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紅茶仲間

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「すん、すん。」

雲間から太陽が顔を出すと、紅茶ガチ勢もすぐに大人しくなり、立ち上がって涙を拭った。

「あの、サキョウ様ではございませんこと?なにかありましたでしょうか?」

「あら、カメタニ夫人。まぁ、随分と広場に馴染むお洋服ですこと。うふふ。」

「えぇ、そうなの。今日のために張り切って用意した一品よ。うふふ。ところで、なにかありましたの?その、泣いていらっしゃったように見えましたもの。」

騒がしい露天という状況でも、割と近くにいた人からは、いまの僕らの一悶着は、しっかり耳に入っていたようだ。そのうえ、サキョウさんというのは、有名店の、知ってる人は知っている有名店主なわけで。こうして、ばったり出会った知人に心配されているんだ。

「えぇ、嬉し涙を流しておりました。紅茶の化身の、紅茶神様に出会いましたの。」

そう言って、僕の背後に立って、肩を掴んでカメタニ夫人に僕をお披露目する。

「まぁ、紅茶神様ですって!?」

「紅茶神様、カメタニ夫人は紅茶店の常連で、紅茶を愛する紅茶仲間なんですのよ。」

ひぇ~、これ以上ガチ勢が増えるのは、困るよぉ~。という心配は無用だった。少しも抱きつかれないし、崇められない。変なのは、サキョウさんだけみたい。

「サキョウ様が、神と崇める方の紅茶を、わたくしも頂いてみたいのですが。」

「はい、ご案内いたします。」

コルネコさんが、にこやかに自販機へと誘導する。さっすが手慣れてる商人!

「まぁ、王家の紋章!?こちらの姿絵は王族の方々ではなくて!?」

「ん?王家?」

カメタニ夫人が驚愕の声をあげる一方で、首を傾げるサキョウさん。

「サキョウ様、あなたって人は。王族の方々の顔もお忘れですか!?あなた様の紅茶愛には感服いたします!ですがっ!!紅茶仲間として、ここは厳しく忠告させていただきます!!」

「ひっ。いや、わたくしが飲んだものには、絵がなかったものですから。そうでしょう、紅茶神様?」

「え、え~と。」

「サキョウ様~!!こんな幼い子供に、嘘を強要するとは何事ですか!?」

「ひぃ。いえ、私はいつ勘当されてもいいようにと、知識や思考を、入れ替えておりまして。」

「廃嫡などさせるものですか~!!お父上もお許しになるわけがないでしょう!!」

「ひぃ。これ以上は、場所を改めてからにいたしましょう?」

あれ?この2人貴族なんじゃない?そっとコルネコさんを見ると、静かにうなづいてくれた。仕方ないので、僕の方から声をかける。

「失礼します、よければ自販機を体験してみませんか?購入方法も面白いんですよ?」

「はっ。オホホ。是非教えてくださらない?」

カメタニ夫人の笑顔をキッカケに、今更どうやっても誤魔化せない何かを、全員で必死に無視した。

「こちらにお金をいれて、光っているボタンを押すと購入できます。紅茶ですと、こちらのボタンです。」

「まぁ。」

ガコンと音がして、ジュースが下の取り出し口に落ちる。貴族が怖いので、気を遣って取り出してあげる僕。ついでに説明しながら蓋も開けてあげる。

コクリと飲むカメタニ夫人。

「こ、これは!!新しいですわっ!!サキョウ様、これはいったい!!」

「ふっふっふ~、そうなのですわ。これが紅茶神様です!」

「なるほど。確かにこれは紅茶神様ですわね。」

謎の会話が繰り広げられる。僕としては、紅茶の味の違いがわかる、2人の方が紅茶神だと思うんだけどなぁ。

「これは、いくつまで購入可能なのですか?」

コルネコさんに尋ねる、カメタニ夫人。

「いくつでも販売できますよ。」

「そうですか。」

カメタニ夫人は、広場を振り返り、手で合図をおくる。すると広場から数人の男女が進みでた。

「ここからの護衛はあなただけでいいわ。残りは持てるだけ、こちらの紅茶を購入してちょうだい。」

声も出さない御意の礼をとり、男女が黙々と紅茶を買う作業を行う。というか、この人、もう隠す気がないよぉ。

あの有名な紅茶店『ニコイチ』の店主、サキョウ様のお墨付きで、カメタニ夫人が爆買いした僕の自販機は、のちに大盛況を超えて、爆売れすることとなる。
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