雨女

小雨深子

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雨女

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 『雨女』
 私は晴れの日が嫌いだった。
元々日光に弱いのもあったが、晴れた空を見るとキラキラして腹が立った。
晴れた週末お洒落着を着て街に出かける女達を見て嫉妬した。兎に角晴れの日は、ブスが目立つので極力外に出るのが嫌だった。
それと違い雨の日は良い。華やかな傘をさしても、顔を深く隠せる。
昔から雨の音を聞いてると安心できた。
 こんな風になったのも、学生の時に好きだった男の子に『ブス』と言われたのがきっかけで。
今になれば、大した事ではないのかもしれないが、幼気な女の子には心無いその発言はボディーに深く刺さったまま。
その時間は私の中では風化されず、今でも傷は癒えぬまま。こんなしょうもないアラサー女子ができあがってしまったのだった。
私はこんな事自分で言うのも何だが、別に特別ブスでもない中の中ぐらいには、ランクインされているとは思っている。
何故なら、ソコソコには世間で言う恋愛イベントが起こっている。
もしかしたら不幸オーラが出た幸薄フェイスが、マニアックな需要の一定層に受けているのかもしれないのだが。フラグがいくら立っても、男と女のそういうエトセトラになっても、私の中の深く入ったボディーブローがどのラウンドでも効いてきているのだ。
ダメージゲージが一向に回復してくれない。なんて鬼畜ゲーなのだろうか。
女性用の風俗にも行った。レズ風俗にも行って見た。どんなに課金しても治らない。
しばらく及んでいない私の女の園は、きっと蜘蛛の巣が張ってしまったに違いない。
それからという物職場でも極力マスクをして、万年風が怖い人になりつつある。
どんどん男への免疫機能が無くなり、女への劣等感が高まって、モンスターアラフォーの階段を一個飛ばしで駆け上がってしまっているのだった。
 ある日の朝。今日はジメジメとした雨。とても良い日だ。通勤の途中コンビニによりホットコーヒーを買う。
コーヒーを飲みながら駅へ向かってしばらく歩いていると、後ろから誰かが走ってくるのが分かった。
バシャバシャと走る足音は私の前で止まり、振り向きざま急に傘の中を覗き込まれた。
 『キャッ』
 いきなり覗き込まれた事にビックリして小さな悲鳴をあげてしまった。
 『あっ、すいません。さっきのコンビニでお財布を忘れてかれて!驚かすつもりはなかったんです。』
 青年はそういうと、会釈をした。
 『あっ、あ、ありがとうございます。』
 私はしどろもどろして応えた。気持ちの悪いアラサー女だとつくづくへこむ。
 『華やかな傘だったのですぐ見つかって良かったです。マスク外すと凄く綺麗な方だったんですね!あっ、すいません変な事言って。僕通勤こっちなので行きますね!』
 そうお辞儀して歩いて行った。綺麗等と言われたのは産まれて初めてだ。私は単純な女だ。『ブス』と言われれば囚われ『綺麗』と言われた今、私は今までが嘘みたいに気持ちが晴れた。
 『あっ!待って!お礼がしたいので、、、良かったら連絡先を教えて貰えませんか?』
 気持ちよりも先に、言葉が口を出た。止まったままだったあの頃の傷が少し塞がった気がした。雨が上がりそして私は歩き出す。
  
 
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