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再び登場
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シリルが視察に行って10日ほど経った頃、二匹が屋敷を囲む塀の側でワンワンと吠えたてていた。
「どうしたの?ルーメ?」
レンガの壁にところどころ鉄柵がはめ込まれている。その鉄柵の部分から人影が見えた。ルーメ達はその人影に向かって吠えていた。シャルロットは慌ててそちらを見ないように屋敷の方に向かった。
「痛っ!」
急に左肩に激痛が走った。
その後も頭や背中に何かがぶつけられる。痛さに顔をしかめながらなんとか距離をとると、二匹の鳴き声を気にした護衛や使用人が走ってきてくれた。
「お嬢様!!いかがなされました?!」
「・・・わからない・・・肩と頭が・・・誰かが塀の向こうに・・・」
護衛たちはシャルロットの肩に血がにじんでいるのを見て、顔色を変えた。
地面にはこぶし大の石がいくつか落ちている。頭に当たると命にも関わる程のものだった。
護衛たちは走って門を出て行ったが、おそらく間に合わないだろう。
使用人がシャルロットをかばうように支え屋敷に連れて行ってくれようとした。
「あ・・・待って!門を開けて!」
使用人の一人が門まで走ってくれる。
「ルーメ、イルタ!行け!!」
シャルロットは叫んだ。二匹は吠えるのを止めると門を飛び出していった。
それを見届けると肩と頭の痛さに顔をしかめ、思わずしゃがみそうになった。
「お嬢様!失礼しても?!」
「ええ・・・お願い・・・」
残っていた護衛がシャルロットを抱き上げると、限界だったのかシャルロットは意識を失った。
護衛は血相を変えて急ぎ屋敷に向かった。
すぐに医者が呼ばれた。骨に異常はなかったものの、肩の皮膚が避けて出血し、酷い打撲痕もある。頭からも血が流れ、そちらの傷の方が心配された。
薬草湿布を処方され、患部を冷やすように指示された。仰向いて眠ることもできず、クッションを敷きつめて何とか横向けに寝かされたが、その間もシャルロットは意識を取り戻すことがなかった。
ルーメとイルタはお手柄だった。
匂いを追って犯人を特定し、その両足に齧り付いた。
しかも「止め」というシャルロットとトマスがいなかったため、なかなか二匹は獲物を放さなかった。犯人の足は牙でかなり傷つけられることになった。
捕まったのは平民の女。捕まっても何も話さず、暴れようとするだけだった。王宮に出仕しているジェラルドに知らせが行き、戻ってくるまで護衛騎士たちは女を屋敷の地下牢に閉じ込めた。
ジェラルドはそっとシャルロットの部屋に入った。
頭に巻かれている包帯と、首元からわずかに包帯が見える痛々しい姿に胸が痛んだ。
倒れてから今まで一度も意識を取り戻さないとメイドは側で涙を浮かべている。
メイドに世話を頼み、ジェラルドは地下に降りた。
鉄柵の向こうで不貞腐れている女を見てすぐに理解した。
馬鹿に、手加減も温情もかける必要もなかったのだと。
怒りに任せて殴りつけたい気持ちを押さえつけて女に聞いた。
「元ブトナ男爵令嬢、今更どういうつもりだ。」
以前、シャルロットを貶め、傷つけた末、生家から追い出され平民になった女だった。
「・・・。」
「逆恨みか。馬鹿な女だ。せっかくあれだけで許してやったのに。」
「許してやったですって?!あの女のせいで私は!」
「自業自得だ。もう容赦はしない。生きて太陽を拝める日が来ると思うな。」
「な!嘘でしょ?ちょっと驚かせようとしただけじゃない!あの女がまた大げさに言ってるんでしょ?みんな騙されているのよ!」
「・・・・。お前のことを信用してほしければ質問したことに答えろ。素直に答えたら考えてやってもいい。」
「・・・。わかったわ。」
「なぜ今になって復讐を?」
「ずっと狙ってたわよ!でもあの女は外に出ないし、いつもシリル様が側にいて一人にもならない!だからしょっちゅううろうろしてたわけ!そしたら一人で犬につられて寄ってくるんだもの!やるしかないじゃない!!いい気味よ!顔を傷つけられなかったのが残念でたまらないわ。」
ジェラルドはぐっと堪える。
「なぜシャルロットだ。お前に罰を与えたのは私とシリル、そしてお前の父親だろう。お前のやっていることは復讐にもならん。ただの逆恨み、妬みだ。お前はただシャルロットに嫉妬しているだけだろう。お前を野放しにすることは出来ん。覚悟しておけ。」
