上 下
53 / 57
1章

第53話 鉄の巨人、ゴーレム

しおりを挟む
 どんどん近づいてくる揺れ。

 まるで何かの巨体が地面を叩いているかのように感じ取れる。

 どんどんとその震動が強まる中、あのフードを被った男が魔法陣の展開をやめて、俺たちに冷ややかな視線を向けて言い放つ。

「もうお前らに命はねえよ。残念だったな」

 その言葉はまるで冷たい刃物のように胸に刺さり、俺の心に不安の種を蒔く。

 男はそう言ってから再び背を向け、逃走を始めた。

 一体何がしたいのか、俺はその行動の意図を掴むことができずに、ただ思考を巡らせる。

 そんな中、隣にいたリザラが男を追いかけるために足を進めた。

「ちょっと、待ちなさい!」

 彼女の叫びは洞窟の静寂を破り、エコーのように響き渡る。

 しかし、リザラが足を進めた瞬間、地面が叩き割れた。

「ゴオオオオオオオ!!!!!」
 
 突如として現れた巨大なゴーレム。

 その姿はまさに恐怖そのものであり、岩と土でできたその体は、不気味なまでに威圧感を放っていた。

 どうやらあの男は、魔法陣を展開し、地面に振動を与えることで、この洞窟の守護者であるゴーレムを引き寄せたらしい。

(厄介だな、ゴーレムは前世の敵モブとして強かった記憶がある)

 俺の頭の中には、前世の記憶が呼び起こされる。

 ゴーレムは屈強な鋼の体を持ち、HPはかなり多かった。

 それに加えて、あの拳に宿る破壊力は計り知れない。

 全体重を乗せたその拳は、たとえどんな防御魔法のバリアも一瞬で崩してしまうだろう。

 冷や汗が背筋を流れるのを感じながら、俺はリザラに向かって尋ねる。

「リザラ、連携の戦闘経験はあるか?」

「ええ、多少はあるわよ」

 リザラの答えには自信が感じられた。

 それならば、俺の戦術を彼女に伝えよう。

 彼女は前衛として戦ってもらい、俺は後方から魔法で支援する。

「なら俺が後方から魔法で支援をするから、前衛として奴を引きつけながら戦ってくれ」

「分かったわ!」

 俺は彼女に指示を出し、共にゴーレムを倒すための行動を開始する。

 リザラは一瞬でゴーレムとの間合いを詰め、剣を構える。

 彼女の目には決意が宿り、力強い一撃を繰り出す。

 しかし、その刃はまるで鋼の壁にぶつかるように、全くと言っていいほど歯が立たなかった。

 リザラの振るわれた刃先は跳ね返り、その反動で彼女は体勢を崩してしまう。

 すると、ゴーレムはその隙を狙うかのように動き出した。

《第三級魔法/フェニックス・フレイム》

 俺の片手から放たれた炎の塊が、ゴーレムの体に直撃する。

 煉獄の如く燃えさかり、奴は白煙に包まれた。

 しかし、ゴーレムの鉄壁とも言うべき鋼の体には、微塵の傷すらつかないようだった。

「ガアアアアアア!!!!」

 ゴーレムは怒りの咆哮を上げ、リザラを無視して俺に目掛けて突進してくる。

 その巨体はまるで自然災害のようで、逃げる間もなく拳を振り下ろしてきた。

 俺は瞬時に対応し、その悪魔的な拳から逃れるために転移魔法を発動する。

「流石はゴーレムだな。《第三級魔法/ヴォイド・シフト》」

 無の力を利用して、リザラの元へ転移する。

 この魔法は普通の転移魔法とは違い、転移した場所が分かりにくいという特徴がある。

 俺が突然姿を消したのを見たゴーレムは、驚いた様子で周りを見渡している。

 俺はリザラの方へと視線を送り、状況を確認する。

「リザラ、一応、奴の弱点が分かったぞ」

「え!?」

 俺はゴーレムが突進してきた際に気づいたことを説明する。

 奴の目には宝石が埋め込まれているのだ。

 普通、ゴーレムというのは体のどこかに宝石、言わばコアが埋め込まれており、それを破壊することができればゴーレムを倒せる。

 しかし、今回のゴーレムにはそんな宝石が見当たらなかった。

 俺は試しにフレイムを放ち、奴の弱点を探していたのだが、幸運にも近くに来てくれたことで、少しでもその情報を得ることができた。

 そんなことを考えていると、ゴーレムは俺の居場所に気づき、再度走り出して突進してくる。

「リザラ、注意を引き付けてくれ。そうすれば一瞬で片を付けられる」

「了解」

 俺はリザラに指示を与える。

 彼女の鋭い反応は頼もしく、信頼を寄せるには十分だった。

 先ほどからゴーレムは俺を集中的に狙っているが、おそらくリザラとの比較から、まず俺を始末した方が良いと判断したのだろう。

 なかなか賢い魔物だ。

 しかし、それに対抗するための戦略はしっかり立てていた。

「喰らいなさい、ゴーレム!《第四級剣技/《タイド・水刃》」

 水の刃が、ゴーレムに対して連続して流れるように斬りかかる。

 まるで水のようなしなやかさを持ちながら、リザラはゴーレムの攻撃を巧みに回避し、反撃を続けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界でスローライフを満喫する為に

美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます! 【※毎日18時更新中】 タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です! ※カクヨム様にも投稿しております ※イラストはAIアートイラストを使用

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

処理中です...