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1章

第57話 裏切り者

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「とうとう追い詰めたわ」

 声を発したのは、俺の隣に立つリザラだ。

 鋭い眼差しでその言葉を発するリザラの横顔を見ながら、俺も冷徹な視線を前方に向ける。

 目の前に広がるのは、すでに暗闇に包まれた『暗闇の洞窟』の最深部。

 目の前には、フードを深く被った複数の男たちが立ちふさがっていた。

 暗闇の中で、彼らの顔は一切見えない。

 それでも、漠然とした不安が全身を包み込む。

 彼らの存在そのものが、何か計り知れないものを感じさせるからだ。

 男たちが静かに並ぶ中、俺たちは冷静さを保ちつつも、周囲を警戒する。

「ちっ、まさかここまで来るなんてよ」

 その一人が低い声で不満を漏らす。

「もう悪事はここまで、降参するなら今のうちよ」

 リザラがその男に向かって、冷たい声で言い放った。

 その鋭い言葉には、一切の余裕が見受けられない。

 リザラの意志の強さを感じ取った男たちは、少しの間、無言で互いの顔を見合わせた。

 そして、徐々に笑みを浮かべる男たち。

「確かにお前たちはあの『ゴーレム』からなんとか逃げてここまで来たようだが、俺たちはそんなに甘くねえぞ」

 笑い声を上げながら、男は俺たちを見下すように言った。

 俺とリザラは一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかったが、すぐに彼らの誤解に気づく。

 どうやら、俺たちがゴーレムから逃げてここまで来たとでも思っているらしい。

 実際は、ゴーレムを倒してここまで来たというのに。

「いや、さっきのゴーレムはもう倒しだぞ?」

 俺が軽く言い放つと、男たちの表情が変わった。

 どうやら予想以上に驚いたらしい。

「なに?」

 その言葉が、男たちの顔に動揺をもたらす。

 俺とリザラは互いに目を見合わせ、一気に形勢を有利に持っていくべきだと判断した。

 だが、その時、目の前の男たちが急に足を踏み出し、両手を上げて詠唱を始めた。

「もうお喋りは終わりだ!《第六級魔法/ボルト》」

 雷のような魔法が、一気に俺たちを包み込む。

 だが、俺の横に立つリザラは、まるで予測していたかのように前に出て、剣を振りかぶる。

 その剣が、放たれた雷の魔法を次々と弾き返していく。

「この程度で、アレンはやれないわよ」

 リザラの剣技に、男たちは瞬時に戦慄した様子を見せた。

 先程までの余裕の表情が一変し、恐怖がその目に浮かぶ。

「な、なんだと!?」

 その一瞬で、男たちは一気に立場を失った。

 それを見て、俺は静かに舌打ちをする。

 どこまでも下らない、単細胞な奴らだ。

「おい《黒神》の者達よ、もし降参するというのなら見逃してやっても良いぞ」

 俺が冷ややかな笑みを浮かべて言うと、男たちはそれでもなお、強がりを見せる。

「ふざけんじゃねえよ!」

 その瞬間、全員が一斉に魔法の詠唱を始め、複数の火球が俺たちに向かって飛んでくる。

 だが、今回はリザラだけでは全てを捌けるわけではない。

 俺が前に出ることを決め、魔法を行使する。

《第四級魔法/ウォーターウォール》

 俺が発動させた水の壁が、空間に出現する。

 その壁に、奴らが放ったファイアボールが衝突する音が響く。

 だが放たれたファイアボールは水壁に吸収され、一瞬で消え去る。

「な、なんだと」

 男たちは目を丸くして驚愕の表情を浮かべる。

 その驚きの目の前で、俺は冷徹に言い放つ。

「お前たちはどうやら、俺たちがゴーレムから逃げてきたと思っているようだが、実際は俺たちがゴーレムを倒してきたんだ。さて、どうする?」

 俺が挑発的に言うと、その時、何かが変わった。

 後ろにいた一人の男が、ヨロヨロとした様子で前に出てきた。

 彼は恐怖と絶望が入り混じった顔をしており、何かを決意したようだ。

「い、命だけは助けて下さい、情報は知っている限りお話しします。ど、どうか」

 その言葉に、俺の中で一瞬、疑念が浮かぶ。

 しかし、すぐにその疑念を振り払い、彼の口から出るであろう情報に期待を込めて、冷静に答える。

「そうだな、お前、名前はなんて言う?」

「わ、私の名はクリムです」

 クリムと名乗った男は、恐怖に震えながら次々と話し始める。

 その内容は、俺たちが必要とする情報だ。

 だが、後ろの奴らがそれを許さなかった。

「おいクリム貴様! 我らが主人を裏切るというのか!」

「この裏切り者め、死んで詫びろ」

 仲間同士でありながら、彼を裏切り者として非難し、再び魔法を放ってきた。

 しかし、俺はそんな彼らの魔法を全て消し去る。

「すまんが、お前達の魔法は無意味だ《第三級魔法/ヴォイド•マニフェスト》」

 無の力を発動させ、放たれた魔法が全て消失する。

 その後、俺は冷徹に最後の問いを投げかける。

「最後にもう一度言う、お前達は俺に情報を渡す気はあるか?」

 すると、男たちは冷静になり、渋々、頷く。

 それを見た俺は、にやりと笑いながら彼らに向けて最後の忠告を放つ。

「それでいい」

 そして、今度こそ、完全に支配権を握った瞬間だった。
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