踵を返して去っていくジェラルドの背中に向かって
「約束が違うじゃない!待ちなさいよ!助けてくれると言ったじゃない!足の手当ぐらいしなさいよ!」
叫んだが、ジェラルドは足を止めることなく出て行った。
「どうしたの?ルーメ?」
レンガの壁にところどころ鉄柵がはめ込まれている。その鉄柵の部分から人影が見えた。ルーメ達はその人影に向かって吠えていた。シャルロットは慌ててそちらを見ないように屋敷の方に向かった。
「痛っ!」
急に左肩に激痛が走った。
その後も頭や背中に何かがぶつけられる。痛さに顔をしかめながらなんとか距離をとると、二匹の鳴き声を気にした護衛や使用人が走ってきてくれた。
「お嬢様!!いかがなされました?!」
「・・・わからない・・・肩と頭が・・・誰かが塀の向こうに・・・」
護衛たちはシャルロットの肩に血がにじんでいるのを見て、顔色を変えた。
地面にはこぶし大の石がいくつか落ちている。頭に当たると命にも関わる程のものだった。
護衛たちは走って門を出て行ったが、おそらく間に合わないだろう。
使用人がシャルロットをかばうように支え屋敷に連れて行ってくれようとした。
「あ・・・待って!門を開けて!」
使用人の一人が門まで走ってくれる。
「ルーメ、イルタ!行け!!」
シャルロットは叫んだ。二匹は吠えるのを止めると門を飛び出していった。
それを見届けると肩と頭の痛さに顔をしかめ、思わずしゃがみそうになった。
「お嬢様!失礼しても?!」
「ええ・・・お願い・・・」
残っていた護衛がシャルロットを抱き上げると、限界だったのかシャルロットは意識を失った。
護衛は血相を変えて急ぎ屋敷に向かった。
すぐに医者が呼ばれた。骨に異常はなかったものの、肩の皮膚が避けて出血し、酷い打撲痕もある。頭からも血が流れ、そちらの傷の方が心配された。
薬草湿布を処方され、患部を冷やすように指示された。仰向いて眠ることもできず、クッションを敷きつめて何とか横向けに寝かされたが、その間もシャルロットは意識を取り戻すことがなかった。
ルーメとイルタはお手柄だった。
匂いを追って犯人を特定し、その両足に齧り付いた。
しかも「止め」というシャルロットとトマスがいなかったため、なかなか二匹は獲物を放さなかった。犯人の足は牙でかなり傷つけられることになった。
捕まったのは平民の女。捕まっても何も話さず、暴れようとするだけだった。王宮に出仕しているジェラルドに知らせが行き、戻ってくるまで護衛騎士たちは女を屋敷の地下牢に閉じ込めた。
ジェラルドはそっとシャルロットの部屋に入った。
頭に巻かれている包帯と、首元からわずかに包帯が見える痛々しい姿に胸が痛んだ。
倒れてから今まで一度も意識を取り戻さないとメイドは側で涙を浮かべている。
メイドに世話を頼み、ジェラルドは地下に降りた。
鉄柵の向こうで不貞腐れている女を見てすぐに理解した。
馬鹿に、手加減も温情もかける必要もなかったのだと。
怒りに任せて殴りつけたい気持ちを押さえつけて女に聞いた。
「元ブトナ男爵令嬢、今更どういうつもりだ。」
以前、シャルロットを貶め、傷つけた末、生家から追い出され平民になった女だった。
「・・・。」
「逆恨みか。馬鹿な女だ。せっかくあれだけで許してやったのに。」
「許してやったですって?!あの女のせいで私は!」
「自業自得だ。もう容赦はしない。生きて太陽を拝める日が来ると思うな。」
「な!嘘でしょ?ちょっと驚かせようとしただけじゃない!あの女がまた大げさに言ってるんでしょ?みんな騙されているのよ!」
「・・・・。お前のことを信用してほしければ質問したことに答えろ。素直に答えたら考えてやってもいい。」
「・・・。わかったわ。」
「なぜ今になって復讐を?」
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ジェラルドはぐっと堪える。
「なぜシャルロットだ。お前に罰を与えたのは私とシリル、そしてお前の父親だろう。お前のやっていることは復讐にもならん。ただの逆恨み、妬みだ。お前はただシャルロットに嫉妬しているだけだろう。お前を野放しにすることは出来ん。覚悟しておけ。」
踵を返して去っていくジェラルドの背中に向かって
「約束が違うじゃない!待ちなさいよ!助けてくれると言ったじゃない!足の手当ぐらいしなさいよ!」
叫んだが、ジェラルドは足を止めることなく出て行った。
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