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「ふ~ふふん~♪」
はるか彼方の雲の上、人が本来いるはずのない場所そこを闊歩する人影。
「神様といえばやっぱり空の上から見てる! ってやつだよね」
そういって、その人影は笑う哂う。それはそれはおかしそうに……。
何だってこんなことになったんだ……
俺は手の中の包丁を見る。友人の連帯保証人になりその友人が逃げ友人の借金が回ってくる。よくあるありきたりな話だ。
そのよくあるありきたりな話のせいで俺は今包丁を握って……リンゴを兎さんカットしている……。
「なんだってこんなことに……」
「お兄さーん! 早くもってきてー!」
流しの向こうで本人は高校生だと言い張っているが中坊にしか見えない童顔の青年がリンゴの催促をしてくる。
「あぁ、ちょっとまてもうちょっとだ!」
「はーい!」
そもそも、なんでこんなことになっているか……。
真面目に生きてきた俺が友人の借金を背負う。
今まで真面目に生きてきたって言うのに……何だって俺がこんな仕打ちを受けないといけないんだ!
「くそがっ!」
俺はうなだれる。鞄の中には家から持ってきた包丁が入っている。
……これを使って会社で事件を起こしてやろうと思った。でも、できずに結局とぼとぼと帰路へついている……。なんて情けないんだ俺は。
「こんばんわ」
「あぁん?」
絶望、憤怒、諦観、嘆き、色んな感情が俺の中で渦巻いてるときに話しかけてきたのは子供だった。
「お兄さん。賭け事をしませんか?」
「はぁ? なに言って──」
「宝くじを買うだけですから」
そういって子供が笑う。何だって俺がそんなことを……
「絶対当りますよ?」
「はっ! それなら自分で買えばいいだろ! それとも何か? 当ったら俺に全額くれるって言うのか!?」
「いいですよ」
「は?」
「だから、いいですよ。当ったら全額上げても、でもその代わりもう一度買ってもらいます」
おそらく俺はからかわれてるんだろう。でも、子供がこっちを見てくる目は真剣で……だから気の迷いを起こした。
「いいぜ買ってやるよ」
「それじゃあ、ちょっと遠いところですけど行きましょうか!」
そういって前を歩く子供に俺はついていく。
「あの人が買った後に3枚買ってください」
「あぁ、スクラッチでいいんだな?」
「即金がいいでしょ?」
「そうだな」
俺は言われたとおりに3枚のスクラッチくじを買う
「一枚目は外れますけど二枚目は一等が当りますよ」
「はんっ! 本当に当ったらもう一度どころか何度でも買ってやるよ」
「あはは、そんなにいらないですよ」
子供──明人≪あきひと≫という名前らしい──は笑いながらそういう
俺は一枚目を削りきる、明人が言ったとおりはずれだ、そして二枚目を削り始める。
真ん中縦一列最後の段……手が震える。これがもしも1だったら……1等!
「当った!」
「そうですね。じゃあ、次はロトにしましょう。番号は──」
当った。当っていた。こいつは本物だ……!
「ま、待ってくれメモする!」
「え、あぁ、はい」
俺は改めて番号を聞きメモをする。
「それじゃあ、お兄さんがそれを買って今日は終わりです。当っていたら抽選日の翌日に○○公園に18時に来てください。換金はお兄さん任せですから僕は100万ほどもらえたらそれでいいです」
「あ、あぁ、分かった」
そういって明人は背を向けて歩いていった。俺は明人から聞いた数字のメモされた手帳を持って宝くじ売り場へと歩を進めた。
結果的に言えばロトは一等が当っていた。
抽選日にそのことに気づいた俺は狂喜乱舞した。これで金を返せる2億だ! 2億もあれば1千万の借金だって返せる!
