上 下
20 / 34

番外編 竜のお使い様同盟

しおりを挟む
「まあ!!ヨハンナさん!」
はるばるドラン国から護衛を頼んでいたヨハンナが訪ねてきた。
喜んで応接室に招き入れた。

「エヴェリーナ様・・・これほどのご貴族様とは思わず気軽に訪ねてきて申し訳ありません」
ドランでは気軽に接していた令嬢が侯爵夫人として出迎えてくれて、冷や汗をかいている。
「本当にうれしいわ!ね、一緒に王都をまわりましょうよ!宿は決まってるの?うちに泊まっていって?」
怒涛の勢いに戸惑ったが、本当に歓迎をしてくれているようでうれしかった。
「あの実は・・・ロイド様が王都に遊びに来ないかと誘ってくださいまして」
顔を赤くするヨハンナは護衛として凛々しくあった時と違い、可愛く恥じらった乙女そのものだった。

「まあまあまあ!!余計なことを言いました、二人で楽しんでくださいね。ふふ。」
あの時、竜のお使い様に宝石をいただいた4人にこんな縁ができるなんて、本当にうれしい。
「い、いえ!宿はきちんと取ります!あの、王都を案内してくださるだけで・・・」
「あら、それならやはりうちに泊まってくださいね。夜にはステファンも帰ってくるし、ドラン国での思い出話しましょうよ!私たち、竜のお使い様同盟ですわ!」
「エヴェリーナ様・・・」

ヨハンナはドラン国で国を守る兵士になろうと武術を必死に身につけていた。
しかしいざ、試験を受け合格しても周りからのやっかみがひどかった。やっかみだけではなく、いじめや女性としての尊厳を奪うような暴力も受けそうになり兵団に失望した。
もちろん、襲ってきたりいじめをしてきたやつらは思い切り返り討ちにしてやったが。

上司に訴えても、無駄であり、ヨハンナは退団覚悟で王宮に兵団の規律、風紀をただすよう直訴の手紙を出した。
それは国威高揚を掲げ、騎士団、兵団の統率を厳しくしようとしている王宮の思惑と一致し、兵団に調査が入った。その結果、犯罪まがいのことをしていた輩と見て見ぬふりをしていた上司など投獄された。

しかし風通しが良くなるかというとそうではなく、いじめがなくなった代わりに無視されるようになった。
同僚を追い出すことになったヨハンナに思うことがある人間も多かったのだ。自分たちのしたことは反省もせずに。
別にどうでもいいと思ったが、いざ戦いになれば命をお互いに預けなければならない。信用できない奴らと組むわけにはいかない。

というわけで、最後に
「こんな信用できない馬鹿どもに背中は預けられない。女性を貶める事しかできない弱っちい兵団に国を守れるとは思わないが、せいぜい逃げずに盾くらいにはなれよ!」
と、言い放ち兵団を辞めた。

悔しかったが、兵団を立て直すのに時間と精神を使うつもりはなかった。
自分一人が犠牲になりながら、なぜそんなことをしなければならないのだ。
その捨て台詞に憤った何人かが襲い掛かってきたが、木剣でぼこぼこにしてやり、女を馬鹿にするくせに女に負けるレベルの弱小兵団だと、王宮にきちんと報告という形でチクってやった。
その後、またごたごたがあったようだがもう知らない。

ヨハンナはそれから女性を守るための護衛として、商業ギルドに登録し国内の治安や女性の身を守り、自分なりに国に貢献することにした。
それが、エヴェリーナやロイドとの出会いにつながった。

エヴェリーナとは友達として付き合いたいとは思っていたが、相手は貴族であり、自分は単なる護衛にしか過ぎない。身に過ぎる望みだなと思っていたところ、エヴェリーナからも親しく何度も手紙をもらい遊びに来るよう書かれていた。
ロイドから手紙をもらったのは意外だった。彼からも王都に遊びに来るようお誘いがあり、案内すると書かれていた。彼も王太子殿下の側近である以上貴族であるのはわかっていたが、一生に一度になるかもしれない国外への旅行の思い出にロイドとエヴェリーナに会いに行こうと決意してラッシュ国にきたのだが・・・

貴族だとは聞いていたが、侯爵夫人であったとは。こんな大邸宅に住んでいるエヴェリーナと平民の自分が友達付き合いをできるはずはない。挨拶ができただけでも良かったのだ。

しかし、エヴェリーナは執事を呼ぶと客室を用意するように指示し、メイドにヨハンナの荷物を運ぶように言った。
「エヴェリーナ様!いけません、私のようなものが侯爵家に泊まるなんて身分不相応ですから!」
「ヨハンナさん。馬鹿な事言わないでください、怒りますよ。私はあなたを人として好ましく思い、お友達になりたいと思ってるんです。こうして来てくださってこんなにうれしいのに。ドラン国でしていたように仲良くしてほしいのです。ね?」
エヴェリーナはヨハンナの両手を自分の手で包んだ。

ドラン国で会った時は時々緊張したような、思いつめたような顔をしていたが今は何の憂いもない幸せそうにしていた。
「ほら、この石が私とステファン様を守ってくださったの。こういうことをお話しできるのはあなたしかいないのだから。悲しいこと言わないでね?」
「はい・・・ありがとうございます。こちらこそうれしいです」

そういうわけで、ヨハンナはラッシュ国にいる7日間はエヴェリーナの世話になることが決まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

【完結】虐げられる令嬢は一夜の過ちを隠す。溺れるような愛を君に。

千紫万紅
恋愛
ここは魔法がある世界。 そんな世界にある国の王城で、華やかに開かれた夜会。 日頃から魔法が上手く使えないからと侮辱の言葉を浴びせ暴力を振るう婚約者に婚約の破棄を一方的に叩き付けられた伯爵令嬢アンジェリークは王城の庭で普段飲み慣れない酒を飲んでいた。 そんなアンジェリークに掛けられた声に、人恋しさからか飲みに誘ってしまい。 気が付いたら隣には皇太子カシアスが健やかに眠っていた。 「ああ、どう致しましょう? お姉様が狙ってる方と私……ヤッちゃいました!?」  現在この皇国では皇太子妃争いの真っ最中でアンジェリークの姉イレーヌは皇太子妃候補。 出来の良い姉を溺愛する両親にもしこの事が知られたら何をされるかわからない。 素知らぬ顔をして秘密にしようとするアンジェリークだが、皇太子カシアスがあの夜の令嬢を捜し始めてしまう。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

契約結婚~彼には愛する人がいる~

よしたけ たけこ
恋愛
父親に決められた結婚相手には、他に愛する人がいた。 そして悲劇のヒロインは私ではなく、彼の愛するその人。 彼と彼女が結ばれるまでの、一時的な代役でしかない私の物語。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

処理中です...