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97 ミッドウェー海戦の終焉
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一九四二年七月五日(現地時間:四日)払暁より始まったミッドウェー海戦は、日付が変わる前までに終結した。
一八四〇時(現地時間:二一四〇時)前後に互いの存在を探知して始まった日米両軍の水上艦艇による夜戦は、二〇三〇時(現地時間:二三三〇時)頃までに決着が付いていた。
海戦の最終局面で行われた近藤信竹中将直率の第四戦隊による雷撃は、ウィリス・A・リー少将が直率する戦艦ワシントン、ノースカロライナに完全なる止めを刺したのである。
この時、最初に放たれた愛宕、高雄の魚雷は浅深度設定と信管の過敏調整によって目標到達直前に自爆してしまうという失態に見舞われたが、時計員が魚雷の早発に気付いたため、改めて深度と信管の感度を調整し直した摩耶、鳥海が米新鋭戦艦二隻への雷撃を成功させていた。
これにより速力を低下させていたワシントンは回避運動もままならず右舷に五本、ノースカロライナも右舷に四本の魚雷を喰らい、被雷から十五分後にはそれぞれの艦で総員退艦命令が発令された。
両戦艦への魚雷命中を確認した近藤中将は、一九四八時(現地時間:二二四八時)、麾下艦艇に集結を命じた。
損傷空母にとって脅威となる米新鋭戦艦に魚雷を命中させて撃沈確実に追い込んだ以上、殿の役割は果たしたと判断したのである。
また、戦場海域からの離脱する時間が遅くなればなるほど、明朝、空襲を受ける可能性が高くなる。
近藤が集結命令を出した時点で、日の出まで六時間を切っていた。米軍に新手の四空母がおり、ミッドウェーの基地航空隊が健在であると思われる以上、この海域に長く留まっていることは危険であった。
この時点で伊勢は十六インチ砲弾十二発を被弾して炎上しており、機関部の損傷や操舵室への浸水などによって、一九三〇時過ぎには航行不能となっていた。
伊勢の復旧は絶望的と見た武田艦長は、直衛隊の第十六駆逐隊に乗員の救助を要請した上で、総員退艦命令を発した。直後より、駆逐艦天津風と時津風による乗員の移乗が始まっていた。
この伊勢乗員救助や、沈没艦の乗員救助のために費やされる時間を考えれば、日の出まで六時間未満というのは危険な数字であった。
近藤の集結命令は、かなり際どいところで出されたのである。
この時点で、第二艦隊では第四水雷戦隊旗艦・由良が米巡洋艦戦隊からの集中砲火を受けて撃沈されていた。
探照灯を照射して麾下駆逐隊の突撃を援護したために、由良に砲撃が集中してしまったのである。彼女は魚雷発射には成功したものの、四水戦司令官・高間完少将や由良艦長・佐藤四郎大佐など、艦の主要な乗員は戦死していた。
しかし一方で、米巡洋艦戦隊は由良に砲火を集中させ過ぎてしまったために、朝雲以下駆逐艦の接近を許すことになってしまった。
結果として、朝雲以下六隻の発射した魚雷が次々とポートランド以下の重巡を襲い、さらに止めとして前衛隊を務めていた第二駆逐艦の各艦(魚雷の再装填を行った夕立も含む)も雷撃に加わり、米巡洋艦戦隊は大損害をこうむることになったのである。
最終的に、この夜戦における日米両軍の沈没艦は次の通りであった。
日本:戦艦伊勢、軽巡由良
アメリカ:戦艦ノースカロライナ、ワシントン、重巡アストリア、ポートランド、ノーザンプトン、ペンサコラ、駆逐艦フェルプス、ウォーデン、アンダーソン、ラッセル
この他、アメリカ側では重巡チェスター、ニューオーリンズも魚雷を一本ずつ被雷し、速力は五ノット近くまでに低下していた。
一方、日中の航空戦を沈没艦なしで切り抜けた日本側は、この夜戦で初めて沈没艦を出してしまったのである。
さらに言えば、艦首に菊花紋章を戴く“軍艦”の沈没は開戦以来、初めてのことであった。
しかし、両軍の被害を見れば日本側が夜戦において優れた戦闘技量を発揮したことは明らかであった。米艦艇のレーダーとレーダー射撃の技術が未熟であったことに助けられた面はあるにせよ、夜戦部隊として編制された第二艦隊はその真価を示したのである。
