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第六章 大ヤコブ Jacobus Zebedaei
Ⅳ・7月18日
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「最近この人よく出ているわね」
いつものように晃平と並んだカウンター。座敷にあるテレビに顎を振りながら、女将さんが声を掛けてくる。
「こいつって?」
「ほら、タムシンって。田村慎一だっけ? ここ何年もテレビで見る事なかったのに、ここ数日ずっと出ずっぱりよ」
テレビに映る男の顔に、見覚えがない分けではなかったが、この男が長い間テレビに出ていなかったのか、最近よく出るようになったのか、そんな事は知るところではなかった。
「それにしても、"TAMATAM"一色だな」
「えっ? そうなんですか?」
晃平が不思議そうな顔で見てくる。
「お前テレビ見ていないのか?」
「ああ、あんまり見ないですね」
「ニュースもワイドショーも、それにどれだけ特番組まれているか。朝から晩まで、毎日毎日、"TAMTAM"だよ」
「山﨑ちゃん、もうちょっと待ってね。晃平ちゃん、はい、盛り蕎麦大盛り」
女将さんが盛り蕎麦を運んできた。さっきまでの興味を、一瞬にして削がれたように、晃平が蕎麦を啜り始める。
「ずっとこれ、やっているんですか?」
「そうよ。毎日毎日、朝から晩までずっとこれ。今日もまた新しい殺人予告が出されたとかで、朝からずっとよ。私だって楽しみにしているドラマがあるのに、全部なくなっちゃったわよ」
蕎麦を啜り始めた晃平に、女将さんが代わる。
テレビに向けられたその顔は、嫌悪感が剥き出しになっているが、それは"TAMTAM"に向けられたものではなく、楽しみにしていたドラマを奪ったテレビに対してのものだと読み取れた。
「大ヤコブの殺人予告ですね」
「次は大ヤコブって奴なのか? そう言えば小ヤコブって奴もいたな」
大盛りの蕎麦を一気に啜り上げたからか、晃平の声は少し噎せたものになっていた。
「七月二十五日が大ヤコブの聖名祝日なんですよ。この殺人犯は自分が練った計画を、楽しんでいるとしか思えないですね。聖名祝日のちょうど一週間前に、殺人予告を書き込んでいくなんて。全部が全部、計画的で本当むかつきます」
「連続殺人犯なんてそんなもんだろ? 突発的な衝動で人を殺している訳じゃないんだ。綿密な計画を立てて実行する。人を殺すだけじゃなく、計画を立てるところから愉しんでいるんだよ」
「はい、山﨑ちゃん。カツ丼お待たせ」
頼んだカツ丼は今日も大盛りになっていた。カウンターの中の大将に目配せし、遠慮なくと、カツを頬張る。
「お前、毎日カツ丼で飽きないのか?」
「えっ? 毎日じゃないですよ。二日に一回くらいです。それに晃平さんだって、毎日盛り蕎麦じゃないですか」
「ああ、腹が膨れれば、何だっていいんだよ」
「腹が膨れればなんでもいいって、晃平ちゃん失礼ね! うちの蕎麦は父ちゃんの手打ちなのよ、ちゃんと味わって食べてちょうだい!」
「はいはい、ご馳走様でした」
晃平が合掌している。
カツを頬張りながらテレビに目をやると、赤いパーカーの人物が映し出されていた。
くっそ、"TAMTAM"の奴め。フードの下で一体どんな表情を浮かべているんだ? 今も七月二十五日が訪れる事を楽しみに待っているのか。
「俺、ちょっと外で煙草吸っているわ」
立ち上がった晃平に、呑気なものだと言わんばかりの目を向ける。本当は口に出したかったが、含みすぎたカツとご飯がまだ口に残っていた。
「山﨑ちゃん、早くこの犯人捕まえてちょうだいね。木曜日のドラマなんて、次が最終回なのに、先週もやらなくて。これで今週もやらなかったら、ストレスが爆発しちゃう」
