2 / 51
二ヶ月前
しおりを挟む
今から2か月前のあの日、どうしても参加しなくてはいけない夜会に姉と二人で参加した。
急遽参加できなかった父に絶対姉から離れるなと厳命されていたが、ひそひそ嘲笑されながら集まる視線に苛立ち、つい離れてしまった。
友人と話し、ふと気が付くと姉の姿がなかった。面倒をかけられたことにイライラしながら姉の姿を探した。
そこにどこかのご令嬢が声をかけてきた。
「お姉さまはお楽しみのようですわ、わたくしたちもあちらでゆっくりお話ししません事?」
「どういうことですか?」
「先ほど殿方にしだれかかって一緒に広間をお出になられましたわ。まさかお噂が本当だったなんて、ねえ。奔放なお姉さまを持つと大変ですわね。シリル様のご心痛お察しいたしますわ。ですからわたくしと・・・」
シリルが姉を嫌っているというのも社交界では知られている。シリルにおもねるようにその令嬢はシャルロットを揶揄するような言葉をかけた。
シリルは腕を振り払った。
シリルは侯爵家の嫡男で、父親に似て非常に整った容姿をしている。侯爵家の後継ぎとしての能力は若いながらもすでに高く評価されている。16歳で婚約者がおらず、その婚約者に選ばれたいとご令嬢たちに狙われている。
こうして隙あらば、縁を結ぼうとしてくる馴れ馴れしさにいら立ちが募る。
「失礼。」
それだけ言い残して、姉を探した。男と二人で姿を消したなら休憩の為に用意されている部屋に違いないと辺りをつけた。目撃者や使用人に聞き、ある部屋に飛び込んだ。
複雑に編み込んで仕上げたドレスに手間取っているのか、ソファーのシャルロットに覆いかぶさりながらドレスを脱がそうとする男にかっとして、反射的に殴り飛ばしてしまった。
男にも、ついてきた姉にも腹が立った。
しかし、姉はほとんど正気を失っていた。
「おい、おまえ!!何をした?!」
殴り飛ばされてうずくまる男の胸ぐらをつかみ上げた。
男は悲鳴を上げて両手で自分をかばおうとする。
「な、なんだお前。邪魔するな、噂の尻軽誘っただけじゃないか。」
「貴様、殺されたいか!」
「苦しっ・・・び、媚薬だ!媚薬飲ませた!」
シリルは目を見開くと、もう一度男を殴り飛ばした。
そして姉をこのままにはしておけないと自分の上着をかぶせると部屋から連れ出した。抱き上げたときに切なげに小さい声を上げるシャルロットに舌打ちをする。
馬車に揺られながらシャルロットを抱きしめていると、シャルロットが身をよじるように動き、何かを我慢するように眉間にしわを寄せながら半開きの唇から熱い吐息を漏らす。
「この姿のまま連れ帰るわけにはいかないじゃないか」
自分にそう言い聞かせ、御者に貴族が利用する高級宿に向かうよう命じた。
そしてシャルロットの調子が悪く、家まで馬車に乗るのは困難なため宿で介抱する旨を侯爵に伝言するよう頼み、明日の朝迎えに来るよう言いつけた。
ベッドの上に寝かせた姉を見る。
シルバーに輝く絹のような髪が白い肌に汗でへばりついている。媚薬の影響でじっとしてられずベッドの上で身もだえている姿にシリルの喉がゴクリとなる。
震える手で髪を直してあげようとその顔に触れる。
それに反応するかのようにシャルロットは艶っぽい声を上げる。
「・・・」
潤んだ目でこちらを見ながら涙を落とす。
「助けて・・・」
シリルの手を掴んだシャルロットの手が焼けるように熱く感じる。
心臓がバクバクと激しく鼓動し、耳元でもうるさいほど血管が脈動している。義姉に抱いてた複雑な思いが拗れに拗れていたところにこの状況。
思わず吸い寄せられるように、その口元に自分の唇を近づけた。が、はっとして身を引くと口元を押さえて部屋を出た。
閉めたドアにもたれて、どきどきと暴れる心臓をなだめ、深呼吸を何度も繰り返した。
このまま帰ろう。シリルはそう思った。明日早く迎えに来ればいい。
数歩、歩き出したが・・・すぐに不安に襲われた。
具合が悪いと知って屋敷から誰かが迎えに来たら?宿の者が様子を見に来たら?その者がシャルロットの姿によこしまな気持ちを抱いてしまったら?