日本側は二〇三〇時過ぎには集結を完了させ、伊勢と由良の乗員救助のために駆逐艦天津風、時津風、朝雲の三隻を残して戦場海域からの離脱を開始した。
アメリカ側で健在なのは五隻の駆逐艦(それでも一部の艦は損傷していたが)だけであり、彼女たちもまたワシントン以下艦艇の乗員救助に当たらねばならず、日本艦隊を追撃するだけの戦力は失われていた。
幸いなことに、日本側が海上を漂う米兵に機銃掃射などを加えるようなことは起こらなかった。しかし、沈没艦の数があまりに多過ぎたために、五隻の駆逐艦が脱出したすべての乗員を艦上に引き上げることは不可能であった。
リー少将やスプルーアンス少将、キンゲード少将の三提督は辛うじて救助されたが、スミス少将とフレッチャー少将は海戦の初期の段階で重巡アストリアが撃沈されたために乗員の救助が遅れ、他の多くのアストリア乗員と共に暗いミッドウェーの海に沈んでいったといわれる。
ワシントンを始めとする十隻の沈没艦の乗員の合計は七〇〇〇名以上であり、このうち、乗艦を無事に脱出して駆逐艦に救助されたのはおよそ二二〇〇名程度であった。
つまり、乗艦と共に沈んだ乗員の他に、海上に漂う将兵の多くが救助されなかったのである(ただし、一部の米兵は日本側の駆逐艦に救助されていた)。
最終的にミッドウェー海戦を通しての米海軍の戦死者は一万名以上に上り、これは真珠湾攻撃で戦死した二三〇〇名を遙かに上回る損害であった。
五月のフィリピン・コレヒドール要塞陥落で失われた七万名と比べれば数字の上でこそ軽微に見えるが、五隻の空母や二隻の戦艦、それに多数の航空機と搭乗員を失った点を考えれば、極めて甚大な損害であった。
一方、戦場海域に残された日本側の三隻の駆逐艦は、二一三〇時(現地時間:〇〇三〇時)過ぎには救助作業を切り上げて第二艦隊本隊の後を追って海域を後にした。
由良乗員で救助されたのは一〇〇名に満たなかったが、伊勢乗員は艦長・武田勇大佐も含めて八割近くが天津風、時津風に救助された。
その伊勢は二〇四三時(現地時間:二三四三時)、静かにミッドウェー沖の海に沈没した。
こうして双方の艦隊がミッドウェー沖からの離脱を図った結果、航空戦と水上砲戦という二つの戦いが一日の内に行われたミッドウェー海戦は終わりを告げたのである。
一八四〇時(現地時間:二一四〇時)前後に互いの存在を探知して始まった日米両軍の水上艦艇による夜戦は、二〇三〇時(現地時間:二三三〇時)頃までに決着が付いていた。
海戦の最終局面で行われた近藤信竹中将直率の第四戦隊による雷撃は、ウィリス・A・リー少将が直率する戦艦ワシントン、ノースカロライナに完全なる止めを刺したのである。
この時、最初に放たれた愛宕、高雄の魚雷は浅深度設定と信管の過敏調整によって目標到達直前に自爆してしまうという失態に見舞われたが、時計員が魚雷の早発に気付いたため、改めて深度と信管の感度を調整し直した摩耶、鳥海が米新鋭戦艦二隻への雷撃を成功させていた。
これにより速力を低下させていたワシントンは回避運動もままならず右舷に五本、ノースカロライナも右舷に四本の魚雷を喰らい、被雷から十五分後にはそれぞれの艦で総員退艦命令が発令された。
両戦艦への魚雷命中を確認した近藤中将は、一九四八時(現地時間:二二四八時)、麾下艦艇に集結を命じた。
損傷空母にとって脅威となる米新鋭戦艦に魚雷を命中させて撃沈確実に追い込んだ以上、殿の役割は果たしたと判断したのである。
また、戦場海域からの離脱する時間が遅くなればなるほど、明朝、空襲を受ける可能性が高くなる。
近藤が集結命令を出した時点で、日の出まで六時間を切っていた。米軍に新手の四空母がおり、ミッドウェーの基地航空隊が健在であると思われる以上、この海域に長く留まっていることは危険であった。
この時点で伊勢は十六インチ砲弾十二発を被弾して炎上しており、機関部の損傷や操舵室への浸水などによって、一九三〇時過ぎには航行不能となっていた。
伊勢の復旧は絶望的と見た武田艦長は、直衛隊の第十六駆逐隊に乗員の救助を要請した上で、総員退艦命令を発した。直後より、駆逐艦天津風と時津風による乗員の移乗が始まっていた。
この伊勢乗員救助や、沈没艦の乗員救助のために費やされる時間を考えれば、日の出まで六時間未満というのは危険な数字であった。
