身を引いても円満解決しませんでした

一肌脱いじゃう 4

　ステファンは急いで屋敷に戻った。
　しかし、迎えの中に執事をはじめ使用人とアノの姿はあったがエヴェリーナの姿はなかった。

　ステファンはアノを抱き上げ、嬉しそうに縋りつくアノの背中を撫でながら執事に何もなかったか問いただした。
　執事は無表情のまま、エヴェリーナが少し疲労のため休んでいる他は何もないと報告した。
　ステファンがエヴェリーナの部屋に向かおうとすると、
「お待ちください！奥様はしばらく安・・・いえ、お疲れですので起こさないよう申し遣っております！」
　執事がそう言って、引き留めようとする。
「・・・。顔を見るくらいはかまわないだろう。」
「いいえ。少し風邪気味で旦那様にお移ししてはいけないので、決して部屋に入れないようにときつく申し遣っております。」
「お父様、僕もお母様に会えないの。お風邪がうつるからって。だからお父様も我慢しなくちゃ。」
「・・・そうか。わかった、ではとう様はお仕事をしてくるからな。」

　アノを侍女に渡すと執事を執務室へ呼びつけた。
「で、本当は？リーナが私に会いたくないと？」
「滅相もありません。常に旦那様の事を気遣われておりますよ。」
「茶会でリーナにおかしな女が近づいただろう。なぜ報告をしない？」
「ああ、奥様から伺っておりましたが、小鳥のさえずり程度だから無視して良いとのことでした。」
　同僚から聞いた話ではそうではなかったようだが、否定されるとそれ以上は何も言えない。

「リーナの体調不良はそのせいではないのか？」
「いいえ、風邪と疲労だと聞いております。医師にも見せておりますので心配はございません。」
「じゃあ、顔くらい見てもいいじゃないか。」
「旦那様は今大事なお仕事されているだろうから、万が一にも風邪をうつしてはいけないと心配されております。無理にお会いになると、余計に負担をお掛けすることになりますよ。」
「・・・。あのバカな女がリーナを傷つけたのではないかと心配で戻ってきたのだ。」
「さようでございましたか。奥様の事は我ら使用人一同、お守りいたしますので旦那様はお仕事に邁進してくださいませ。お顔に隈が出来ておりますよ、今日はゆっくりできるのでしょうか。」
「ああ。」

　ステファンは不安いっぱいで急いで帰ってきたのに、愛しの妻に会えず自分の体を休めることになった。
　久々に疲れた体をふわふわのベッドに横たえる。しかし、横にエヴェリーナがいない事が辛い。どうしているのか不安でたまらない。
　もしかしたら体調不良などは嘘で、ステファンの不貞を疑ったエヴェリーナが自分に会いたくないだけかもしれないのだ。
　もしかして前のように出て行ってしまうのでは。いや・・・もういないのかもしれない。
　そう思い至ると、いてもたってもいられなくなったステファンはガウンを羽織るとエヴェリーナの部屋に向かった。

　ドアをそっと開けると、薄明かりが灯されそのそばにはメイドが付き添っていた。しかしそのメイドは椅子に体を預け深く眠っていた。
　だが、そんなことはどうでもよかった。
　あろうことかもう一人、見知らぬ男がいたのだ。
　しかもエヴェリーナのお腹に手を触れていた。そしてエヴェリーナに毛布をかぶせるとその額に口づけをし、
「我が守る。心配は要らぬ。」
　そう言った。

「貴様誰だ？！何をしている？！」
　ステファンの怒声に振り返った男は、とても容姿が整った美しい男だった。
　男は驚いたように、目を真ん丸にしてステファンを見た。困ったように意味なく右へ左へ視線を動かすと、そそくさと横を通りすぎドアを出て行った。
　ステファンがはっとして、ドアを飛び出したとき、そこには誰の姿もなかった。
「どういうことだ？誰なんだ？」
　ステファンは困惑の声を上げた。