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わたくし好きな人に認識してもらう為にドラゴン使役しに行ってきます。

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~ご令嬢視点~

愛しの蒼龍の君は、青い目を持つ公爵家のご長男。水龍を使役なさっていると噂される見目麗しいその姿に、心を奪われるご令嬢は数知れず。わたくしは、その大勢の中の1人でございます。

わたくし達の人生が交わる事など一瞬たりとも無いでしょう。

と思っていましたのに、貴族が通う王立魔法学校で同級生としてお会いする事が出来ましたの。

仲良くなりたくて話しかけましたわ。でも、わたくしに興味なく、素っ気なく返答なさるのね。見向きもされない事は分かっていましたわ。貴方様に群がる煩い女の1人に過ぎません。でもいざ近くにいると、欲が出てしまう。彼にこちらを見て貰うにはどうしたらいいのかしら。

彼は蒼龍、私は緋龍になればいいかしら。そうしたら対等にお話して頂けそうですわね。お父様、お母様、お兄様、わたくし好きな人に認識してもらう為に、ドラゴンを使役しに行ってきます。

学校は午後も授業はありますが、思いついたら今すぐに行きたいの。お休みする旨の手紙を書いて、教師の机に置かせて頂きました。3日くらいで戻れるかしら。明日から暫しの休日だから、授業の履修問題は余裕でしょうね。自分の馬車は、屋敷に戻ってしまい無いので、徒歩と乗合い馬車で、目指すは辺境の死の山の果てにあると噂されるドラゴンの谷へ。制服と通学鞄のみの格好だと目立つし準備不足ね。もし、わたくしを襲って来る不届き者がいたら身包み剥いで貰ってしまいましょう。

♦︎

街の外れに来るだけで、住人の身なりもぐっと粗末になるのね。ドレスを着ているご令嬢を1人も見かけないわ。これ以上先へは、乗合い馬車は行かないみたい。自分で違う馬車を探すか、歩くしかないみたい。

貧しい小さい子供が何かを恵んで貰おうと此方へ来たわ。でも旅の支度をしてこなかったから、特別にお渡し出来る物を何も持っていないの。お洋服も制服ですから、お渡しすると仕立て直すまで学校に通えなくなってしまうわ。貴方は何処に住んでいるの?分かったわ。今は持ち合わせが無いから、帰りにお土産を持って来るわね。それまで待っていてね。申し訳ないけど、今は金貨5枚くらいで許してくださいな。子供にお金を持たせるのは心配だから、貴方に強力な防御魔法とトラップ魔法をかけておくわね。体力回復のヒールもかけておきましょう。じゃあまたね。

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辺境の街に向かう行商の馬車に、お金を払って乗せて頂けたわ。行商の方が手綱を握っているというのに、乗せてもらった、わたくしが寝てしまう訳にはいかないわ。うと、うと…。はっ!いけないわ、わたくしとした事が眠ってしまいましたわ。何やら外が騒がしいですわね。護衛の方が魔物と戦闘なさっているわ。わたくしも魔法学校の生徒として後方支援させて頂きましょう。

「ファイアーボール!!」

は!つい格好つけて声高らかに詠唱してしまいましたわ。恥ずかしいですわ。今の流行は無詠唱魔法ですものね。流行遅れの事をしてしまったので皆様びっくりした様子でこちらを見ているじゃない。あら?魔物は全滅できているのね。流石は護衛の冒険者様ね。

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辺境ともなると、魔物との遭遇率もぐっとあがるのね。面倒だわ。魔物除けの結界でもはっておきましょう。これで安心ですわね。あら?皆様結界をご存知ないのですか?え?ご存知ですのね。なら説明は不要ですわね。快適ですわね。そうだわ、帰路のことも考えて馬車だけでなく道自体にも結界をはっておきましょう。どうしました?皆様、変な顔なさって此方を見ますのね。道だけに結界をはるのは変かしら?でしたら、そこに繋がる街全体にも結界をはっておきましょうね。

あら、辺境の街も見えてきましたわね。とても小規模ではありますが立派な城壁がありますのね。こんなに過酷な地で生活を送る人がいるなんて不思議な感じ…なんて言ったら失礼になってしまいますか?此方の方達は、魔物を狩る事を生業として生活しているのね。国防に繋がる重要な地ですのね。さぁ、もうすぐ到着ね。旅支度を整えられるといいのだけれど。

