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1章

第46話 アジトの特定

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 生徒会室には静寂が広がっていた。

 俺とリザラが話している間、時計の針が規則正しく音を刻んでいるだけで、この部屋には他に誰もいない。

 ここだけがまるで異世界に隔離されたような空間に感じられる。

 「それでリザラ、情報は集まったか?」

 俺は軽くため息をつきながら、リザラに問いかける。

 前回、リザラに頼んでおいた地図の情報を元に、奴らの拠点を絞り込むという仕事を与えていた。
 
 するとリザラは少し微笑んでから、口角を上げて答える。

 「ええ、ある程度絞ったわよ」

 その言葉に俺は一瞬、目を見開いた。

 正直、予想以上の速さだ。

 リザラの情報収集能力は、やはりただの生徒会役員に収まるレベルではない。

 「では聞かせてくれ」

 俺は身を乗り出して、リザラの話を促す。

 「まず、拠点になりそうな場所を三つ見つけたわ」

 リザラはテーブルに広げた地図を指差しながら説明を続ける。

 「一つは王都付近にある『暗闇の洞窟』、二つ目は『魔法の森』、そして三つ目が『南の都市、ハール』よ」

 リザラが示す三か所に、俺の視線が集中する。

 なるほど、どれもいかにも敵が身を隠すには適していそうな場所だ。

 ここまで少ない情報から候補を絞り出すリザラの腕前には、改めて感心せざるを得ない。

 「魔法の森は恐らく無いだろうな、あそこは魔物だらけで人が近寄れる場所じゃない」

 俺は頭の中で過去の経験を思い返す。

 以前、冒険者として魔法の森に足を踏み入れたことがあったが、あまりの危険さに仲間が窮地に立たされた。

 あんな魔物の巣窟で活動する事はほぼ不可能だろう。

 「やっぱりそうよね、となるとこの二つかな」

 リザラは少し頷きながら、地図上にある、暗闇の洞窟と南の都市『ハール』の位置に指を移した。

 暗闇の洞窟。

 名前からして、すでに怪しさ満点だ。

 内部はその名の通り真っ暗で、昼夜を問わず光が差し込まない。

 まさに裏取引にはうってつけの場所だ。

 奴らが闇に紛れて動くには、これ以上ない場所だろう。

 そして次に、俺の視線が向いたのは『南の都市、ハール』だった。

 「南の都市、ハールで隠れる場所なんてあるのか?」

「恐らく、地下ね」

 「地下?」

 俺は驚きと共にリザラを見つめる。

 ハールの地下か。

 確かにこの都市には古くから広がる地下街がある。

 物語の中でも、まだ発見されていないダンジョンの一部として語られていた記憶があるが、まさかそれが今回の件に絡んでいる可能性があるとは思わなかった。

 「ええ、ハールの地下は意外と広いらしいわ。昔の都市計画の名残がそのまま残っている、という話も聞くけど」

 リザラは地図を指しながら、地下の構造について説明してくれる。

 その内容に俺は内心、息を飲む。

 (ここまで詳細に情報を集めてくれたのか。やはりリザラの情報収集力は凄まじいものがあるな……)

「リザラ、本当に凄いな」

 俺は改めてリザラの才覚に感心し、率直に賞賛の言葉を送る。

 すると、リザラは急に頬を赤くして、モジモジとし始める。

 「も、勿論よ。まあ、アレンには及ばないけど……」

 リザラの照れた様子を見て、俺は思わず笑みが浮かんでしまう。

 「いや、そんなことはないさ。俺ではこんな少ない情報で特定をする事は出来ないだろう」

 俺が褒めると、リザラはさらに恥ずかしそうに目をそらしながら、小さな声で「ありがとう」と呟いた。

 (なんだか、リザラの頬が真っ赤になっているんだが、もしかして俺の事が……)

 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎるが、すぐにかぶりを振って否定する。

 元々リザラは、勇者であるカイルのヒロインだ。

 この物語の中で、俺のような悪役貴族がモテるはずがないだろう。

 そんな妄想に浸るのは、さすがに分を弁えないといけない。

 「さて、話を戻そう。奴らのアジトが暗闇の洞窟かハールの地下にあるとすると、どちらを先に探るべきだろうな」

「やっぱり暗闇の洞窟が優先ね」

「暗闇の洞窟か」

「ええ、南の都市ハールも怪しいけれど、洞窟の方がより人目を避けやすいと思うの」

 確かに、その通りだ。

 ハールの地下は広いとはいえ、人々の目に触れる可能性がある。

 だが暗闇の洞窟ならば、監視の目も届きにくい。

 奴らがこそこそと暗躍するには、もってこいの場所だろう。

 「わかった、ではまず暗闇の洞窟を探るとしよう」

 俺は地図を折りたたみ、覚悟を決めた表情で口を開く。

 「準備が整い次第、出発だな」

 「ええ、準備は任せて」

 リザラは頷き、少しの緊張感を帯びた声で答えた。

 その目には、闘志が宿っている。

 俺とリザラが並んで戦う光景を思い浮かべると、俺の中にも不思議と勇気が湧いてきた。
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