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誘拐

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「やいやい!テメーがコナソだろっ!」

冒険者ギルドを後にしようとした僕は、冒険者に取り囲まれてしまった。屈強な男達…とは御世辞にも言えない、小さくて可愛い子供達だ。僕より年下の子もいれば、年上に見える子もいる。こんなところにいる子供の集団と言えば、耳にした事がある。

「うん。君達はもしかして、虹の輪のメンバーかな?」

「はん!俺達のギルドを知ってるたぁ、大層なこった。お前に話があるっ!」

「何かな。」

「子供のくせに虹の輪に属さねぇなんて、どういう了見だっ!子供は全員虹の輪に入るって相場が決まってんだよぉ!」

リーダー格の少年の後に「そーだ!そーだ!」と他の子供達が続く。

「僕はワボォさんに勝ったから虹の輪には属さなくていいんだ。」

「ワボォに子供が勝てる訳ねぇだろ!あのオッサンは、ああ見えてSランク冒険者なんだ。」
「「そーだ!そーだ!」」

「そんな事言われても本当の事だしなぁ。ほら見て、僕は勝てたからEランクに昇級したんだよ。ほらほら。」

自慢気に冒険者ギルドカードを見せつけた。

「げっ。Eランクだ。お前みたいなチビがなんで…。」
「俺等だって数年ギルドで活動してるのに未だにFランクなのに…。」
「すごーい!見せてぇ!」
「お兄ちゃんすごいね!」

小さい子供達は僕のEランクカードを見てチヤホヤしてくれる。逆に大きい子供達は悔しそうだ。

「わかってくれた?じゃあ僕はもう行かなきゃいけないから。またね。」

「うるせぇ!行くぞおめぇら!確保!!」
「「おぉー!!」」

「え?うわぁ!」

僕は子供達に捕まれ、ぎゅうぎゅう押されながら連れ去られてしまった。

♦︎

辿り着いたのは錆びれた建物だった。

「…ここは?」

「ここは俺達の拠点だ!よく来たなぁ!」

「君達が無理矢理連れてきたんだろ。」

「へらずぐち叩くんじゃねぇ!」

城壁の中にも、こんな錆びれた一角があるんだなと驚いた。廃墟のようにボロくて生活を感じない建物。周りに隣接する建物もなく更地がつづいている。更地の向こうにはチラホラと墓が見える。冒険者ギルドも西の城壁の側だが、とても栄えていた。でも北側の、この一角はとても同じ街とは思えないほどにボロボロだった。

「ぐー。」

子供達の中から、お腹のなる音が聞こえたが、誰も気にもとめずにいる。

「今日の仕事は三班に別れるぞ。下の奴等は街のゴミ拾い。リーダーはオマル。真ん中の奴等はドブ攫いだ。リーダーはオタマ。オスギは俺と一者に採取だ。わかったな。」

「「おー!」」

慣れたように三班に分かれ出す。

「コナソ。お前はドブ攫いの予定だったがEランクなら特別に採取チームに入れてやるよ。ついて来い。」

「えー。困るよぉ。」

「うるせぇ!」

ゴツンと頭を叩かれてしまった。僕の身体は姉ちゃんみたいに強い訳じゃ無い。痛い。

「やーい!こいつ泣きべそかいてるぜ!何がEランクだ!きっと嘘つきだぜ!」

やいのやいの囃し立てられて、もうついて行くから騒がないでと言ってしまった。

「ねぇ、行く前に皆んなで腹ごしらえしようよ。さっき大きなお腹の音を鳴らしてる子がいたよ。」

僕は、空中に収納を展開して、バナナを一房取り出した。一房に沢山なっているので余るくらいだ。

「わぁ、何これ。」
「食べ物なの?」
「食べていいの?」

小さい子供達は、不思議な収納よりも目の前のバナナに夢中になっていた。

「食べると元気が出るよ。フルーツなんだ。皮は手で剥けるよ。さっき朝市で買ったんだ。」

大きい子達は、なんだその魔法と驚いていたが、バナナを差し出すと「悪いな」「サンキュ」と素直に受け取って食べた。

収納には無駄に出した飲料も沢山入っていたので、1人に1本を渡した。

「うおー!コナソ一緒に此処で暮らそうぜ!魔法で食べ物を出せるなんてすげえ!」

ジュースやバナナに感動した子供達に熱烈なラブコールを受ける。

「食べ物は魔法で出した訳じゃなくて、買った物を出しただけだよ。ジュースはスキルだけど。」

「ふーん。子供のくせに冒険者なんてやってるなら、お前も孤児なんじゃねぇの?」

「ううん、僕は北にある田舎の村から商売しに来たんだ。姉ちゃんも一緒だよ。」

「なんだ。お前も金持ちの道楽か。」

「ん?」

「今から合流する奴等も、冒険者なんてしなくても暮らしていける家持ちだよ。物好きな奴等だよな。」

「へえ。そんな子もいるんだね。」

「俺達が冒険者してるのを見て、自分もやりたくなったんだと。こっちは遊びでやってるわけじゃねぇのに。ま、仲良くなったら、そいつの親がパンとかくれるようになったから良いんだけど。」

食べながら少し話すと、親に捨てられた者、死別した者、他所の地で人攫いに合ったが運良く逃げ出せた者、幼過ぎて此処で暮らしてる記憶しかない者など様々だった。

ここは昔、お爺さんが1人でやっている孤児院だったが、お爺さんの死後は誰の手も入らずに放置されてしまったらしい。

「(皆、家も家族も失っているのか。今の住まいはとても家とは呼べる代物じゃない。)」

ゴミ拾い、ドブ攫い、採取、これらの収入でこの先も暮らしていけるのだろうか。

「こんなに更地があるのに畑はやらないの?」

「少しはやってるぜ。けど上手く育たないんだ。」

「ちょっと見せて。ボクの家は野菜を育ててるんだ。」

建物の裏手に回ると、一角に小さな畑があった。畑と呼ぶにはお粗末な、小さな実がちらほらと成るミニトマトに、自力で育ったであろうじゃがいもの葉が見えていた。

「(こりゃあダメだ!全く手入れされていない!)」

僕は一目で分かったけど、皆を傷付ける訳にもいかず、ふんふんと土を触って悩んでみせた。

「土に栄養が足りてなさそうかな。とりあえず、今日は今日の仕事に行こうか?」

「「おー!」」

散り散りに仕事へと向かった。
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