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~螺旋凶線編 第2章~

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 [螺旋]

 「いいぞケストレル!ロストル大隊長!奴の動きが鈍り始めた!このまま奴を仕留めるぞ!」

 「了解だ!」

 ロストルはガーヴェラの言葉を受けてより攻勢を強める。ケストレルもロストルのサポートをすると共に、ゴルドに攻撃を仕掛ける。ゴルドの動きはガーヴェラの言う通りに鈍り始め、こちらへの攻撃よりも身を護る防御に徹していた。

 ロストルはゴルドへの攻撃を続けていく中、心の中である核心を持ち始める。

 『行ける・・・行けるぞ!このまま押し込んでいけば決定的な隙を見せる筈・・・その隙を見せた瞬間に首を刎ねるッ!』

 ロストルはゴルドが編むピアノ線を次々に躱していき、懐に何度も入っては斬撃を繰り出す。ゴルドの頬が引きつり、目を細める。ガーヴェラもこの様子を見て、銃による援護をしながら隙を作ろうと攻撃をより強めていった。

 しかしそんな希望が見え始めた中、ケストレルは1人黙ったままゴルドを睨みつけながら攻撃をしていた。ケストレルはロストルのようにあまり懐に入らず、ある程度距離を開けて戦っている。

 『・・・おかしい。何かがおかしい・・・この男がこう簡単に防戦一方になるものか・・・八重紅狼の四席だぞ?』

 ケストレルは大剣を握る両手により力を込める。

 『かつてこの男と一緒に戦場を駆け抜けてきたから分かるが・・・こういう時は必ず何かを仕込んでいる!俺達を一気に排除する程の強力な罠を!そしてそれを発動する時はきまって・・・』

 ケストレルがゴルドについて考えていると、ロストルの剣がゴルドのピアノ線を切断し、決定的な『隙』を生み出した。ゴルドの表情が焦りに代わり、ロストルは笑みを浮かべる。

 「くっ!」

 「貰ったッ!」

 ロストルが剣を構え直し、ゴルドの心臓に剣を突き刺してくる。

 その瞬間、焦りの表情を浮かべていたゴルドの頬が吊り上がった。ケストレルは咄嗟に大声で叫んだ。

 「直ぐに下がれッ!その『隙』は罠だッ!」

 「何⁉」

 「気が付いたかケストレル・・・だが、」

 ゴルドはそう呟いた次の瞬間、ゴルドの両手に今まで影も形も無かった銀色の糸が無数に指へ絡み合って出現した。その銀色の糸はゴルドの足元へと続いていた。

 「もう手遅れだ。・・・『螺旋凶閃楓』。」

 突如地面に蜘蛛の巣状のヒビが広範囲にわたって広がり、足元が崩落した。ケストレル達3人は巻き込まれ、体勢を崩す。

 「ちぃっ!」

 ケストレルは崩落している足場に足をつけると、直ぐに後ろへと飛び下がる。その流れでガーヴェラを左腕で抱き取り、一気に離脱する。

 「ケストレル、貴様ッ・・・」

 「黙ってろッ!下噛むぞッ!」

 『くそっ、やはり仕込んでいたか!』

 ケストレルがガーヴェラに叫び、崩落範囲から離脱した・・・その時だった。

 ズザァァァァアアアアアッ!

 崩落した地面から幾つも絡み合ったピアノ線が怒涛の勢いで巻きあがり、疑似的な竜巻を作り出す。ゴルドを中心として発生した竜巻は崩落した城壁を巻き取り、吹き飛ばし、斬り刻んだ。

 竜巻が止み、ただ1人ぽつんと佇むゴルドを見たガーヴェラが周囲に声を張り上げる。ケストレルは直ぐに立ち上がり、ガーヴェラの前に立って武器を構えた。

 「ロストル大隊長!何処だ!何処にいる!返事をしろッ!」

 ガーヴェラが必死に叫ぶもロストルの返事はない。するとガーヴェラに向かってゴルドが話しかけてきた。

 「・・・彼ならそこにいるぞ、ほら。」

 ゴルドが左手で自分から少し左側にある地面を指差す。ガーヴェラ達が視線を向けるとそこにはエリーシャのようにバラバラに切断され、原型を留めていないロストルが散乱していた。余りに糸が鋭利だったのか、肉片からは血が流れていなかった。