俺はロトを買う前に当てていたスクラッチの金から200万を持って明人の言っていた公園へと赴いていた。
「こんばんわ」
「あぁ、こんばんわ。ほら、約束の金だ」
「……? 多いですよ?」
「2億からしたら誤差だろ誤差」
「うーん、まぁいいですけどね」
そういってくすくすと明人は笑う。
「少し、聞きたいんだが」
「はい」
「お前は何者なんだ?」
「そうですね──」
ニヒルにニヤリッと明人が笑う。
「──ただの高校生ですよ」
「は? 中坊じゃないのか?」
「え?」
「え?」
「……失礼ですね!」
「いや、あー、悪かった」
今まで飄々としていた明人がムッとした顔をしたのを見てなんとなく面白くて半笑いで謝る。
「はぁ、まぁいいですけどね?」
「それで、お前は何者なんだ?」
本当に知りたいんですか? 明人の言葉に俺は頷く。すると明人は携帯を少しいじり、こちらを向く。
「それじゃあ、行きましょうか」
「どこにだよ」
「いいところです」
明人はさっきとは違いにこりと素の笑顔を浮かべる。
「お帰り明人、お客さんもいらっしゃい」
「ただいまー」
案内された家に入ればウェーブの掛かった茶髪の綺麗で優しそうな背の高い女性が立っていた。
「あ、はい、お邪魔します。私、加藤正志≪かとうまさし≫と申します」
「はい、加藤さんですね。私は三雲悠火≪みくもゆうか≫といいます。よろしくお願いします」
俺は三雲さんと頭を下げあう。
「はい、よろしくおねがいします。あの、明人君のお姉さんですか?」
「いいえ、愛人よ」
「え?」
ナニヲイッテルンダコノヒトハ。
「悠ねぇ適当な事言わないで」
「あら、そういう気持ってことよ。私は明人の事愛してるもの」
どこか胡乱気な目の明人と惚気る三雲さんは仲がよいのだろう。軽く俺をのけ者にして掛け合いを始める。
「はぁ、お兄さんが置いてけぼりだからさっさとリビングまで移動するよ」
「あっ、加藤さんごめんなさいね。ではこちらを」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
明人が話をこっちに向けてくれたおかげで三雲さんがスリッパを用意してくれる。
俺はスリッパに履き替え、リビングまで2人についていく。
「さて、話を始めようか」
こちらがソファーに腰掛けるなり対面でソファーに腰掛けた三雲さんの上にすっぽりと収まるように座る明人がそういう。正直あの大きな胸の感触を頭の後ろで感じられるなんてうらやましい。
「んー、そうだな、まずは僕の正体について──」
「中坊にしか見えない高校生だろ?」
「ぷっ! あっははは、ふっくくくく」
「悠ねぇ! 失礼だよ!」
「ご、ごめんごめん、そうよね明人は確かに中学生みたいにみえるわよね」
少しぴりぴりしていた明人に俺が茶々を入れると三雲さんが突然吹き出し、笑い始めこちらに同意するように顔を向ける。
「やっぱりそう思いますか!」
「うんうん、だよねー」
「もう! 二人とも!」
んもー! っと明人が一通り怒ったところで少しぴりぴりしていた空気が落ち着いたような気がする。
「はぁ、真面目な話をしよう」
「おう、茶々入れて悪かったな。俺も気になってたんだ」
「うん、まぁ、見も蓋もなく言ってしまえば僕は神ごとき者ってところかな?」
「神!? いや、未来予知者とか……そういうのじゃなくてか? さすがに神は……」
「んー、実は僕はたいていのことは何でもできるんだ。未来予知はその中のひとつにすぎない。そうだなぁ、たとえば」
パチンっ! 明人が指を鳴らすと共にジャラジャラガッガッ! と金色のコインと宝石と思わしき石がジャラジャラゴロゴロとあふれ出てくる。
「こういうこともできるんだけど、現代社会でこういったものの換金もめんどくさいんだよねぇ」
もう一度、明人がパチンと指を鳴らすとコインと宝石は消えてしまう。
「まぁ、あくまでも僕は神ごとき者であって神様ではないからね。世界を変える気もないしあくまでも周りが幸せであればそれでいいとも思ってるしね」
「それだけの力がありながらか?」
「これだけの力があるからだよ。本気になったらそれこそ世界を支配できる。だからこそ僕は人々を適当に見守って適当に助けて適当に生きてるんだよ」
明人の目は少しだけ疲れた目をしていた。力を持っているからこその苦労というものもあるのだろう。
「でも、そんな力があったらうらやましいけどな」
「そうだね」
「それで、その話とこの家に招待にどういう関係があるんだ?」
「え? ないよ」
「ないのかよ!!」
思わず俺は突っ込んでしまう。もしかしたら俺も何か特別な力を持ってるんだとかそういう展開があってもいいだろうに。
「しいて言うなら偶然目に付いたから助けた。それだけだよ本当に」
「はぁ、まぁ、そうだよな。特別な力とかそんなわけないよなぁ」
「特別な力が欲しかったの?」
「あぁ? あるならあるにこしたことはないだろ?」
「そっか、力か……信仰……ん、それもいいか」
「うん? どうかしたのか?」
「ねぇ、僕のことを神様だと思って信仰してみない?」
「神様って……お前さっき自分は神様じゃないって」
「僕はただの人間だからね。だからこそ……かな? 新興宗教だってあるわけだし何もおかしくないよね? 神になりたいだなんて人間らしいでしょ?」
何を言ってるんだこいつ、言ってることは分かるが明らかにおかしいだろ。
「明人、素敵、神様になるんだね。私のかわいい神様」
真面目な話になってから今まで無言だった三雲さんが明人を抱きしめながらそうつぶやく。その顔は惚けきっていてどこか危うげである。
「信仰したら何かご利益でもあるのか?」
「力が欲しいんでしょ? だからその力をあげるよ。そうだなぁ出会いの記念にお兄さんには未来予知を……それでどうかな?」
「どうかなって……そんな力もらったら悪用するかもしれないぜ? 一応人類を見守ってるんだろう?」
「んー、あんまり無体なことをするようだったら取り上げるよ。でも他人より信者を優先するのは仕方ないよね」
「ひどい神様だな」
「信仰はそういうものでしょう?」
そんなものか俺としては明人を神様と崇めるのも悪くないと思っている。友人の代わりに借金を背負わされたあの日、俺は神に祈った。助けてくれ助けてくれと、そして明人と出会ったあの日あの時、俺はたまたまとはいえ救われているのだから。
「まぁ、そうだな」
「そうだよね」
「加藤さんだけずるいわ。出会いに関係した能力って言うなら私は……治癒能力かしら?」
「治癒能力?」
「えぇ、そうよ私と明人の出会いは──」
そして語られるのは明人と三雲さんの出会い。
はるか彼方の雲の上、人が本来いるはずのない場所そこを闊歩する人影。
「神様といえばやっぱり空の上から見てる! ってやつだよね」
そういって、その人影は笑う哂う。それはそれはおかしそうに……。
何だってこんなことになったんだ……
俺は手の中の包丁を見る。友人の連帯保証人になりその友人が逃げ友人の借金が回ってくる。よくあるありきたりな話だ。
そのよくあるありきたりな話のせいで俺は今包丁を握って……リンゴを兎さんカットしている……。
「なんだってこんなことに……」
「お兄さーん! 早くもってきてー!」
流しの向こうで本人は高校生だと言い張っているが中坊にしか見えない童顔の青年がリンゴの催促をしてくる。
「あぁ、ちょっとまてもうちょっとだ!」
「はーい!」
そもそも、なんでこんなことになっているか……。
真面目に生きてきた俺が友人の借金を背負う。
今まで真面目に生きてきたって言うのに……何だって俺がこんな仕打ちを受けないといけないんだ!