♦︎

がっかりですわ。品揃えは王都の方が充実していますのね。あまり好みの装備は整えられませんでした。お洋服は制服のままで上からすっぽり被れるフード付きのロングポンチョ、短剣は地味で可愛くありませんが使い勝手が良く頑丈です。食料もあまり豊富でない様で、今食べる為の質素なサンドイッチと、持ち運ぶ用に、干し肉とチーズと硬いパンを買いました。あ~ん、お茶がしたいわ。今日の気分はフルーツタルトかしら。想像で心を慰めるのは悪いことではないでしょう。

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一泊する予定だったのですが、街全体の質素さを目にして、宿泊先のベットに期待を持てなかったもので、夜になりますが旅立っております。良いところで夜営をする方が翌朝のわたくしの体に優しいわ。大分、人気のないところまで歩きましたわね。そろそろ良いかしら…あら、2人の汚い男性が声をかけてきましたわ。あらあら、私の身包みを剥いで、良い事をして、持物を奪って行かれようとしているのね。はい、ウォーターボール。

今回のウォーターボールは、大きな球状の水でお二人を包む様にして差し上げました。呼吸が出来ずに汚い顔が苦しさで歪んで殊更汚いですわね。でもウォーターボールがお風呂代わりに汚れを取ってくれているかもしれませんわね。そうなると、これで綺麗になっていると表現した方が適切なのかしら。なんと皮肉な事でしょう、こんなにも醜いのに。そろそろ限界の様なので、魔法を解除して差し上げますね。ゲホゲホと耳障りな汚い音を早く止めてくださらないかしら。身包み剥ぎ返してやろうと思っていましたが、実際に目にすると汚くて触りたくないどころか少しも近づきたくありませんね。

光魔法の拘束で縛り上げて、魔力を使って文字を書いておきましょう。「この人達は強盗です。捕まえたので引き渡します。」一応署名もしておきましょうか。よし、文字は光で浮き上がって読めるでしょう。傭兵様の気配は…あの辺ですのね。気配が分かれば後は魔法が勝手に辿ってくれますわ。さぁお二人とも、飛んでお行きなさい。うん、今回も磁力で引っ張られる様に飛んでいったわね。この魔法は座りながらも部屋の片付けが出来る便利な魔法なんですの。学校生活では何事も自分でやらなければなりませんから。長距離のお片付けは初めてだし、もしかしたら通行人にぶつかってしまうかもしれませんが、夜更けで他の人の気配もないし大丈夫でしょう。さて、わたくしも飛び立ちましょう。飛翔魔法で。

♦︎

飛翔魔法は人気のある場所で決して行ってはいけない禁忌の魔法。何故なら…スカートの中が見えてしまいますぅ。恥ずかしいわ。本当に下に人はいないかしら。もっと高度をあげた方が安心かしら。あ~ん、ドキドキが止まりませんわ。だから装備を整えたかったのに。可愛くない服しかなくて着替えられませんでしたわ。死の山の果てと言うくらいですから、山の向こうに行けば良いのかしら。恥ずかしいのでスピードを上げてしまいましょう。

♦︎

山の裏手は、以前の火口だったのか、窪んだカルデラになっておりました。活火山には見えませんがお水は溜まっていませんのね。標高がそんなに高いのかしら。丁度そのカルデラの辺りから膨大な魔力を感じます。降り立ちましょう。

「火龍様!いらっしゃいますか!」
「火龍様!!いらっしゃいますか!!」

困った時は大声を出せば良いと聞いた事があります。ゴゴゴと言う不穏な爆音がして地面が揺れています。これは間違い無いでしょう。やはりですわ、煩いのぅと赤色のドラゴン様が現れました。自己紹介と目的をお伝えしなければ。あら、火龍様ったらいきなり炎のブレスを仕掛けて来ましたわ。強固な防御魔法も結界もはっていますから、少しも効きませんけど、話をする前に攻撃されるのは少し悲しいですわね。なかなか炎が収まらないので鑑賞しましょうか。炎って中から見るとこうなっていますのね。綺麗だわ。あら、お仕舞いかしら。

「火龍様!わたくしは貴方様にチカラを貸して欲しいのです!」

あら、今度は尻尾が此方に飛んできたわ。かなりの勢いがあったので防御魔法でダメージを受けていないかしら。心配だわ。ブレス、ブレス、尻尾、攻撃が止みませんわね。困ったわ。お願いするくせにこんな事をするのは大変心苦しいですが、お話を聞いてくださる状態を作らないといけませんものね。

