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王子の脅迫

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 しばらくして第二王子暗殺未遂事件が城内を騒がせた。
 毎年開かれる、王家主催の貴族を招いた狩りで事故を装って王子を殺害しようとしたのだ。

 シャルロットはてっきり、狩り自体を中止にするのかと思っていたが恐れ多くもエリック殿下を囮にして犯人をあぶりだすことにしたようだ。
 エリックには諜報部が暗殺計画を入手したということにして、狩りの中止を進言した。しかし、殿下自身がおとりになると言って引かず、狩猟会は開催されてしまった。

 中盤に差し掛かり、狩りが成功した者の興奮やまだ一匹も狩れていない者の気合などで盛り上がってきたころ、木々の間から放たれた一本の矢がエリックの胸を貫いた。
 周りからは悲鳴が上がり、騎士達が盾になるよう殿下を取り囲んだ。エリックは落馬することもなく、自分で矢を抜き騎士に調べるようにと渡した。

 エリックは服下に簡易な鎧を着、その上を布でぐるぐる巻いていた。それをマントや装飾品で目立たなくして参加していたのだ。そして、エリックが移動する範囲の木の上に影を忍ばせ、矢を放った人物の特定と矢の軌道が体幹以外にそれたときは矢を落とすように命じていた。
 そして、実行犯を捕らえることに成功した。

 それでも一か八かのかけであったはずだ、エリックの立場で囮になってよいはずがない。
 ニコラはエリックの執務室で詰め寄った。
「今回はたまたまうまくいきましたが、このような真似は二度とおやめくださいね!」
 エリックはニヤッと笑うと
「なあ、知ってるか。神の予言の話」
「なんの話ですか?話を逸らすのはおやめください。」
「逸らしていないよ。ある日手紙が届くんだって。あなたはこういう事件・事故に巻き込まれるから注意しなさいってね。」
「・・・・」
 ニコラは衝撃で固まってしまった。

「それで、質の悪い悪戯だと思いながらも、気味が悪くて回避行動をとったものは命が助かってるそうだよ。」
「そ、それはしりませんでした。」
「それでね、そういう噂を耳にしたものだからちょっとばかり調べたんだ」
「・・・・」
「たまたまなのかなあ。神の予言書をもらう前に、具合の悪いご令嬢を見たっていう人間が何人かいてね。そばにはモーリア侯爵がいつもいるって話だ。」
 殿下の目はもう笑っていない。
「この間、モーリア侯爵がご令嬢を補佐にと連れて来ただろ?あれだけご令嬢を大事に大事に隠し守っている侯爵が表に出すなんて考えられないよ、そして私を見て顔色を変えたよね、そして君が連れて行ったあと倒れでもしたのかな?」
「い、いえ。彼女は病弱で、あの日は殿下にお会いして緊張して・・・」
「しばらくして、暗殺計画を入手したと報告が来た。偶然かな、神の予言と同じだよね。だから僕は囮になったんだよ、噂通り回避行動をとったら死ぬことはないと信じて。ニコラ、お前は何か知っているだろう。」

 三人の王子の中で一番人当たりが優しく穏健だといわれているエリック王子。
 しかし、その裏では策を張り巡らし、時には冷徹な決断もする誰よりも王の器にふさわしい我が主。
 そんなエリックにニコラは忠誠を誓っている。

 その主に笑顔で追い詰められて逃げることができるのだろうか。しかし、どれほど忠誠を誓っていようとも自分の命もエリックの命をも救ってくれたシャルロットを窮地に追いやることはできない。

「いいえ、わかりかねます。神の予言などとたわごとを信じて御身を危険にさらすなど言語道断です。」
「ふ~ん。とぼけるんだ?次の茶会にモーリア侯爵令嬢を招待しておいてくれ。」
「!!それは無理かとっ。シャルロット様は人前に出るのが苦手でございます。いつ倒れるかわからないほどか弱きご令嬢です!」
「君が話してくれたら招待しなくて済むけどね。」
 主の狡猾さを思い知る。逆らえるはずもなかった。

 しかし何とか声を絞り出し、
「少し・・・お時間をいただけないでしょうか。」
「もちろん。待ちきれなくて招待状を他の者に頼んだらごめんね。」
「・・・承知いたしました。」
 ニコルは執務室を後にすると、急いでジェラルドの元へ行った。

 その後、ジェラルドがエリックに面会を求め二人きりで何か話をつけたらしい。
 エリックがシャルロットを茶会に誘うこともなく、ニコラが問い詰められることもなかった。

 ただ、そのあと中立だったモーリア侯爵家が第二王子派になると表明した。
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