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~星と彼女編 最終章~

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[隠された秘密]

 「・・・残っている書類は研究費や施設費などの経費明細書や、研究員達の論文ばかり・・・八重紅狼に繋がるものは残っていないな・・・」

 古都で激戦が繰り広げられている中、魔術都市ウィンデルバーグではワーロック副局長を始め、複数人の調査員によって局長室を調べていた。ファイザー・・・ウルフェンが偽名を使ってまで使用していた部屋にならば、彼らの目的などが載っている書類があると思っていたからだ。

 しかしそれらの書類は現在の段階では一切見つかっておらず、ワーロックは頭を悩ませていた。

 『やはり関係書類は全て処分しているか・・・元々ここには無い可能性が高いな。でもそれもそうか・・・正体がバレた際に調べられるであろう場所に隠す訳は無いか・・・』

 ワーロックが額に手を置いて、首を傾げる。局長室は10m近くある巨大な本棚が部屋の中心にある机を取り囲むように聳えている。そのせいなのか、常に見下ろされている様な感覚に陥る。

 「副局長。室内を入念に調査しましたが、八重紅狼に関する情報は見当たりませんでした・・・」

 「そうか・・・ご苦労。」

 ワーロックは部下の報告を聞きながら壁と一体化している本棚を見て回る。特に変わった様子はなく、古書がびっしりと敷き詰められているだけだった。

 だが部屋中央に置かれている机・・・椅子の背後にある本棚をふと見ると、本棚の真ん中付近にある《第八版 禁忌・禁術大集 時の理》という本に釘付けにされた。

 『第八版?私が知っているのは第七版までだが・・・第八版が出ていたのか?しかし、編集者はもう200年以上前に亡くなっているし、禁術の知識もあれから進歩していないはず・・・』

 「・・・どうしたのですか?」

 ワーロックが見たことの無い本を眺めていると、部下が少し心配そうに話しかけてきた。如何やら相当、深刻な顔をしていたようだ。たかが見たことも無い本を眺めていただけなのに。

 「・・・ああ、いや、ただ見た事の無い本を見つけてな。」

 ワーロックはその本を手に取る。中々の厚みで、この本で人の頭を殴りつけるだけであの世に送れそうだ。

 「ほらこの本だ、禁忌・禁術大集。第八版と書いているだろう?第七版までしか持っていなくてな・・・少し興奮してしまっていた。」

 カチッ・・・カラカラカラ・・・

 「副局長・・・非常事態なのに相変わらずですね・・・」

 「ははは・・・すまない。さて、調査を続けるとしよ・・・」

 ワーロックが本を持ったまま、調査を再開しようとした・・・その時。

 ガタガタガタ!

 突如、ワーロックが先程取った本が収まっていた本棚が壁の中へ動き、その後横へスライドして隠し通路が現れた。部屋を調査していた部下達がワーロックの傍に集まり、現れた通路を見つめる。

 ワーロックも突如現れた通路に思わず身を固まらせる。まさか己の好奇心で隠し通路を見つけられるとは思ってもいなかったからだ。

 「副局長・・・これは・・・」

 「・・・如何やらこの通路が我らの探していたものらしいな。」

 「入りますか?」

 「勿論だ。だが罠が仕掛けられている可能背も無視出来ん・・・私と数名の者だけで通路に入る。」

 ワーロックは懐中時計を取り出し、時間を確認する。

 「只今より15分経っても戻ってこない場合は、増援を呼べ。いいな?」

 「了解しました!」

 「よし、では中に入るぞ。お前とお前・・・私に付いて来い。」

 「はい!」

 ワーロックは数名の部下を指名し、隠し通路へと入る。通路に入った瞬間に、扉が閉まるのではないかと思ったが、閉まることは無かった。

 埃が舞い、かび臭い匂いが充満する通路を進むと、開けた倉庫のようなところに出た。倉庫とはいっても部屋の中央にある小さな机と1つの大きめの本棚しかないが。

 ワーロックは警戒しながら机の前にまでやって来る。机の上には先程手に取った本と同じほどの一冊の古びた本が置かれていた。表紙には何も書かれておらず、中に何が書かれているのか分からない。

 『さて・・・隠し通路の先にあった本・・・どんな秘密が書かれているのか・・・』

 ワーロックは高まる好奇心を抑えきれず、本を開いた。

 そして書かれている内容に目を通し、ワーロックは驚愕した。八重紅狼のルーツやジャッカルについて・・・そしてジャッカルの『仲間達と妻』についての記載など、その本には忘れ去られた歴史が書かれていたからだ。

 『何ということだ・・・まさかそんなことが・・・早く・・・早く皆に知らせなければ!』

 「お前達!ここにある書物を全て外に出せ!別の場所で調査する!それと私は今すぐ古都へ飛ぶ!お前達もここの荷物を纏めたら急いで古都へ来い!」

 「了解です!」

 ワーロックは部下達に急いで指示を出すと、先程手に取った古書をしっかりと握り、隠し部屋を後にした。机の上を照らす朧な灯りが埃を煌めかせる。
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