シリルは頭をがしがしとかき回した。
「くそっ」
と、らしくなく口汚い言葉を発すると踵を返して再びドアを開けた。
側に付き添い、苦しそうに身を捩り、助けを求めてこちらを見るシャルロットに精神力も限界に達した。
「どうせ・・・どうせいろんな男としてるんだろ・・・今更、貞節も何もないだろっ!」
これは人助けだといいきかせ、シリルの理性はあっさりと本能に負けた。
そして事がすみ、シーツにシャルロットが乙女だった印を見つけてしまったときの衝撃。崩れ落ちてしまうほどショックだった。
シャルロットは噂のような人間ではなかった、父とも誰ともやましい関係ではなかった、自分の知ってたつつましく優しい女性のままだった。なのに自分は無責任な噂を鵜呑みにしてシャルロットにつらく当たりまくっていた。
挙句の果てにきちんとした同意なく、純潔まで奪ってしまった。どれだけ後悔しても取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
急遽参加できなかった父に絶対姉から離れるなと厳命されていたが、ひそひそ嘲笑されながら集まる視線に苛立ち、つい離れてしまった。
友人と話し、ふと気が付くと姉の姿がなかった。面倒をかけられたことにイライラしながら姉の姿を探した。
そこにどこかのご令嬢が声をかけてきた。
「お姉さまはお楽しみのようですわ、わたくしたちもあちらでゆっくりお話ししません事?」
「どういうことですか?」
「先ほど殿方にしだれかかって一緒に広間をお出になられましたわ。まさかお噂が本当だったなんて、ねえ。奔放なお姉さまを持つと大変ですわね。シリル様のご心痛お察しいたしますわ。ですからわたくしと・・・」
シリルが姉を嫌っているというのも社交界では知られている。シリルにおもねるようにその令嬢はシャルロットを揶揄するような言葉をかけた。
シリルは腕を振り払った。
シリルは侯爵家の嫡男で、父親に似て非常に整った容姿をしている。侯爵家の後継ぎとしての能力は若いながらもすでに高く評価されている。16歳で婚約者がおらず、その婚約者に選ばれたいとご令嬢たちに狙われている。
こうして隙あらば、縁を結ぼうとしてくる馴れ馴れしさにいら立ちが募る。
「失礼。」
それだけ言い残して、姉を探した。男と二人で姿を消したなら休憩の為に用意されている部屋に違いないと辺りをつけた。目撃者や使用人に聞き、ある部屋に飛び込んだ。
複雑に編み込んで仕上げたドレスに手間取っているのか、ソファーのシャルロットに覆いかぶさりながらドレスを脱がそうとする男にかっとして、反射的に殴り飛ばしてしまった。
男にも、ついてきた姉にも腹が立った。
しかし、姉はほとんど正気を失っていた。
「おい、おまえ!!何をした?!」
殴り飛ばされてうずくまる男の胸ぐらをつかみ上げた。
男は悲鳴を上げて両手で自分をかばおうとする。
「な、なんだお前。邪魔するな、噂の尻軽誘っただけじゃないか。」
「貴様、殺されたいか!」
「苦しっ・・・び、媚薬だ!媚薬飲ませた!」
シリルは目を見開くと、もう一度男を殴り飛ばした。
そして姉をこのままにはしておけないと自分の上着をかぶせると部屋から連れ出した。抱き上げたときに切なげに小さい声を上げるシャルロットに舌打ちをする。
馬車に揺られながらシャルロットを抱きしめていると、シャルロットが身をよじるように動き、何かを我慢するように眉間にしわを寄せながら半開きの唇から熱い吐息を漏らす。
「この姿のまま連れ帰るわけにはいかないじゃないか」
自分にそう言い聞かせ、御者に貴族が利用する高級宿に向かうよう命じた。
そしてシャルロットの調子が悪く、家まで馬車に乗るのは困難なため宿で介抱する旨を侯爵に伝言するよう頼み、明日の朝迎えに来るよう言いつけた。
ベッドの上に寝かせた姉を見る。
シルバーに輝く絹のような髪が白い肌に汗でへばりついている。媚薬の影響でじっとしてられずベッドの上で身もだえている姿にシリルの喉がゴクリとなる。
震える手で髪を直してあげようとその顔に触れる。
それに反応するかのようにシャルロットは艶っぽい声を上げる。
「・・・」
潤んだ目でこちらを見ながら涙を落とす。
「助けて・・・」
シリルの手を掴んだシャルロットの手が焼けるように熱く感じる。
心臓がバクバクと激しく鼓動し、耳元でもうるさいほど血管が脈動している。義姉に抱いてた複雑な思いが拗れに拗れていたところにこの状況。
思わず吸い寄せられるように、その口元に自分の唇を近づけた。が、はっとして身を引くと口元を押さえて部屋を出た。
閉めたドアにもたれて、どきどきと暴れる心臓をなだめ、深呼吸を何度も繰り返した。
このまま帰ろう。シリルはそう思った。明日早く迎えに来ればいい。
数歩、歩き出したが・・・すぐに不安に襲われた。
具合が悪いと知って屋敷から誰かが迎えに来たら?宿の者が様子を見に来たら?その者がシャルロットの姿によこしまな気持ちを抱いてしまったら?
シリルは頭をがしがしとかき回した。
「くそっ」
と、らしくなく口汚い言葉を発すると踵を返して再びドアを開けた。
側に付き添い、苦しそうに身を捩り、助けを求めてこちらを見るシャルロットに精神力も限界に達した。
「どうせ・・・どうせいろんな男としてるんだろ・・・今更、貞節も何もないだろっ!」
これは人助けだといいきかせ、シリルの理性はあっさりと本能に負けた。
そして事がすみ、シーツにシャルロットが乙女だった印を見つけてしまったときの衝撃。崩れ落ちてしまうほどショックだった。
シャルロットは噂のような人間ではなかった、父とも誰ともやましい関係ではなかった、自分の知ってたつつましく優しい女性のままだった。なのに自分は無責任な噂を鵜呑みにしてシャルロットにつらく当たりまくっていた。
挙句の果てにきちんとした同意なく、純潔まで奪ってしまった。どれだけ後悔しても取り返しのつかないことをしてしまったのだ。
79
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました
相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。
――男らしい? ゴリラ?
クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。
デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる