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しおりを挟む「ポチも一緒に入るか?」
「くぅ…」
服を脱ぎながらそう尋ねると、耳を垂らしたポチが首を振った
本人が嫌なら仕方ない
湯船へと手を入れ改めて湯温を確認する。
うん、ちょっと熱い。でもこれぐらいが好き
海辺で昼食を終えた後、風呂の横にある石鍋を確認するといい具合にグツグツと煮えたぎっていた。
太陽は頭のてっぺんを過ぎ日暮れ前
少し早い気はしたが待ちきれなかったので、グツグツと煮える湯と、冷たい魔素水をいい塩梅で檜風呂へと流し込んだのだ。
「わふ!」
下着を脱ごうと手をかけると同時、ポチが一吠えして走り出した。方向は森
狩かな?運動かな?
気をつけろよ、と後ろ姿に声をかけたが、聞こえただろうか?颯爽と走るポチはあっという間に森の奥へと消えていった
ポチがどこで何をしてるのか、いつか後をつけよう…なんて思っていたが、あのスピードじゃ追いつけそうにない…諦めよう
それより今は風呂だ!!
下着を脱ぎ捨て先ずは魔素水を頭からかぶり、檜風呂へと足を踏み入れた。
「うっはああああ~~」
風呂、さいこう
広い、熱い、いい匂い!ここは極楽か…
広い浴槽で目一杯身体を伸ばし、大きく息を吐く
これは自然と身体の力抜けるわ…
風呂の温かさと気持ちよさを堪能しながらインベントリを開く
本番は今からだ
まずは、浜辺で作ったジャリッとする二枚貝と、サザエと、煮物。これらを浴槽の淵に並べ、最後に酒!まずはリンゴで作ったシードルからいこう
「かんぱーーい!」
誰に言うわけでもなく、木のコップを高く突き上げ、早速一口
うーーん!さっぱり!飲みやすい!
まずはジャリッとした二枚貝からかな。美味しいものは後にとっておきたい。
浴槽の淵に凭れながら、酒を飲み、時々魚介を摘む。
小屋と被ってるので景色が良くないのが欠点か
どうせなら海が見える様に創れば良かったかも?まだまだ改善の余地有り
あと更に日本酒があったら完璧だな。よし、米を探そう、早めに探そう
しかし、それでも!
この生活わりと最高じゃないか?
異世界最高!ありがとうございます、神様仏様!
インベントリにあるシードルを飲み干す頃、ちょうどツマミの海鮮類も無くなった。
まあ、今から真打ちなんですけどね
葡萄で作ったワインと、トマト煮
檜風呂にはミスマッチだが、コイツらの相性は最高に良いと思うんだよね
それにしても、身体がポカポカしてきた。すごく良い気分だ
明日からも頑張れそう…
「っうわ!!なんだこれ!??!」
ふう、と熱い息を吐き出すと同時聞こえてきたのは、覚えのある声
覚えているだろうか、物々交換したあの行商人を
「おーー、ディーダ久しぶり~」
「お、おう、久しぶりだな!
ってか、なんだこれ?!風呂か?!風呂なのか!??」
「見たまんま風呂だけど?」
「…この数日でこんな……お前実はすっげえ職人か何かなのか?!」
「?まあ、ある意味職人っちゃ職人だな」
《独創魔法》で色々作れるし?まあ、職人みたいなもんだよな?
凭れていた身体を起こし、浴槽の淵へと肘を突き顎を置く
納得のいっていない顔で俺の前へとしゃがみ込んだディーダが、鼻を鳴らし風呂の木を指でなぞった
「てか、これ檜じゃねえか!!高級木をよくもまあ、こんな…!」
「良い匂いだろ?」
「いいけど!いい匂いだけど!!」
グッと拳を握りしめたディーダが何かブツブツ言ってる
檜が高級なのは異世界も共通なんだな。まあ分かる。すっげえいい香りしてるもんなあ
久々の来客で自慢の風呂を披露出来たのは良いんだが、何しに来たんだコイツ?
「何か用か?」
「そうだそうだ、
こないだ貰ったローションの報酬持ってきたんだった」
茶色の瞳をキラリと光らせたディーダが、鼠色の髪を掻き乱しながら、手を背後へと回しリュックから小汚い小さな袋を取り出した
「報酬?あれはあの場で物々交換しただろ」
「そうなんだけどよお!聞いてくれよ!!行きつけの娼館に行ったら、そのローションが大繁盛でよ!!」
ワアワア、と騒ぎ出したディーダの要点を纏めるとこうだ。
馴染みの子にローションを使いプレイ、大変喜ばれ、ローションをプレゼント
それが店に居る他の子にも広がり、オーナーの耳に入り、まさかのオーナーから直々に店に卸してくれと頼まれ、その卸したローションが予想してたより高額で買い取られ、以前の物々交換では均衡がとれない為、報酬をもってきた。そして出来ればもっとローションが欲しい…と。
まあ、ローションはまだまだあるから良いんだけど、その話し正直に話さない方がディーダは儲けれたんじゃない?
