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父、怒る

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「お帰り、二人とも。大変だったろう。よくやってくれた。」
 ジェラルドは帰宅した二人をねぎらった。

「詳細はエリック殿下からお聞きしたよ。・・・シャルロット、ご苦労だった。」
 シャルロットをそっと抱き寄せた。
「シリル、殿下が、お前が学院を卒業したら自分の元に欲しいとおっしゃっていたよ。大変な中、よく頑張ってきたな」
「ありがとうございます!」
「今日はもう疲れただろう、ゆっくり休みなさい。積もる話は明日聞くよ。」

 シャルロットはシリルのことを話したかったが、ゆっくり時間を取って話した方が良いとジェラルドの言う通り、湯あみで旅の汚れを落とした後ベッドに横たわった。
 思っていたより疲れていたのか瞬間に深い眠りに落ちていった。

 翌朝、食堂に行くとジェラルドとシリルがすでに席についていた。
「お待たせいたし・・・」
 と言いかけて、シリルの顔を見て止まってしまった。
「ど、どうしたの?」
 シリルの左頬は腫れあがり、変色していた。
「なんでもありません。」
 ジェラルドは不機嫌な顔をしており、シリルは痛々しい姿をさらしながらも神妙な顔をしていた。
 ジェラルドの顔をちらっと見るも
「食事を始めよう。」
 と何事もなかったようにパンを手に取った。

 食事が終わると、サロンに誘われた。
「お父様、登城はよろしいのですか?」
「遅れると連絡済みだ、心配いらないよ。シャルロットに話がある。」
 すでに届けられていたお茶セットでお茶を入れると、一通の手紙を手渡された。

 王家の紋章が刻印された手紙だ。慌てて中身を読んで驚いた。
「お、お父様?!これ・・・」
「エリック殿下から婚約者候補への打診だ。まったく、殿下にも困ったものだよ」
頭を抱えながらジェラルドは言った。
「お父様、私には無理です。」
「わかっている。もちろん受けるつもりはない、だが一応お前の気持ちを確認したかった。」
言いながら、昨夜シリルから聞いた衝撃的な事実からしてシャルロットを王家に嫁がせることはできない。
本人がどう思おうとこの話は断るしかないと思っている。

「そうか、こちらで断っておく。」
「ですが、お断りできるのでしょうか?」
「任せてくれればいい。しょうもないことで煩わせてすまなかったな。」
(お父様・・・しょうもないって・・相手は王家ですよ。)
「それで、シリルがいると苦痛が消失すると聞いたのだが本当か?」
「そうなのです!お父様。シリルが触れてくれるとあれが嘘のように消えて行って・・・本当にうれしくて・・・こんなことがあるなんて」
 静かに涙を流すシャルロットを優しく抱きしめた。
「そうか、シリルがお前の役に立つか。あいつがそばにいて嫌ではないのか?」

 最近態度を変えたとはいえ、シリルのシャルロットに対する仕打ちはジェラルドも知っていた。何度か苦言を呈したが聞く耳を持たなかった。
「はい。でも、私の都合で側にいてもらおうとは思っていません。シリルの時間を奪うことはできませんから。シリルという存在がいてくれるだけで私の心は救われました。」
「シリルがすすんで側にいたいといえば、おいてやれるか」
「お父様、私のことをずっと心配してきてくれたからといって、シリルに無理強いしないでくださいね。」
「もちろんだよ。シャルロットがシリルをどう思っているか聞きたいだけだよ。
「それは・・・そばにいてくれれば心強く思います。今回、シリルがいなければ・・・私は正気を保てなかったかもしれません」

 ジェラルドはシャルロットの背中を撫でると
「もう、この役目もこれが最後かもしれないね。寂しいが、喜ばしいことだ。」そういって、笑うと身を離し、登城すると言って出て行った。
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