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1章 運命の出会い
第6話 私は貴方だけを求めていた…
しおりを挟む「ねぇ、ルド」
「ん?どうしたの?」
「ルドの竜化した姿がまた見たいわ」
「竜化?」
「ええ。……私、竜が大好きなの」
私は前世でファンタジーで出てくる竜に憧れていた。
艶々した鱗に触りたいと思うし、何よりその強さが素晴らしい。
強く気高いのに懐に入れた者には優しいところが大好きなのであった。
キラキラした目でじーっとルドを見ていると……。
「クスッ。いいよ?フィアの好きなようにして?」
妖艶な、蕩けるような微笑みを浮かべた。
色気がありすぎる微笑みの破壊力は凄まじかった。
その微笑みだけで腰が抜けそうである。
そして、ルドが姿を変えてくれた。
……本当、さっきも見たけど美しいわ。
ずっと見ていられるの。
「触れてもいい?」
「いいよ」
金色の瞳が目を細め、愛おしいというように瞳を蕩けさせる。
私はうっとりと眺め、手を伸ばして鱗に触れた。
「思ったよりも鱗は鋭くないのね。てっきり触ったら手が切れるのかと思っていたわ」
《ああ、それは、感情に左右されるみたいなんだ》
「感情に?」
《うん、この姿になって分かったんだけど、イラついてれば鱗は鋭くなるし、心が穏やかなら触っても手が切れることはないみたい。まぁ、コントロールできるんだけどね。意識しなくてもフィアが側にいれば心が落ち着いて穏やかになるから、自然と鋭くならないよ。触られたくないとか、威嚇とかで鱗は鋭くなるみたいだから……》
「そうなの?私もルドといると落ち着くわ。ルドと同じでとっても嬉しい」
本当に嬉しいと、満面の笑みで返した。
《…ぐッ》
「どうしたの?」
少し意地悪がしたくなったので、上目遣いで首を傾げ、ルドの瞳を見つめてみた。
するとルドが人の姿に戻って、私と目線が合うように膝をついて、抱きしめてきた。
「フィアは俺を試してるの?そんな可愛い仕草をして、しかも満面の笑みで。フィアの蠱惑的な匂いそのままじゃないか。俺を捉えて離さないよ」
「ふふふ、笑顔はわざとじゃないわ」
「それ以外はわざとなんだね」
「だって嬉しいの。ルドが私の表情一つに反応してくれるのが。私のことが本当に好きなのがよく分かって嬉しいのよ。今まで私のことを見てくれて、大切にしてくれて、私の表情一つ一つに反応してくれる人がいなかったから……」
目を伏せ、少し悲しそうにしながらも、口もとは笑みを浮かべて言った。
過去を思い出し、少し感傷的になっている。
その儚い笑みにルドは瞠目し、今にも消えてしまいそうだ、と思いながらも、そのあとに蕩けるような笑みを浮かべた。
「それって、今まで恋人がいなかったってこと?」
「……そうね。前世では好きな人が出来なかったし、人に大切にして貰えなかった。何処にも居場所はないし、家族は私を愛してくれなかった。
働いていた場所でも仕事を押し付けられて、残業の日々。それでも誰かに必要とされたかったし、認めて欲しかった。……居場所が欲しかったの。だから頑張ってやっていたわ。いつか破綻するってわかっていたけれど、それでもやめることは、私には出来なかった……。
そんな中で、乙女ゲームだけが心の支えだったわ。毎日少しずつ進めて、唯一の癒しにしていたの。毎日短い時間しか出来なかったけど、確かに私の癒しになっていたわ。そんな日々を過ごしていて、ある日、睡眠不足と疲労で深夜遅くにフラフラ歩いていたら、死んでしまったのよ」
『そんなことがあったのじゃな…』
『うう~。悲し過ぎるわ』
『ねえねえ、それってさ、魂がその世界に馴染んでなかったんじゃないかな?
……いいや、違う。サフィーの魂は元々この世界の住人のものだったんじゃないかな?それが、何かが原因で別の世界に行ってしまったんだよ。
多分、その世界で死んだことによって、サフィーが住んでいた世界の神が見つけて、この世界へ送ったんだ。
その世界では異質だったサフィーの魂は、その世界の住人にとっては本能的に恐怖や嫌悪を抱くものだった。
異質なものを排除しようとする人間によって、サフィーは大切にされなくて、辛いことばかりが起こったんだ。それに、運命の番がここの世界にいるから、誰も好きにならなかった。つまり、魂が運命の番だけを求めていたから、恋をしなかったんだね。
とっても一途な綺麗な魂だね。だからきっと、2人が出会うのは運命として決まっていたんだよ』
風の精霊王が優しく慈愛を込めた笑みを浮かべながら、そう言ってくれた。
風の精霊王の言葉を聞いて、どこか納得した。
「そう、じゃあ私の今までの苦しみは、全てルドに出会うためのものだったのね」
「フィア?」
「大丈夫よ。なんだか気持ちが楽になったわ。今までの事がルドに出会うためのものだったって考えたら、過去の辛いことを思い出しても平気だわ」
そう言って微笑むと、ルドは顔を歪めて、私を力一杯抱きしめた。
「俺の前で無理して笑わないで。フィアがずっと辛い思いをしてきたことは、変わらないよ?きっと心が沢山傷ついたよね?思う存分泣いていいんだよ?我儘言っていいんだ。少しくらい俺に頼って?」
その言葉を聞き、一筋の涙が私の頬を伝う。
「そんな優しいこと言わないで……。ルドなしじゃ生きられなくなるわ……。多分私、そんな事になったらすっごい重い女になるわよ?」
「なっていいよ?俺なしじゃ生きられなくなって?俺はもう、フィアなしじゃ生きられないから。もしフィアが他の人を好きになったら、俺達の家を創って監禁して俺だけしか見れないようにすると思うから」
……うん。ルドってヤンデレだったのね。
精霊王達はそこに触れてはいけないと思い、話題を変えた。
『そういえば、何故邪竜が世界を滅ぼせる程強くなれるかだけど、その正体がルードってことなら納得したわ』
「納得?何故?」
『ああ。それは、ルードには精霊の血が入っているからだ』
「どう言うこと?」
精霊の血が入っている?
どういうことなのかしら?
意味がわからないわ。
『精霊からサフィー達の世界へ干渉してはいけないことは知っているか?』
「いいえ?」
そんな事は知らなかった。
『実はその原因なんだが、ルードに関係があるんだ』
「え?」
『ルードは“精霊王の王”とその伴侶の竜族の子供なんだが、“精霊王の王”の伴侶がルードを身籠った時に、愚かな人間どもに襲われそうになったんだ。それに“精霊王の王”がブチギレて、危うく世界が滅亡しそうになったんだよ。まぁ、なんとか俺達で止めて、襲おうとした人間とそれに関係する者達を殺すことで収めたんだが。それで、精霊側からサフィー達の世界へ干渉してはいけないという決まりが出来たんだ。……下手したら世界が滅亡するからな』
知らされた事実が衝撃的過ぎて、何も言えない。
乙女ゲームの裏設定みたいなものに、驚きである。
「そんな事があったのね。というか、ルド、貴方って“精霊王の王”の息子だったのね。しかも母親は竜族って」
「うん、そうみたい。あんまり実感ないけどね。俺は両親が誰なのか知らなかったから、親が生きているのは変な感じだよ。なんで俺をエルフの森に置いていったのか、それは知りたいかな」
てっきりもう死んでいると思っていた両親が生きていると知り、しかも父親は“精霊王の王”という衝撃の事実を知り、実感は湧いていないものの何故置いていったのかは知りたいみたいだ。
怒りも悲しみも、まだ何も感じていないようだが、もし何かあった時は、その時は私が支えようと思うのであった。
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