 「ロストル大隊長っ!・・・畜生ッ!」

 「・・・やりやがったな、ゴルドさんよぉ。もう少し早く気が付くべきだったぜ・・・」

 「いぃや、ケストレル。お前は良くあの段階で気が付いたよ。流石、少し前まで俺と一緒にいただけはある。・・・勘が鈍ってなくて先輩としては嬉しいよ。」

 ゴルドの視線がロストルに向けられる。

 「彼を助けられなかったのを君達が悔やむ必要は無い。彼が自ら招いた結果なのだから。相手が何を考えているのか考えられず、目の前にある状況でしか判断しきれない奴の末路を順当に辿っただけだ。」

 「貴様・・・よくも尊敬してもらっていた奴を殺せるな!あいつはお前を尊敬して・・・憧れていたんだぞ!」

 「私には関係ないな。あいつは私を殺そうとした・・・その時点で奴は立派な『敵』だ。そこには情けも無ければ慈悲も無い・・・あるのは只、何者をも切断する私の糸と死体だけだ。」

 ゴルドはそう呟くと、銀の糸を編み直し、自身の周囲に展開する。張られた糸がひしひしと殺意を伝わせる。

 「さぁ構えろ、死人を嘆いている暇など無いぞ?」

 ゴルドは話し終えると、展開した糸を一斉にケストレルの方へと向かわせた。糸は風を切りながら壁のように迫って来る。

 「上等だ!来やがれ!」

 ケストレルは迫りくるピアノ線に向かって行き大剣を振りかぶると一息に振り下ろした。ガーヴェラが後ろに下がりながらケストレルに叫ぶ。

 「馬鹿ッ!早く逃げろッ!」

 「逃げてもどうせ追いつかれるぜ、ガーヴェラ!だったらこっちから能力を使ってあの糸を切断してやらぁ!」

 ケストレルは叫ぶと、自身の能力を発動した。さっきまでの糸と同様に『裂傷』の能力を使って糸を切断しようとした。

 しかし・・・

 スパァンッ・・・

 大剣の刃は迫りくる無数の銀の糸によって目の前でバラバラで切断された。さらにゴルドの糸には裂傷の影響が一切見られず、ケストレルは思わず目を見開いた。切断された刃が宙を舞う。

 『嘘だろ・・・糸が切れないって・・・そんな事・・・』

 「残念だったな。その糸は私の魔力を高密度で固めているものだ・・・お前の能力を受けようが、受けた瞬間に再生するようになっているのだよ。」

 「くっ!」

 「さらばだ、ケストレル。アリアに会いに行くといい・・・」

 ゴルドのピアノ線がケストレルの目の前にまで接近し、咄嗟に無駄と分かりながらも両腕を顔の前で交差させて防御の構えを取る。

 その時だった。

 ガシィッ!

 突然地面から黒く大きな影のような腕が大量に伸びてきてピアノ線を握りしめる。ピアノ線はケストレルの目と鼻の先で止まった。

 「なっ!」

 「・・・は?」

 ゴルドとケストレルが思わず唖然とすると、ケストレルの右側・・・ゴルドの左側から強烈な殺気と魔力が流れてきた。2人が顔をそちらへ向けると、そこには深紅のオーラを纏っているシャーロットの姿があり、瞳も真っ赤な血のような色に染まっていた。

 「そこまでです、おじさん。それ以上・・・好きにはさせません。」

 シャーロットがそう言うと、黒い腕が激しく動き、銀の糸を無理やり引き千切る。糸は風に吹かれ、舞い上がって行った。

 シャーロットは静かに魔術書を開き、そっと目を瞑る。

 「『リミテッド・バースト・・・冥天紅月』・・・来たれ宵闇、彼を冥府へと導け。」

 シャーロットの詠唱が終えると、空が一気に闇に包まれ、空には紅く不気味に輝く月が出現した。
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