闇の拘束魔法の黒い鎖で火龍様をがんじがらめにしてしまいましょう。あらいけない、お口までぐるぐる巻きにしてしまったら、お話できませんわね。まぁ、折角ですから一先ず聞いて頂きましょうか。わたくしの名前と、旅の目的、火龍様を使役させて頂きたいのです。返答はどうなるでしょうかドキドキ致します。…まぁ!我の負けだ好きにしろですって!嬉しいです。では一緒に王都に向かってください。まぁ火龍様は姿を自由に変えられるのですね。龍様なら皆出来る事なんですか。凄いですわ。火龍様は光になって私の中に入ってくださるのね。これで私も緋龍と名乗れますわ。ありがとうございます。

♦︎

どこからか、「ならぬ」と声がしたので振り返ったのですが、誰もおりません。「ここじゃ」と言われても分かりませんわ。火龍様が私の中でニヤニヤしております。はっ!まさか足元!わたくしの立っている地面そのものが、大きな地龍様でしたの。この広いカルデラと同等の大きさの地龍様。

ならぬとは、わたくしと火龍様が共に王都に向かう事ですか?何故いけないんですの?人間風情がですって?それって答えになってますの?地龍様も荒ぶっていらっしゃるので、先ずは動きを封じませんとね。こんなに大きな者を拘束魔法で止められるのかしら?分かりませんわ。失敗して攻撃のターンを与えてしまうのも、山に被害が出そうですから、あまりしたくありませんわ。時間停止魔法は如何でしょうか。地龍様のお体は動かないはずです。お話しはしたいので念話は可能ですわ。あら?降参ですか?うふふ、では私達の旅立ちを許してくださいましね。

え?地龍様も同行なさるんですの?あらまぁ、地龍様は掌に乗るくらい小さくなってくださったわ。なんて可愛らしいのでしょう。光になるのは火龍様とごちゃごちゃして生理的に無理だそうで、そう言われた火龍様がお怒りになっております。ふふふ、賑やかですわね。

♦︎

面白そうな事してるじゃねぇか、と上空から声が聞こえます。見上げると漆黒の龍、黒龍様がいらっしゃいました。黒龍様は俺も暴れたいと思っていたんだと、膨大なエネルギー量の漆黒の光線を放ちました。これが当たれば山は砕けるどころか根こそぎ消失してしまうでしょう。わたくしは掌で光線を受け止めて吸収しました。厳密には吸収した訳では無いのですが。折角のエネルギーを再利用させて頂きましょう。

黒龍様を覆うくらいの闇を飛ばしました。黒龍様は俺に闇魔法は効かないと、魔法を受ける気の様ですね。黒龍様を闇が包ま込み、そのまま縮小してわたくしの手元に戻るころにはガラス玉くらいの大きさの闇になっておりました。何だこれはと黒龍様も慌てておりますね。この闇はこのまま小さくなって消えます。黒龍様も一緒に消えるのです。死ぬのでは無く消滅です。その違いは、わたくしには分かりませんの。黒龍様は大慌てで負けを認めてくださいました。争いなど何も生まないことはしないでくださいねと念を押しましたわ。

黒龍様は人の姿になり、わたくしに同行するのですが…格好良すぎますっ。漆黒の、ひとつに結った長髪と凛々しい瞳が美しく、なぜか上半身がはだけて丸見えです。目のやり場に困りますわ。あら、人数が増えています。わたくしが喜ぶならと、地龍様と火龍様まで人の姿になっておられます。地龍様ったら短髪が似合う体の大きい筋肉質のガチガチの漢らしいお方ですっ。火龍様は赤い外ハネの長髪につり目がちでヤンチャな印象が格好良いですわっ。おやめください!殿方が大勢で1人の令嬢を囲むなど、許されない行為ですのよ。あとなぜ皆様はだけていらっしゃるんですか。手を取らないでくださいまし!わたくしには心に決めた人間の殿方がおりますの。さぁ皆様姿を変えてください。わたくし怒りますよ。

♦︎

皆待ってよ~、と声がして上空から白い龍がやってきましたわ。皆が行くなら僕も行きたいと白龍様は仰りました。お一人だけ交戦的でない優しい方なのですね。貴方でしたらもちろん良いですわ。白龍さまも人の姿にしましたの?白い肌にクルクルの短めの銀髪に紫目がこの世の物とは思えない美しさですわ。人になると背が低くなるんですのね。圧縮してるからと仰る顔が自慢げで可愛らしいですわ。

