私と運命の番との物語

星屑

文字の大きさ
上 下
16 / 36
1章 運命の出会い

第14話 発情期

しおりを挟む






朝、目が覚めると……。


目の前に程よく引き締まった胸筋が見えた。

そして、何故だか体を動かすことができない。

どうやらルドに抱き締められた状態で寝ていたようだ。


だんだん頭が覚醒してくると、昨日のことを思い出してきてしまった。


はぁー、なんであんなことをルドにしてしまったのかしら……。


あ、あんな首筋を噛んで舐めるなんてこと……。

しかも、「ルドに私の匂いをつけなくちゃ」なんて言ったなんて……。

どうしてあんな恥ずかしいことをしてしまったのかしら…。

恥ずかし過ぎて死んでしまうわ……。


羞恥心からフィアは首まで真っ赤になっていた。



フィアは発情中の記憶を全て覚えていた。

これは個人によって違うのだが、人によっては発情中の記憶を覚えていない者もいる。

また、覚えていても部分的なものだったり、全て覚えていたりと、個人差がある。

これは種族は関係しておらず、個人個人で違う。


発情期中であっても常に発情しているわけではなく、波がある。だが、いつ発情するかは分からず、突然発情したり直前に察したりと、全く予想がつかない。




フィアは一人で悶々と考えていると……。



「ふふ」

「……ルド、いつから起きていたの?」



ルドの体が僅かに震えているので、もしや…と思い声を掛けて確認を取った。



「……クスクス、だってフィアが可愛い反応してるから……」

「……答えになっていないわ。いつから私を見ていたの?」

「フィアの顔が真っ赤になる少し前?」

「最初からじゃない……」



恥ずかし過ぎて、顔をルドの胸元にくっつけて隠す。



「そんなことをしても、ただ可愛いだけだよ?」



ルドが蕩けるような甘い声を出しながら、耳元で囁く。


余計顔が真っ赤になった気がするわ。

しばらく顔を上げられないじゃない。


抗議する意味も込めて、頭をグリグリとルドの胸元に押し付ける。



「ふふ。もう可愛いなぁ、フィアは」



その瞳に熱を宿しながら、ルドがまた蕩けるような甘い声を耳元で囁く。



「……っもう!わざとやっているでしょう⁉︎耳元で囁かないで!」

「フィアって耳が弱かったんだね……」



良いことを知った、とルドはそう言ってからフィアの耳をカプリと甘噛みして、チュッ、チュッとわざと音を立てながら耳にキスをした。



「……ひゃんッ……んぅ……もぅ…やッ」

「……甘い声出しちゃって。あー、もう可愛い過ぎ。……我慢できなくなりそう」

「もう!私をからかって遊ばないで!」

「目に涙をためながら上目遣いで睨んでも、逆効果だよ?ふふ、無意識でやってるんだからなー。本当、可愛い…」



ルドに可愛いと言われ、ズキンと胸が痛む。

……私はルドにそんなことを言ってもらえる資格なんてないのに。

ルドを心から信用していない私なんて……。



「……ッ。そんなに可愛いなんて言わないで……」

「フィア?」



……自然と涙が溢れてくる。



「ずっと、あなたに話さなくてはならないと思っていたの……。以前、私は前世で家族に愛されなかったって言ったでしょう?」

「うん、フィアと出会ってすぐの時だよね」

「そう、その時は風の精霊王の言葉で少し気持ちが楽になったの。

でも、怖いのよ…。私はルドのことが好きで、ルドが私のことが好きなのもちゃんと分かってるわ。
でも…その気持ちがいつ変わってしまうのか分からないし、私よりも魅力的な人なんて沢山いる…。

いつかルドの気持ちが変わってしまったら…って考えると怖いの。だから、本当に心を開く事ができてないのよ。心の底からあなたを信用することができていないわ…。

そんな私はあなたには相応しくない…。もう、苦しくて、苦しくて…。
いっそのこと、離れ「フィア、そんなことはさせないよ」」



ルドが言葉を重ねるように言ってきた。

見たことのない冷たい瞳で、

まるで、その先は言わせないと言っているかのように……。



「……え?」

「そんなことさせると思っていたの?俺がフィアを離すわけない。たとえそれがフィアの幸せだったとしても。俺と離れるなんて絶対に許さない」

「ルド……」



冷たい瞳から一転、優しく、諭すような眼差しで……。



「フィア、君は俺の唯一だ。フィアの代わりなんていないし、フィア以上に魅力的な人なんていないよ?

運命のつがいだから好きなんじゃない。きっかけはそれでも、俺はちゃんとフィアのことが好きになったんだよ?

…俺はもう何度もフィアに救われているんだ。初めて出会った時は、死にかけているところを救ってもらったし、精霊魔法が使えるようになったのもフィアのおかげだよ?
竜になれることも、両親に生まれて初めて会ったのも、全てフィアのおかげなんだ。」



ルドの言葉を聞いて、フィアの瞳から涙が次々と流れ落ちていく。



「フィアが俺のことを心から信用できていないなら、これから信用してもらえるように俺が頑張ればいいだけなんだよ?
俺達は出会ったばかりなんだから、少しずつお互いの事を知っていこう?」

「……うん」

「……もう泣かないで?そんなに泣いてたら目が溶けちゃうよ?」



甘く優しい声で頭を撫でながらルドが言う。



「ありがとう、ルド。また迷惑をかけるかもしれないけれど、これからの長い人生を貴方と歩んで行きたいと思ってるの。
貴方のことがもっと知りたいわ。改めて、これからよろしくね?」

「もちろんだよ。迷惑なんて言わずに、もっと甘えて?俺はこれからもっとフィアを甘やかすつもりだから」

「ふふ、ふぁ…はふ」

「ふふ、眠くなっちゃったかな?発情期中だしね。少し眠りな?」

「うん…どこにも行かないでね?」



ルドの服の裾をぎゅっと握って言う。



「うん、もちろん。ずっとここにいるよ。多分、次起きた時は発情で辛いと思うけどね」



ルドが苦笑しながら言う。



「……大丈夫よ。ルドとずっと一緒なら」



すぅっとそのまま意識が遠のいていく。



「最後にそんなこと言うなんて、反則過ぎでしょ……」



その後ルドが悶々としていたことを知る者は、誰一人いない……。




***




……案の定、ルドの言った通りになってしまった。

体が熱くて熱くてずっと疼いている。



「んぅぅ…ルド、あつい…たすけて…るどぉ」



自然と涙が溢れてきて、熱のせいか、舌ったらずになっている。



「……ちゅ……ちゅ…辛いよね…ずっとそばにいるから、安心して?」



顔中にキスをしながら左手の指を絡ませて、右手で頭を優しく撫でながら言う。


その仕草にキュンとしながらも熱がおさまらず、息が上がったままルドに擦り寄る。



「……ん…ん…ねぇ…ルド……もっと…もっと…ちょうだい……?」

「……ぐっ…可愛い過ぎ。でもまだキスまでだよ?……フィアにはまだ早いから。

ただでさえ急に体が成長したせいで負担が掛かってるのに、これ以上はフィアが危険だからね。

せめて肉体と精神年齢が一致してからにしよう?前世の記憶があるとはいえ、この世界に生まれてきてまだ10年しか経っていないんだから」

「わたし…ぜんせの…きおく…ある…から…ぜんぶ…わかって…るよ?」

「……うん。でも、俺はフィアのことを大切にしたいんだ」

「……ぜんせ…では…おとな…だった…から…だいじょうぶ…だよ?」

「前世では大人だったとしても、今世ではまだ10歳だよ?
肉体年齢に引きずられることもあるでしょう?それはまだ肉体と精神が一致してないってことなんだよ?
それに、フィアは思ってるよりも大人じゃないからね?」

「……ふぇ?」

「フィアは愛情に飢えているでしょう?小さい頃から愛されていなかったから……。だから、心が愛情を求め始めた時から止まっているんじゃないかな?」



……あぁ、なんて残酷な人。私が、今まで自覚していながらも、認めることを拒否し続けていたことを、認めさせようとするなんて。


ルドの言葉を聞いて、会話できるだけの理性が戻ってくる。



「ええ、そうね。私はただの寂しがり屋よ。いつ見捨てられてしまうのかと、ビクビクしているのよ。見捨てられてしまう前に、どうにかして貴方を繋ぎ止めようとしているのね……きっと。」



いつまでも誰にも愛されることのなかった前世の……。


もう愛されることはないと思っていた。


今世は愛し愛されたいという前世の気持ちが、私を幼くしているのかもしれない……。



「あぁ、そんなに悲しそうな顔をしないで…フィア。俺は絶対にフィアを見捨てたりなんてしないよ?

むしろフィアが嫌になって逃げ出そうとしても、もう手放せないからね?
どんな方法を使ってでもフィアを引き止めるし、いっそのこと監禁しておけばいいのかな?
手足に鎖をつけて、首には首輪を。

もちろん、フィアの綺麗な肌に傷を付けないようにするから安心して?監禁しておけばフィアは俺以外の誰にも会わなくてすむし、目移りもしないでしょう?」



ルドが瞳の奥に仄暗い闇を抱えながら微笑む。

その瞳は絶対に逃がさないという強い意志を持ちながらも、どこか不安げだ。


……どうしてそんなに不安げなの?

もしかして、私がいつか逃げ出すと思ってるの?


……そんな事ないのに。



「ルド?何がそんなに不安なの?」

「……え?」

「本気で監禁するとでも言えば、私が逃げ出すとでも思っているの?
私の愛を甘く見ないで!
一人で監禁されるのは嫌だけど、ルドがずっと一緒にいてくれるって言うんだったら、私は喜んで監禁されるわよ?」

「……」

「私はあなたを愛しているの。あなたにだったら、たとえどんなことをされてもいいと思ってるわ」

「……フィア」

「愛してるわ」

「俺も愛してるよ」



お互いに見つめ合い、今までで一番甘いキスをする。

と、同時に……。



「……んぁ。るどぉ、また…からだが…あつくなってきたぁ……」

「……んぅ。でもやっぱり暫くはキスで我慢しようね?」

「……んもー!いじわるー!」



………それから数年の間は、発情期中でもキス以上先へは進まないのであった。


少し先へ進むのは、フィアが14歳になった頃であろうか……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

婚約破棄したい悪役令嬢と呪われたヤンデレ王子

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「フレデリック殿下、私が十七歳になったときに殿下の運命の方が現れるので安心して下さい」と婚約者は嬉々として自分の婚約破棄を語る。 それを阻止すべくフレデリックは婚約者のレティシアに愛を囁き、退路を断っていく。 そしてレティシアが十七歳に、フレデリックは真実を語る。 ※王子目線です。 ※一途で健全?なヤンデレ ※ざまああり。 ※なろう、カクヨムにも掲載

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

貴族としては欠陥品悪役令嬢はその世界が乙女ゲームの世界だと気づいていない

白雲八鈴
恋愛
(ショートショートから一話目も含め、加筆しております) 「ヴィネーラエリス・ザッフィーロ公爵令嬢!貴様との婚約は破棄とする!」  私の名前が呼ばれ婚約破棄を言い渡されました。  ····あの?そもそもキラキラ王子の婚約者は私ではありませんわ。  しかし、キラキラ王子の後ろに隠れてるピンクの髪の少女は、目が痛くなるほどショッキングピンクですわね。  もしかして、なんたら男爵令嬢と言うのはその少女の事を言っています?私、会ったこともない人のことを言われても困りますわ。 *n番煎じの悪役令嬢モノです? *誤字脱字はいつもどおりです。見直してはいるものの、すみません。 *不快感を感じられた読者様はそのまま閉じていただくことをお勧めします。 加筆によりR15指定をさせていただきます。 *2022/06/07.大幅に加筆しました。 一話目も加筆をしております。 ですので、一話の文字数がまばらにになっております。 *小説家になろう様で 2022/06/01日間総合13位、日間恋愛異世界転生1位の評価をいただきました。色々あり、その経緯で大幅加筆になっております。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

処理中です...