「くそがっ!」
俺はうなだれる。鞄の中には家から持ってきた包丁が入っている。
……これを使って会社で事件を起こしてやろうと思った。でも、できずに結局とぼとぼと帰路へついている……。なんて情けないんだ俺は。
「こんばんわ」
「あぁん?」
絶望、憤怒、諦観、嘆き、色んな感情が俺の中で渦巻いてるときに話しかけてきたのは子供だった。
「お兄さん。賭け事をしませんか?」
「はぁ? なに言って──」
「宝くじを買うだけですから」
そういって子供が笑う。何だって俺がそんなことを……
「絶対当りますよ?」
「はっ! それなら自分で買えばいいだろ! それとも何か? 当ったら俺に全額くれるって言うのか!?」
「いいですよ」
「は?」
「だから、いいですよ。当ったら全額上げても、でもその代わりもう一度買ってもらいます」
おそらく俺はからかわれてるんだろう。でも、子供がこっちを見てくる目は真剣で……だから気の迷いを起こした。
「いいぜ買ってやるよ」
「それじゃあ、ちょっと遠いところですけど行きましょうか!」
そういって前を歩く子供に俺はついていく。
「あの人が買った後に3枚買ってください」
「あぁ、スクラッチでいいんだな?」
「即金がいいでしょ?」
「そうだな」
俺は言われたとおりに3枚のスクラッチくじを買う
「一枚目は外れますけど二枚目は一等が当りますよ」
「はんっ! 本当に当ったらもう一度どころか何度でも買ってやるよ」
「あはは、そんなにいらないですよ」
子供──明人≪あきひと≫という名前らしい──は笑いながらそういう
俺は一枚目を削りきる、明人が言ったとおりはずれだ、そして二枚目を削り始める。
真ん中縦一列最後の段……手が震える。これがもしも1だったら……1等!
「当った!」
「そうですね。じゃあ、次はロトにしましょう。番号は──」
当った。当っていた。こいつは本物だ……!
「ま、待ってくれメモする!」
「え、あぁ、はい」
俺は改めて番号を聞きメモをする。
「それじゃあ、お兄さんがそれを買って今日は終わりです。当っていたら抽選日の翌日に○○公園に18時に来てください。換金はお兄さん任せですから僕は100万ほどもらえたらそれでいいです」
「あ、あぁ、分かった」
そういって明人は背を向けて歩いていった。俺は明人から聞いた数字のメモされた手帳を持って宝くじ売り場へと歩を進めた。
結果的に言えばロトは一等が当っていた。
抽選日にそのことに気づいた俺は狂喜乱舞した。これで金を返せる2億だ! 2億もあれば1千万の借金だって返せる!
俺はロトを買う前に当てていたスクラッチの金から200万を持って明人の言っていた公園へと赴いていた。
「こんばんわ」
「あぁ、こんばんわ。ほら、約束の金だ」
「……? 多いですよ?」
「2億からしたら誤差だろ誤差」
「うーん、まぁいいですけどね」
そういってくすくすと明人は笑う。
「少し、聞きたいんだが」
「はい」
「お前は何者なんだ?」
「そうですね──」
ニヒルにニヤリッと明人が笑う。
「──ただの高校生ですよ」
「は? 中坊じゃないのか?」
「え?」
「え?」
「……失礼ですね!」
「いや、あー、悪かった」
今まで飄々としていた明人がムッとした顔をしたのを見てなんとなく面白くて半笑いで謝る。
「はぁ、まぁいいですけどね?」
「それで、お前は何者なんだ?」
本当に知りたいんですか? 明人の言葉に俺は頷く。すると明人は携帯を少しいじり、こちらを向く。
「それじゃあ、行きましょうか」
「どこにだよ」
「いいところです」
明人はさっきとは違いにこりと素の笑顔を浮かべる。
「お帰り明人、お客さんもいらっしゃい」
「ただいまー」
案内された家に入ればウェーブの掛かった茶髪の綺麗で優しそうな背の高い女性が立っていた。
「あ、はい、お邪魔します。私、加藤正志≪かとうまさし≫と申します」
「はい、加藤さんですね。私は三雲悠火≪みくもゆうか≫といいます。よろしくお願いします」