近藤の集結命令は、かなり際どいところで出されたのである。
この時点で、第二艦隊では第四水雷戦隊旗艦・由良が米巡洋艦戦隊からの集中砲火を受けて撃沈されていた。
探照灯を照射して麾下駆逐隊の突撃を援護したために、由良に砲撃が集中してしまったのである。彼女は魚雷発射には成功したものの、四水戦司令官・高間完少将や由良艦長・佐藤四郎大佐など、艦の主要な乗員は戦死していた。
しかし一方で、米巡洋艦戦隊は由良に砲火を集中させ過ぎてしまったために、朝雲以下駆逐艦の接近を許すことになってしまった。
結果として、朝雲以下六隻の発射した魚雷が次々とポートランド以下の重巡を襲い、さらに止めとして前衛隊を務めていた第二駆逐艦の各艦(魚雷の再装填を行った夕立も含む)も雷撃に加わり、米巡洋艦戦隊は大損害をこうむることになったのである。
最終的に、この夜戦における日米両軍の沈没艦は次の通りであった。
日本:戦艦伊勢、軽巡由良
アメリカ:戦艦ノースカロライナ、ワシントン、重巡アストリア、ポートランド、ノーザンプトン、ペンサコラ、駆逐艦フェルプス、ウォーデン、アンダーソン、ラッセル
この他、アメリカ側では重巡チェスター、ニューオーリンズも魚雷を一本ずつ被雷し、速力は五ノット近くまでに低下していた。
一方、日中の航空戦を沈没艦なしで切り抜けた日本側は、この夜戦で初めて沈没艦を出してしまったのである。
さらに言えば、艦首に菊花紋章を戴く“軍艦”の沈没は開戦以来、初めてのことであった。
しかし、両軍の被害を見れば日本側が夜戦において優れた戦闘技量を発揮したことは明らかであった。米艦艇のレーダーとレーダー射撃の技術が未熟であったことに助けられた面はあるにせよ、夜戦部隊として編制された第二艦隊はその真価を示したのである。
日本側は二〇三〇時過ぎには集結を完了させ、伊勢と由良の乗員救助のために駆逐艦天津風、時津風、朝雲の三隻を残して戦場海域からの離脱を開始した。
アメリカ側で健在なのは五隻の駆逐艦(それでも一部の艦は損傷していたが)だけであり、彼女たちもまたワシントン以下艦艇の乗員救助に当たらねばならず、日本艦隊を追撃するだけの戦力は失われていた。
幸いなことに、日本側が海上を漂う米兵に機銃掃射などを加えるようなことは起こらなかった。しかし、沈没艦の数があまりに多過ぎたために、五隻の駆逐艦が脱出したすべての乗員を艦上に引き上げることは不可能であった。
リー少将やスプルーアンス少将、キンゲード少将の三提督は辛うじて救助されたが、スミス少将とフレッチャー少将は海戦の初期の段階で重巡アストリアが撃沈されたために乗員の救助が遅れ、他の多くのアストリア乗員と共に暗いミッドウェーの海に沈んでいったといわれる。
ワシントンを始めとする十隻の沈没艦の乗員の合計は七〇〇〇名以上であり、このうち、乗艦を無事に脱出して駆逐艦に救助されたのはおよそ二二〇〇名程度であった。
つまり、乗艦と共に沈んだ乗員の他に、海上に漂う将兵の多くが救助されなかったのである(ただし、一部の米兵は日本側の駆逐艦に救助されていた)。
最終的にミッドウェー海戦を通しての米海軍の戦死者は一万名以上に上り、これは真珠湾攻撃で戦死した二三〇〇名を遙かに上回る損害であった。
五月のフィリピン・コレヒドール要塞陥落で失われた七万名と比べれば数字の上でこそ軽微に見えるが、五隻の空母や二隻の戦艦、それに多数の航空機と搭乗員を失った点を考えれば、極めて甚大な損害であった。
一方、戦場海域に残された日本側の三隻の駆逐艦は、二一三〇時(現地時間:〇〇三〇時)過ぎには救助作業を切り上げて第二艦隊本隊の後を追って海域を後にした。
由良乗員で救助されたのは一〇〇名に満たなかったが、伊勢乗員は艦長・武田勇大佐も含めて八割近くが天津風、時津風に救助された。
その伊勢は二〇四三時(現地時間:二三四三時)、静かにミッドウェー沖の海に沈没した。
こうして双方の艦隊がミッドウェー沖からの離脱を図った結果、航空戦と水上砲戦という二つの戦いが一日の内に行われたミッドウェー海戦は終わりを告げたのである。
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