上 下
24 / 51

王子の暗殺劇 2

しおりを挟む
「へ、陛下!!私たちは何もしておりません!!」
「父上、どういうことですか?!」
「見苦しい!証拠は挙がっておる。お前たちが暗殺者を雇い、狩場でエリックを狙わせたことは明白だ。」
「そんな!!父上、何かの間違いです!」
 ヘンリーとアレクシアがどう叫ぼうと騎士の拘束は解かれない。

「証人をこれへ!」
 国王の命令でドアが開き、男が連れてこられた。
「第二王子の暗殺を誰に依頼されたのか申してみよ!」
 取り調べにより、ボロボロになっている男は抵抗する気力をすでに失っていた。
「・・・ヘンリー殿下です。」
「貴様!嘘をつくな!」

 国王は書類を取り出すと皆に掲げた。
「ここにヘンリーとこの男との間に取り交された契約書もある。ヘンリーのサインと印に間違いない」
「な!そんなばかな!ありえません。父上!きちんと調査を!暗殺依頼で証拠など残すはずがありません!誰かが陥れようとしているのです!」
「兄上、言い逃れは見苦しいですよ。書類で証拠が残るのを嫌がったあなたに、この男が契約書を作らないと引き受けないといったのでしょう?こいつらだって、トカゲのしっぽきりされないよう対処してるんですよ」
「しらない!俺はお前を殺そうとしたことなどない!」
「私が何も知らないとでも?」
 エリックはヘンリーの胸ぐらをつかみ引き寄せると耳元で何かをささやいた。
 ヘンリーは目を大きく見開くと力をなくしたように崩れ落ちた。
「父上、兄上とアレクシア妃の身柄は私にいただけませんか?当事者の私に取り調べさせていただきたいのです。」
「・・・。許可する。」

 エリックの指示で、エリックの護衛たちが二人の身柄を連れて行こうとする。
「陛下、お待ちください。王族の取り調べや身柄拘束は我々近衛騎士第一部隊の役目でございます。それに当事者のエリック殿下では私怨が入る恐れがあるかと存じます。」
と、取り押さえられた二人の後ろで構えている部隊長のカインがもっともな意見を述べた。
 私怨から害されても困る、証言を歪められても困るからだ。

 国王はじろりとカインを見、エリックを見た。
「エリックに任せる。その結果に不正があれば私が指揮を執る。その時はエリックから王位継承権をはく奪する。エリック、それでよいな?」
「承知しました。では、兄上とアレクシア妃をお連れしろ」
 エリックの護衛たちが二人を連れ出すと、ざわめきは収まっていないもののどこかほっとしたような空気が流れていた。

 国王は、舞踏会に参加している人々に騒がせたことを詫び、先ほど倒れた第三王子は命に別条がないことが伝えられた。
 ヘンリーたちが拘束されたことで、大広間のドアは開放された。しかし、王家の醜聞に立ち会った者たちの、心配や悲観の顔の裏で隠しきれない好奇心と愉楽とで立ち去るものは少なかった。
 さすがに倒れたルーフェの母フローラは退出したが、ほかの王族は国外の賓客や国内外の貴族たちへの説明や詫びのため忙しく立ち回っていた。

 そこに、大勢の足音が聞こえ、大広間のドアが大きくあけられた。そこにはジェラルドとエリックの護衛騎士数名が近衛騎士第一部隊長のカインを後ろ手に縛りあげて立っていた。
「何事だ?」
「陛下、申し上げます。カイン騎士隊長がヘンリー殿下とアレクシア妃を殺害しようとしたため、取り押さえた次第です。目撃者はヘンリー殿下とアレクシア妃殿下並びに、隠れて護衛していた我々3名、国王直属影部隊の2名でございます。」

 国王直属の影が目撃者ではしらを切りとおすのは無理だった。
「なんだと?カイン、どういうつもりだ?」
「わたくしは・・・エリック殿下とルーフェ殿下を害そうとした二人が許せなかったのです。私は王家の為に!」
「エリックには私怨で動くなといった貴様がか?」
「・・・王族を害したものを処するのが私の役目でございます」
「ふん、正式な調べも審議も経ず処刑する。貴様の王家への忠誠とやらはそんなものなのか。よくもそんな恥さらしが近衛騎士に入れたものだね。」
 エリックが嘲笑うように言うと、顔を真っ赤にしてカインはにらみつける。

「そうそう、先ほど報告があったんだがお前の家族が皆、自宅で切り殺されていたそうだ。お前がやったのかい?」
 間が抜けたような顔でカインはエリックを見た。
「え?」
「お前が王族を手にかけると決意していて、覚悟を決めて先に家族を殺してきたのかと聞いているんだ。」

 それを聞いてカインは唸り声をあげて走り出そうとした。縛られて縄でつながれて移動ができないのに血走った目で暴れてもがいた。
「うああああ!!ゆる・・ゆるさない!!よくもっよくも!!ぐああああっ!」
 怒りのあまり言葉にならない。
「カイン、家族に王族殺しの汚名を着せたくないからお前がやったんだろ?立派な心がけだね」
 さらにあおるエリックに、カインは咬みつくように叫ぶ。
「私が愛する家族を殺すわけがないだろう!!フローラ妃が・・・あの女が!あの女が!殺してやる、絶対に殺してやる!」

 広間の者たちが再び注目する中、何人かがそっと動き出した。しかしいつの間にかすべての扉が外側から閉鎖されていた。
「フローラ妃がヘンリー殿下とアレクシア妃を殺せと!そうしないと私の妻と子を殺すと・・・ずっと屋敷で人質に・・・ああ・・・」
 カインは泣き崩れてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。

天災
恋愛
 美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。  とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...