白龍様は山の管理を誰かにお願いしなきゃと仰られ、丁度良くワイバーンの群れを見つけて話しかけはじめましたわ。ですが肉眼ではワイバーンなど見えず、わたくし千里眼の魔法を使いましたら、見えました。そんなに離れた場所にいる方と会話なさるなんて龍様って凄すぎますね。

「お~い、そこのワイバーンの群ぇ~、僕達少し遊びに行ってくるから、山の事頼むぅ~。」

白竜様がそう仰ると、ワイバーン様方は、俺らには無理っス、荷が重いっス、俺等結構簡単に討伐されちゃうっス、とギャアギャア騒いでおられました。

さぁ、戻りましょう。どうやって戻ろうかしら?どなたかの背に乗ることは出来ませんか?白竜様が快く背を貸してくださいますのね。ありがとうございます。わたくしどんなに自分で移動した方が早くても、どなたかに運んで頂く事が好きなのです。だって楽チンなんですもの。こうやって目を閉じたり、ぼーっとしたり出来るのですわ。ふふふ。あ、白竜様、次の次の街が見えて来たら立ち寄りたいので下ろしてくださいませ。うと、うと…。

♦︎

あら、着きましたのね。すっかり夜が明けていますね。よく寝てしまいました。夜通し飛行魔法を使っていたのです、許してくださいましね。あら?此処は何処かしら。わたくし、こんなに緑が豊かな地に立ち寄った覚えはございません。…お姉ちゃんと声がして振り返ると、あの時にお土産を渡すと約束した少女がいました。服はボロですが、お肌や髪や瞳がツヤツヤのキラキラです。

お会いしたかったわ。約束通りに会いに来ましたのよ。ですがごめんなさい。辺境の街はとてもさびれていて、お土産に値する様な物はありませんでしたの。申し訳ありません。今はこちらでお許しくださいませ。ポンチョと短剣と、あるだけの食料でございます。足りない様でしたら、申し訳ありませんが金貨でご容赦ください。え、金貨はいりませんの?あら、龍様を見て驚かれているのね。他の皆様も、遠巻きに龍様を見て驚かれていますね。皆様ご安心くださいまし。此方は心優しい白竜様です。わたくしを背に乗せて飛んでくださいましたの。そう伝えても皆様の驚愕のお顔はなかなか戻りませんねぇ。あら、先程の女の子がお礼をしたいとお家にご招待してくださるのね。嬉しいわ。ぜひお邪魔させて頂きます。龍様達は少しここでお待ちになってください。

♦︎

小さい家のベットに、少女の母親が腰掛けておりました。話を聞くと、昨日まではとても起き上がる事など出来なかったそうです。しかし、私にヒールをかけられた少女の側にいると、次第に体調が良くなったそうです。それは…小さい少女には軽めのヒールで事足りた所を、わたくしが普通にヒールしてしまったから、ヒールの飽和状態となって外に溢れ続けていると言うことかしら?よく見たら彼女から癒しの魔力が溢れ出ているわ。そんな話聞いた事が無いですけれど、しっくりきますわね。昨日の金貨の御礼も言いたいなどど、およしになってください。これは言わば失敗魔法でございます。早くこの場を立ち去ってしまいましょう。ヒール自体は悪い物ではありませんし、時が経てば治るでしょう。口にはしませんがお母様に謝罪の意を込めてヒールをかけさせて頂きます。これでお体は元気になったと思います。それではご機嫌様。

♦︎

あの親子泣いて喜んでいたな、とわたくしの心の内が筒抜けな火龍様にニヤニヤからかわれております。乙女の心を覗くなど言語道断でございます。火龍様は至急わたくしの中から出て行ってくださいまし。緋龍を名乗りたいんだろうですって、それはもう!名乗りたいんですの!やっぱりあと少しだけ居ていいですわよ。白竜様の背に乗って、もうすぐ王都に着きますわね。結局一晩で済んでしまいましたわ。愛しの君のお屋敷に、お訪ねしたいと手紙を出さないといけませんね。本当は今直ぐにお会いしたいわ。

♦︎

ただいま戻りました。お父様、お母様、お兄様、ご紹介したい方々がいますの。火龍様、地龍様、黒龍様、白竜様でございます。皆様、人の姿になってくださいましたね。どうですか、このイケメン揃い!それで!今日か明日にでも愛しの君のお宅にご訪問させて頂きたいのです。お父様、諸々の段取りを宜しくお願い致します。

え?なんですの、わたくしドレスを選んだりスキンケアをしたいので時間がないのですが。盗賊ですか?はい、辺境の街で2名捕縛致しました。はい、道中の街と道に結界をはりましたよ。何か問題がございましたでしょうか。移動手段でございますか?行けるところまでは徒歩と馬車で向かいましたわ。山越えは流石に移動手段が無いので飛翔魔法を使いましたわ。帰り道は、白龍様が背中に乗せてくださったので楽々でございました。ありがとうございます白龍様。どうしましたの、お父様がフルフル退室なさっております。訪問の件必ずお願いしますね。聞こえていらっしゃるのかしら。

♦︎

ついに、ついに、愛しの君のお宅訪問でございますっ。まるで夢のようでございます。次の日になってしまった事は堪え難かったですが、念入りな自分磨きを出来たので良かったと思います。龍様達も見たいと言って、光となって、わたくしの中に入り一緒に来たのですが、狭いだの、あっちいけだの騒がしいのです。皆様、大人しく礼儀正しく紳士でいてくださいね。手入れの行き届いた庭に案内されました。水龍様の御家だけあって、庭に水が流れております。水が段差などを通るので、小さな滝の様で綺麗です。水の音に耳を澄ませて待っていると愛しの君がいらっしゃいました。わたくしは立ち上がり御挨拶をしました。愛しの君は青い顔でフルフルと震えていらっしゃいます。体調が優れないのでしょうか。

♦︎

わたくしは屋敷に戻り、自室で泣いておりました。家族にも龍様達にも会いたくありません。1人にしてくださいと言っているのに、特にお父様がしつこく部屋の扉を叩いてくるのです。なんてデリカシーが無いのかしら。意中の殿方に、訳も分からず嫌われてしまったというのに、お父様には人の心が分からないのかしらっ。先程から何か言っているなとは思っておりましたが、今確かに「王が…」と聞こえました。ん?王様ですか?もしかして大変な事態が起きているのでしょうか。それでしたら自分の心を殺して、対応を行わなければなりませんね。令嬢に出来ることなど政略結婚か社交界での活動くらいしかありませんが、先ずは話を聞きましょう。

♦︎

わたくしは今、王城の謁見の間に来ております。王の前に跪いて御言葉を頂戴しております。なになに、私は結界魔法を使える事から聖女で、龍様を従えている事から勇者の称号を与える…ですって。開いた口が塞がりません。わたくしは、そんな大層な者ではありませんよっ!しかし王の賛辞を覆す事など出来ません。有難く頂戴させて頂くしかありません。勇者の称号など龍様が山に帰るまでの、龍様達への称号でしょう。その龍様と一緒にいる、わたくしが唯の令嬢ですと示しがつかない故の聖女でしょうね。その程度のものだとしても、聖女になったと愛しの君に話しかけても良いものでしょうか。あそこまで嫌がられると、もう諦めるしかないのでしょうか。私の心は沈んでおります。

♦︎

翌日、絵姿付きの、わたくしへの求婚の手紙が山の様に届いておりました。家族と一緒に目を通します。太ったおじさん、太って髪の無いおじさん、こっちはおじいさん!!あ~ん、もう私の事は放って置いてよぉ~。全員断ってくださいとそっぽを向いたところ、お兄様が大層華美な封筒から手紙を取り出しておりました。え?王子様?この国の?イケメンの第一王子の事?ちょ、ちょっとその手紙だけ此方に下さらない?本当にこれだけで結構です。お母様は大層シックでセンスの良い封筒から手紙を出しておりますが、もう他の方はお断りしてくださって良いんですのよ?え?隣国の王子様?麗しいと有名でご令嬢達の噂のマトの?ちょっと…此方にくださらない?え?お父様、其方も同世代の方ですの?絵姿だけでも見て差し上げないと失礼にあたりますわね。

「ちっ人間なんてどれも一緒だろぅ」
「ねぇ僕はどうかなぁ~」
「俺様のが良いに決まってるだろう」
「龍のが健康で力も強いぞ、家柄を望まぬなら有益じゃよ」

つまらなそうに同席していた龍様達が、我慢の限界になり話に入られました。

この選択次第で、わたくし幸せになれる気がします。

真剣に選ばせて頂きますっ!


~ future happy end ~
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