「わざわざ俺に言わない方が良かったんじゃね?」
「それもそうなんだけどよお…今後も取り引きしてほしくてな?目先の利益に目が眩む程俺も馬鹿じゃねえ」
「…まあそうか」
ローションの価値を俺に黙ったまま取り引きを続け、もし俺がローションの適正価値を知れば因小失大か。
胡散臭そうに見えて意外とちゃんとしてるんだな?
「で、どうだ?ローション1瓶につき銀貨3枚の3000G!」
って言われても、金の価値が分かんないんだよなあ
ここは一つ、プロに聞いてみるか?
騙される可能性はゼロとは言い難いが…今の話を聞く限りまあ信用できる方だろう
「ところで、一般的に使われる傷薬ってなんだ?その原料は?」
「?アエの葉を使った傷薬が一般的だな」
俺が最初に作った傷薬かつ、ローションの原料の一部と同じ物が一般的なのは有り難い。
これで相場が何となくだが分かりそうか?
「もしその傷薬を、ローションの瓶と同じ容量買い取ってもらうとしたら相場は?」
「う……ん、どうだろうか。高くて銅貨5枚の500Gくらいか…?販売価格は600から800だろうか…?すまん、俺の分野じゃねえから詳しくはねえんだ」
「よし、売った!」
「え?何を?傷薬?!」
ポカンと口を開けるディーダを白い目で見て酒を飲む
「ローションだよ、ローション
銀貨3枚で売った。だけど販売数は俺の匙加減。毎日ローション作りはやってらんねえ」
「ほ、ほんとか?!!!いい!いい!販売頻度、個数、全てお前の好きにしろ!」
まあ、悪くない話だよな?
海藻は海で簡単に大量に採れるし、アエの葉は森に入れば至る所に生えている
採取さえしてしまえば、あとは《独創魔法》に丸投げだし?
ディーダに卸して、貰ったその金でディーダからいっぱい砂糖を買おう。あと、米。米があるなら米も買う!!
まだコップに沢山入ったワインを飲み、トマト煮を食べながら喜ぶディーダを見た。よほど嬉しかったみたいで、ガッツポーズをしキラキラとしたエフェクトを振りまいている
そんなディーダが、茶色の瞳でふと俺を見た
「…お前、それ酒か?」
「うん」
「おまっ、風呂で酒って!どっかの貴族か何かかよ…!」
「きぞくう?まあ、ある意味貴族みたいなもん?」
恋人作らないって決めたし?時間にゆとりあるし?金にもゆとりできそうだし?独身貴族ってやつ?ある意味貴族だよな?
トマト煮を食べながら、コップを傾ける
うーーん。頭がホカホカしてきた
流石にのぼせたか?
そろそろ出るか…と最後のワインを煽り、ザバッと立ち上がる
「っ!ちょ、ちょっ…!!!!待って?!!!」
立ち上がる筈だったが、立ち上がるより先にディーダに肩を押さえ込まれ湯船に逆戻り
何しやがんだ、このおっさん
あ、でもディーダの手冷たくて良いな。悪くない
肩に乗った冷たい手を取り、そのディーダの両手で自分の首を包み込ませた
吐き出す息がとてつもなく熱い
「はあーーー。きもち」
「ーーーッ!!」
ビクッと跳ねたディーダの手が、微かに震え、徐々に離れようとする
「おい、ちゃんと触って」
「ーーーお、おまえ!!!!!」
ぎゅっとその手を取り、首に押し付けた。
ああ、気持ちいい
うっとりとした気分で冷たい手を更に強く握り込む
っていうかディーダ煩い。お前は今保冷剤だ
保冷剤としての任務を全うしろ
「っはあーー。最高」
「ッ!やばい、やばいって!
…お、俺はレンちゃん一筋でっ…」
「煩いなあ。もっとちゃんと触れって」
火照った顔でディーダの茶色い瞳を見つめると、顔を赤くしたディーダがその瞳を細め息を呑む音が聞こえる
俺は冷たい手の気持ちよさを堪能しながら、ゆっくりと目を閉じた。
するりと抑えてたはずの手が喉元から抜け出し、俺の顎を捉える
「ッ……ぐ、誘ったのはお前だからな?!!!」
いや、だから煩いって保冷剤くん。
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