緒に戦うんじゃないんですか!!?」
「馬鹿が!! お前は囮だよ! お前はパーティーのなんだよ!!」

 囮・・・。
 そうか、そうゆう事か!!

「おい!! 出口!!」
「何で閉じてるんだよ!! さっきまでここにあったろ!!?」
「知るかよ!!」

 慌てふためいてる姿が、ジャイアントボアの攻撃を避けながら目に入る。
 大きな声を上げて懸命に出口を探し回る姿を見ているとなんだか不思議な気持ちになる。
 なんでボアと戦わないのだろうと。

 どれだけ探しても無駄なのに。

 それもそのはずだ。




 だって出入り口は・・・僕が閉じたのだから。


「な~んだ、皆さん。僕と同じ事を考えていたんですね!!」

 ジャイアントボアが壁に向かって強烈なタックルをした隙に3人の背後に回った。

「な、何言って・・・」
「お前・・・まさか」
「出口を・・・!!」

「都会では流行ってるんですよねこれ・・・」


 僕は万面の笑みで答えた。


「"追放"・・・って」


 それだけを告げ僕は高く跳び上がった。
 
 天井にぶら下がり、僕がギリギリ入れる程の隙間からこの空間から脱出したのであった。

 それからの3人はわからない。
 何か大声が聞こえた気がしたけど、きっと戦う為に気合いを入れたのだろう。

 うん、きっとそうだ・・・!
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