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はじまり

トーヤ

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アルドside



何故、こんな事になったんだったかなあ。
ゆっくりと今朝、いや、昨夜の事から思い出していこう



◇◇◇




美味そうな匂いがする。性魔力の匂いだ
近くでアホな人間がSEXでもしてるのか?と思ったが、その美味そうな匂いは少し鼻を掠めた後すぐに風の中へと消えていった。

近頃この辺りも物騒になって来て、街で女を買える機会が無く、ここ最近魔力を喰えていない。

気のせいかもしれないが、とりあえず見に行くか…と生い茂る草や葉を掻き分け、匂いがした方向を目指す
時間的にもう帰ろうと思っていたが、別に急ぐ案件は無い。今日野宿したからと言って何も困る事はない

それよりも、一瞬鼻を掠めた美味そうな匂いが気になる。

黙々と森を進むと、見知った泉が先に見えた。
スライムブルーだ。
その泉の手前に仁王立ちする黒い塊
腰から静かに剣を抜き、両手に構える

「邪魔くせェ」


そう呟いた俺の声は夕闇の風に乗って消えて行った。

後ろ姿から察するに恐らくウルフベア、Bランクのモンスター
いつものように加速し、両手に握り込んだ剣に力を込める
夕暮れと、鬱蒼とした森が重なり視界が悪い
そんな中、両手にかかる確かな歯応えは思ったよりとても硬い

月堕ちの森特有の変異種か?手に込める力を一層強くした
グチ、と確かな手応えを感じ剣を握る手の力を緩めること数秒、目の前でゆっくりと巨体が倒れて行く
ガシャン、とウルフベアとは思えない音を鳴らし巨体が地面へと沈んだ。やはり変異種のようだ

ゆっくりと体制を立て直し、剣に付いた血を払

ウルフベアの巨体が沈んだ事により、視界が広がっていく、その視界の端では小さな篝火が煙を上げていた
そして目の前には、怯えた顔をした人間の男が1人
見た事のない魔道具の前に座り込んだその男は、吸い込まれるんじゃないかと錯覚する程、綺麗で不思議な翡翠色の瞳をしていた


「…美味そうな匂いがしてたんだけどなァ」



綺麗な瞳で、男にしては細い身体をしてる様だが、どっからどう見てもソイツは男
美味そうな匂いがしたから来たというのに、居たのは男1人
一瞬鼻を掠めた匂い程度に期待なんてするんじゃなかった
久々に美味そうな魔力が喰えると思ったが、とんだ思い違いだったようだ




◇◇◇


 


トーヤとの出会い
最初の印象は綺麗な瞳をした、ただの男

だがこの男はただの男では無かったし
俺が期待した匂いに間違いは無かった


食べた事の無い美味い食べ物を貰い、あまりの美味さに思わず酒を出し、トーヤにも飲ませた。
その時に、俺の中でただの男だったトーヤはただの男では無くなった
酒を飲み、強すぎた酒精の所為か、綺麗な瞳に涙を浮かべたその男から仄かに、甘い香りがしたからだ。
性魔力特有の甘い香り、だが今までに嗅いだどんな魔力よりも甘く、美味そうな香り。
その美味そうな香りに我慢できず、その男の口に噛みついたのを覚えている
それにより、更に匂いが濃くなって、全身に力が漲ったというのに、当の本人であるトーヤは、何故か突然スヤスヤと眠り始めたんだっけか?



それからどうしたんだっけなぁ…
あまりに美味そうな匂いに気持ちが高まって、よく覚えていない



翌朝には冷静になり、それと同時にどうやってコイツを、自分の手中に収めるかという考えが頭の中の大半を占めていた

そう、考えていたのだ。

今朝、もしかしたらトーヤが異世界人では?と思った時も
町へと向かう道中も
トーヤを置いて肉を狩に走り出した時も

ずっと考えていた。ずっとだ

なのに、なぜ、どうしてこうなったのか



肉を狩って元の場所へと戻ろうとした時、仄かに香ってきた甘い香り。トーヤの匂い。降り頻る雨の中でも薄れる事なく香る強い匂い
急いで元の場所へと戻れば、そこにトーヤの姿はなく酷く焦った。
だが、落ち着いて匂いの元を辿れば、見覚えのある顔
50年ぶりだろうか。
その見覚えのある男の元で、息を上げるトーヤが目に入り、怒りが湧き上がった
俺の獲物だ。俺のものだ。
でも相手がこの男ではとてもじゃないが、分が悪すぎる

そして二人が居るこの洞窟内
甘ったるい魔力が充満したこの空間が、俺の理性をおかしくしていく

息を吸えば吸う程、身体が熱くなり、脳が痺れ、視界がユラユラと揺れた。
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