私と運命の番との物語

星屑

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2章 トラウマ

第15話 攫われる

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※この話からしばらくシリアスな展開が続きます。







……数年後。



はい、私ことサーフィリア・ルナ・アイラックは12歳になりましたわ。

見た目は相変わらず16歳になったままよ。

これ以上成長するのかどうかもわからないわ。

まぁ、この国での成人は15歳だから構わないのだけどね。


結局、あれから発情期が何回も来ているけれど、ルドは初めての発情期の時に宣言した通り、いまだにキス止まりよ。

最近になってやっと少し進んだかしら?

キスマークは付けられるようになったわ。 

……ちゃんと服で隠れる場所よ?

私はうなじのギリギリ見えるか見えないか、くらいの所に付けて欲しいと言ったのだけれどね?

今はまだ見えない所って言われたわ。


あと3年で私が成人するから、そうしたら結婚できるわ。

あと3年なんて、長いわね。




と、そんなことを考えていたのだけど……。


何故か分からないけれど、いつの間にか、起きたら知らない部屋のベッドの上にいたわ。

しかも、魔法が使えないように魔力封じの手錠と首輪、足枷が付いているの。


何故こんなことになっているのかしら?


ルドが私がさらわれて気が付かないはずがないもの。


……ルド以上に力のある者が私を攫った?

ルド以上の強者なんているのかしら?




……ガチャリ。



「やあ、目が覚めたようだね」

「………」

「ハハッ。そんなに警戒しなくても、すぐに取って食ったりはしないよ?」

「………」

「ハッ、どうやら僕とお話しはしてくれないようだ」



軽薄そうな雰囲気を持つ、フード付きのローブを被った男が部屋に入ってきた。

顔を隠すようにフードを目深く被っている。



「……貴方は誰?」

「……おっと、僕と話してくれる気になったようだね」

「……黙っていても何も知れないもの」



そう、黙っていてもしょうがない。ならば少しでも多く情報を聞き出した方がいいというものだ。



「フッ、随分と肝が据わっているようだね」

「……質問に答えていただけるのかしら?」

「そうだったね。僕は魔族だ。攫ってきたのは僕だけど、雇い主がいる。言っておくけど、雇い主に関しての情報を話すことはできないよ?そういう契約だし。

……君はこれから雇い主の元へ行く。拒否権はないよ?これは強制だ。そこでどんな扱いを受けるかは僕には分からないけどね。」



私を攫ってきたフード男は、誰かに雇われたようだ。ということは、黒幕がいるということ。ルドに恨みのある人か、私自身に恨みのある人か……。



「なぜ私を攫ったの?」

「さぁ?僕には分からないな」

「貴方何者?」

「さっきも言った通り、魔族だよ」

「魔族がわざわざ危険を犯してまで私を攫う必要性はないと思うわ。いくら依頼されたからといって、つがいのいる者を攫うなんて……そんなことしないでしょう?人間のように愚かではないのだから」



なぜルドがいるのに私が攫われたのかが分かった。

精霊と魔族は相性が悪い。
そのため魔族は精霊魔法が使えない。
だが、その分魔族は魔法が得意だ。

精霊魔法は使えないが、魔法に関しては竜族に並ぶほどになっている。

さらに、相性が悪いため精霊魔法で探索をかけても見つけることはできない。

とにかく相性が悪いのだ。



「僕は濡れ衣を着せられて、追放されたんだ。魔王様だけは信じてくれると思ってたのに…。だから、精霊魔法に引っかからない僕が君を攫えば、魔族が疑われる。いい気味さ。僕に濡れ衣を着せたヤツを懲らしめることができる」

「それは貴方の雇い主に言われたの?」

「ああ、そうさ。僕が追放された時に拾ってくださった方だ」



これは、なにか裏がありそうね。

この人は騙されているのかもしれない。

けれど、私は今、なにもすることはできない。

大人しくしているしかないようね。



……コンコン。ガチャリ。



「……時間だ」

「分かった、今向かう」

「……?」

「それではお喋りの時間は終わりだ。君が次目覚めた時は、僕の雇い主のところだろう」



その言葉を聞き終わった途端、私の意識はなくなった……。




***




……意識が覚醒する。

……だが視界は真っ暗。

目隠しをされているようだ。


……ジャラリ。

魔力封じはまだ付けられたまま。

暗いのは怖い。を思い出す。

愛されていなかった

心はずっと真っ暗闇だった。



真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。真っ暗。


あぁ、ずっとこれが続くの?

ルドはどこ?

どうしていないの?

怖いよ。

助けて。

私の心が壊れてしまう前に。

ルド……。


……そこでまた意識は途切れた。





***





……コンコンコン。


ビクッ。

扉が叩かれる音がした。

……私を攫うように命令した人物だろうか?


……ガチャリ。


入って来た男が、じっと見つめてきているような強い視線を感じた。

……恐怖から体が震えてくる。



「……起きたようだね。ハッ、そんなに怯えて。自分が何故こんな場所にいるのか分からなくて怖いのかな?」

「………」

「声も出せないとは。御令嬢には刺激が強すぎるかな?」

「何が目的なの?」



思っていたよりも感情のこもっていない声が出た。

……ギシリ。

ベッドの軋む音がした。

どうやら男がベッドに乗ってきたようだ。

反射的に後ずさるが、すぐ背中にクッションがあたる感覚がする。

……これ以上後ろに下がることができない。



「……目的か。なんだと思う?」

「………」

「ハハハッ。分からないだろう?」

「……ええ、分からないわ」

「君の伴侶は大層強いらしい。それこそ、ひとつの国を簡単に滅ぼせるほど…」

「………」



否定も肯定もしない。

ルドなら世界すら壊すことができるだろう。



「さて、私は人間が嫌いでね。何故我らが魔王陛下は、シンフォル国を滅ぼそうとなさらないのか。

心の醜い人間なんて滅んで当然だろう?

私の子供を殺した人間なんて、死んで当然だ!まだ幼い私の子供を攫い、痛めつけ、殺した!

……私は憎くて憎くてしょうがないよ。

魔王陛下がシンフォル国を滅ぼさないのならば、ご退位願おう。

人間の国は私が滅ぼす。

その為に君には協力して貰うよ。
君の伴侶は君が攫われたと気づけば、魔王陛下の元へ行くだろうからね」



そう言いながら、フィアに近づき目隠しを外した。

見えるようになった私の目に映ったのは、濃い青色の髪に紫色の瞳をした、ルドよりも少し歳をとったような外見をした男。

その瞳には深く暗い闇が見える。



「復讐をしたとして、貴方には何が残るの?」

「……は?」

「人間を滅ぼしたとしても、貴方の心が晴れることはないと思うわ。

確かに、自分の大切な人を殺されれば憎むでしょう。私のルドが誰かに殺されたら、私はまず先にルドを殺した者を、生きていることを後悔するまで痛めつけて殺すわ。

でもね、だからといって、もし人間が私のルドを殺したとしても、人間を滅ぼそうとは思わないわ」

「……何故?」

「人間を滅ぼしたって意味がないもの。

人間の中にも良い人に悪い人もいる。

それにその人達にも大切な人はいる。
自分自身が体験した悲しみを、関係の無い人達にまで体験させるの?
それは違うのではないかしら。

第一、そんな時間があったら、私は私の大切な人の思い出にひたっていたいもの…」



そう言い、微笑む。

少しでもこの人に言葉が届けばいいと。


俯いていた顔を上げたその男の瞳には、もう深く暗い闇はなかった。



「……そうだ…ね。私は間違っていたのかもしれない。
私にはまだ大切な人がいたというのに。

妻ともっと向き合っていれば良かった。妻も私と同じ悲しみを感じていたのに。
私は私の今いる、生きている大切な人を大切にできていなかった」



そう、涙をこぼしながら言った。



「……ありがとう。手遅れになる前に気づかせてくれて」

「……いいのよ」


微笑みながら言う。



「まだ名前を名乗ってなかったね。私はクエノス国序列第4位のガミジンだ。今回は本当にすまなかった。怖い思いをしただろう?」

「私はサーフィリア・ルナ・アイラックですわ。確かに怖い思いはしましたが、こうして貴方の心が軽くなったのなら、よかったですわ」



お互いに微笑みながら、名乗り合う。



「少し疑問に思ってしまったのですが、質問をしてもよろしいですの?」

「いいよ。聞きたいことを聞いてくれ」



ガミジンがベッドに腰掛けて言う。



「貴方はクエノス国序列第4位と言うのだから、クエノス国の中でも結構強いのでしょう?」

「まぁ、そこそこは」

「なのに、何故貴方の子供は攫われたのかしら?貴方よりもよっぽど弱い人間に」

「……確かに。私の子供が攫われたのは魔国でだ。だが、見つかったのは人間国だった。だからてっきり人間に攫われたと思っていたが、魔国の者が関わっていたのかもしれない。当時は頭に血が登っていて、気がつかなかった」

「ええ、そのようね。貴方に恨みを持っているような人物はいないの?」

「……ふむ」



思い出しているのだろう。



私はこの時、疑問に思ったことを早く解決したくて、いまだに自分が魔力封じを付けられたままだということを忘れてしまっていた。



……そのことを後悔するとは知らずに。




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