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学校での過ごし方③

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 「はぁ……疲れたー」

 午前の授業が無事に終わり、俺は机に突っ伏した。
 天板にむにゅうっ、と頬っぺたを押し付けると、ひんやりしていて気持ちがいい。

 「あー、やばっ」

 もうこのまま寝落ちしてしまおうかと考えたが、これから昼休みがある。
 まずは昼飯を食べなきゃいけないわけだ。腹が減っては戦は出来ない、ってよくいうしな。
 なので、むくりと身を起こし、俺は立ち上がった。
 アイツは、んー……もう行ったっぽいな。

 「葵ーっ、一緒にメシ食おうぜー!」
 「先約があるから無理だ。じゃあな」
 「ちょ、ま、待てって……は、薄情者ぉぉぉぉっ!!」
 
 近くに寄ってきていた前田を適当にあしらい、俺は教室を出る。
 うるさい声をドアでシャットダウン。さーてと行くかな。

 歩きざま、あちこちに目を向けてみると、友達同士で席をくっつけて食べてたり、窓の外では仲の良さそうな生徒数人が輪になっていたりと、さまざまな様子が見て取れた。
 そういったものを横目に流しつつ、階段を駆け上がっていく。
 向かう場所は、学校の屋上だ。
 普段から生徒にも開放されてるので、自由に使うことが出来る。
 
 「うお……っ、まぶしい」
 
 屋上へと続くドアを開け放ち、とっさに前方を手で隠した。
 さえぎるものがなにもないここは、陽の光がさんさんと降り注いでくる。
 とはいえ四月の下旬。季節でいえば春の穏やかなものではあるため、目を開けていられないほどじゃない。
 だんだんと目が慣れてきて、そこで気づいた。
 
 「葵っ」
 
 短く、俺の鼓膜を揺らす声。
 こっちに影を伸ばすその人物は、身をかがんだまま小さくはにかんでみせた。
 
 「綾莉……」
 「遅いよ、ずっと待ってたんだから」
 「あぁ、悪いな。で、昼飯は」
 「もちろん、私が作って持ってきたよ」

 はいこれ、と大きな包みを手渡された。
 割とずっしりしてるのは具材が多いせいか、それ以外のなにかがこもってるのか、あるいはその両方か。
 なんて考えたところで、答えを知ってるのは作った本人だけなんだがな。
 
 「さてと、どこで食べるか」

 辺りをキョロキョロと見渡すものの、腰かけるためのベンチなどはなく、冷たい無機質のコンクリートが敷き詰められているだけだ。
 そのせいかもしれないが、ここには他の生徒の姿は見当たらない。俺たち二人だけだ。
 中庭とかだと地面が芝生だったりベンチが設置されてたりしてるから、あそこが弁当を食べるスポットとして人気なのも頷ける。

 「どこでもいいでしょ? どうせ同じなんだから」
 「それもそうか……あ、ちょっとストップ」

 その場に腰を下ろそうとする綾莉に、俺は待ったをかけた。
 男らしさ、さらには大人っぽさを目指す人間としては、この状況見過ごすわけにはいかない。
 俺はブレザーから、ハンカチを取り出すと、それを地面に広げた。
 ちょっと気持ち、キメ顔も作ってみる。

 「ほい、座っていいぞ」
 「……なにしてるの、ハンカチ汚れちゃうでしょ」
 
 綾莉が眉間にしわを寄せ、詰め寄ってきた。
 洗うの私なんだからね、と腕組みをするさまはさながら母親のようで……って、あれ? なんか思ってたのと違う……。
 もっとこう、すごい紳士的だね! とか褒められると思ってたのに。
 ちょっとしゅんとしてしまう。

 「いや、これはその……スカートが汚れちゃうんじゃないかなと……」
 「――――な~んてね」
 
 おでこに、指先で弾かれたような小さな衝撃が訪れた。
 驚いて顔を上げた先にあったのは、いつものからかう気満々な綾莉の姿で。
 
 「あなたのしたかったことなんて、最初から分かってたんだけど。つい、ね」
 「お、おまっ……!」

 腕組みをして得意げに笑う綾莉に対し、全身を小刻みに震わせる。
 俺の紳士的な行為は見透かされ、彼女の手のひらの上で踊らされたというわけだ。
 くそぅ……してやられたぞ、この策士めっ!
 
 「でも、ありがとね。気にかけてくれて」
 「……っ!」
 
 ポンポンと、綾莉の手のひらが俺の頭を撫でつけた。精いっぱいの優しさを込めるかのように、何度も何度も。
 あのさ、お前そういうの反則だと思う。やっていいことと悪いことがあるんだぞ。
 
 悔しさでいっぱいだったのに、すっかり毒気を抜かれてしまった。
 こういうとこがまだまだ子どもっぽいなと自分でも感じる。綾莉のような大人っぽさを身に付けられるのは果たしていつになるのだろう……?

 「ほらいつまでも拗ねてないで、ご飯食べましょ?」
 「べっ、別に拗ねてねーし」

 ふんっと鼻息を鳴らし、そのまま地面に座りこんだ。
 綾莉のくれた弁当をぱかっと開いてみる。すると、俺の好きなものばかりが詰め込まれていたからか、へにゃりと頬が緩んでしまう。
 不貞腐れた気持ちはどこへやらといった感じで、すっかり弁当の方へと目移りしてしまっていた。
 
 「うめーっ! これもうまいな」
 「そんなに慌てて食べるとのどに詰まっちゃうわよ。ほら、お茶飲んで」
 「ん、ありがと」

 受け取ったお茶でごくごくと流し込み、一息ついた。
 それからふと、思い出したかのように俺は訊ねた。

 「なぁ、そういえばなんで綾莉は他の奴らとは食べないんだ? 友達いっぱいいるんだろ?」
 
 クラス内でみんなから一目置かれているはずの綾莉のことだ。昼飯に誘われないなんてことはないと思うしな。

 「……っ」

 だが俺の言葉に、少し頬を染めた彼女は、ふいっとそっぽを向いてしまった。
 あ、あれ……? これ、もしや聞いちゃいけないことだったんじゃ……。

 「……そんなの、葵と二人きりになりたいからに決まってるじゃない……」
  
 自分の無神経さにほとほと呆れてしまっていた俺は、綾莉の口が小さく動いていることに気付くことが出来なかった。
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