まだ飲み込みきれないご飯に声が出せず。首だけで返事をする。女将さんに言われなくても、十二人の殺害計画なんて見過ごせるはずがない。何が何でもこの手で捕まえてやる。
いつものように晃平と並んだカウンター。座敷にあるテレビに顎を振りながら、女将さんが声を掛けてくる。
「こいつって?」
「ほら、タムシンって。田村慎一だっけ? ここ何年もテレビで見る事なかったのに、ここ数日ずっと出ずっぱりよ」
テレビに映る男の顔に、見覚えがない分けではなかったが、この男が長い間テレビに出ていなかったのか、最近よく出るようになったのか、そんな事は知るところではなかった。
「それにしても、"TAMATAM"一色だな」
「えっ? そうなんですか?」
晃平が不思議そうな顔で見てくる。
「お前テレビ見ていないのか?」
「ああ、あんまり見ないですね」
「ニュースもワイドショーも、それにどれだけ特番組まれているか。朝から晩まで、毎日毎日、"TAMTAM"だよ」
「山﨑ちゃん、もうちょっと待ってね。晃平ちゃん、はい、盛り蕎麦大盛り」
女将さんが盛り蕎麦を運んできた。さっきまでの興味を、一瞬にして削がれたように、晃平が蕎麦を啜り始める。
「ずっとこれ、やっているんですか?」
「そうよ。毎日毎日、朝から晩までずっとこれ。今日もまた新しい殺人予告が出されたとかで、朝からずっとよ。私だって楽しみにしているドラマがあるのに、全部なくなっちゃったわよ」
蕎麦を啜り始めた晃平に、女将さんが代わる。
テレビに向けられたその顔は、嫌悪感が剥き出しになっているが、それは"TAMTAM"に向けられたものではなく、楽しみにしていたドラマを奪ったテレビに対してのものだと読み取れた。
「大ヤコブの殺人予告ですね」
「次は大ヤコブって奴なのか? そう言えば小ヤコブって奴もいたな」
大盛りの蕎麦を一気に啜り上げたからか、晃平の声は少し噎せたものになっていた。
「七月二十五日が大ヤコブの聖名祝日なんですよ。この殺人犯は自分が練った計画を、楽しんでいるとしか思えないですね。聖名祝日のちょうど一週間前に、殺人予告を書き込んでいくなんて。全部が全部、計画的で本当むかつきます」
「連続殺人犯なんてそんなもんだろ? 突発的な衝動で人を殺している訳じゃないんだ。綿密な計画を立てて実行する。人を殺すだけじゃなく、計画を立てるところから愉しんでいるんだよ」
「はい、山﨑ちゃん。カツ丼お待たせ」
頼んだカツ丼は今日も大盛りになっていた。カウンターの中の大将に目配せし、遠慮なくと、カツを頬張る。
「お前、毎日カツ丼で飽きないのか?」
「えっ? 毎日じゃないですよ。二日に一回くらいです。それに晃平さんだって、毎日盛り蕎麦じゃないですか」
「ああ、腹が膨れれば、何だっていいんだよ」
「腹が膨れればなんでもいいって、晃平ちゃん失礼ね! うちの蕎麦は父ちゃんの手打ちなのよ、ちゃんと味わって食べてちょうだい!」
「はいはい、ご馳走様でした」
晃平が合掌している。
カツを頬張りながらテレビに目をやると、赤いパーカーの人物が映し出されていた。
くっそ、"TAMTAM"の奴め。フードの下で一体どんな表情を浮かべているんだ? 今も七月二十五日が訪れる事を楽しみに待っているのか。
「俺、ちょっと外で煙草吸っているわ」
立ち上がった晃平に、呑気なものだと言わんばかりの目を向ける。本当は口に出したかったが、含みすぎたカツとご飯がまだ口に残っていた。
「山﨑ちゃん、早くこの犯人捕まえてちょうだいね。木曜日のドラマなんて、次が最終回なのに、先週もやらなくて。これで今週もやらなかったら、ストレスが爆発しちゃう」
まだ飲み込みきれないご飯に声が出せず。首だけで返事をする。女将さんに言われなくても、十二人の殺害計画なんて見過ごせるはずがない。何が何でもこの手で捕まえてやる。
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