俺は三雲さんと頭を下げあう。
「はい、よろしくおねがいします。あの、明人君のお姉さんですか?」
「いいえ、愛人よ」
「え?」
ナニヲイッテルンダコノヒトハ。
「悠ねぇ適当な事言わないで」
「あら、そういう気持ってことよ。私は明人の事愛してるもの」
どこか胡乱気な目の明人と惚気る三雲さんは仲がよいのだろう。軽く俺をのけ者にして掛け合いを始める。
「はぁ、お兄さんが置いてけぼりだからさっさとリビングまで移動するよ」
「あっ、加藤さんごめんなさいね。ではこちらを」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
明人が話をこっちに向けてくれたおかげで三雲さんがスリッパを用意してくれる。
俺はスリッパに履き替え、リビングまで2人についていく。
「さて、話を始めようか」
こちらがソファーに腰掛けるなり対面でソファーに腰掛けた三雲さんの上にすっぽりと収まるように座る明人がそういう。正直あの大きな胸の感触を頭の後ろで感じられるなんてうらやましい。
「んー、そうだな、まずは僕の正体について──」
「中坊にしか見えない高校生だろ?」
「ぷっ! あっははは、ふっくくくく」
「悠ねぇ! 失礼だよ!」
「ご、ごめんごめん、そうよね明人は確かに中学生みたいにみえるわよね」
少しぴりぴりしていた明人に俺が茶々を入れると三雲さんが突然吹き出し、笑い始めこちらに同意するように顔を向ける。
「やっぱりそう思いますか!」
「うんうん、だよねー」
「もう! 二人とも!」
んもー! っと明人が一通り怒ったところで少しぴりぴりしていた空気が落ち着いたような気がする。
「はぁ、真面目な話をしよう」
「おう、茶々入れて悪かったな。俺も気になってたんだ」
「うん、まぁ、見も蓋もなく言ってしまえば僕は神ごとき者ってところかな?」
「神!? いや、未来予知者とか……そういうのじゃなくてか? さすがに神は……」
「んー、実は僕はたいていのことは何でもできるんだ。未来予知はその中のひとつにすぎない。そうだなぁ、たとえば」
パチンっ! 明人が指を鳴らすと共にジャラジャラガッガッ! と金色のコインと宝石と思わしき石がジャラジャラゴロゴロとあふれ出てくる。
「こういうこともできるんだけど、現代社会でこういったものの換金もめんどくさいんだよねぇ」
もう一度、明人がパチンと指を鳴らすとコインと宝石は消えてしまう。
「まぁ、あくまでも僕は神ごとき者であって神様ではないからね。世界を変える気もないしあくまでも周りが幸せであればそれでいいとも思ってるしね」
「それだけの力がありながらか?」
「これだけの力があるからだよ。本気になったらそれこそ世界を支配できる。だからこそ僕は人々を適当に見守って適当に助けて適当に生きてるんだよ」
明人の目は少しだけ疲れた目をしていた。力を持っているからこその苦労というものもあるのだろう。
「でも、そんな力があったらうらやましいけどな」
「そうだね」
「それで、その話とこの家に招待にどういう関係があるんだ?」
「え? ないよ」
「ないのかよ!!」
思わず俺は突っ込んでしまう。もしかしたら俺も何か特別な力を持ってるんだとかそういう展開があってもいいだろうに。
「しいて言うなら偶然目に付いたから助けた。それだけだよ本当に」
「はぁ、まぁ、そうだよな。特別な力とかそんなわけないよなぁ」
「特別な力が欲しかったの?」
「あぁ? あるならあるにこしたことはないだろ?」
「そっか、力か……信仰……ん、それもいいか」
「うん? どうかしたのか?」
「ねぇ、僕のことを神様だと思って信仰してみない?」
「神様って……お前さっき自分は神様じゃないって」
「僕はただの人間だからね。だからこそ……かな? 新興宗教だってあるわけだし何もおかしくないよね? 神になりたいだなんて人間らしいでしょ?」
何を言ってるんだこいつ、言ってることは分かるが明らかにおかしいだろ。
「明人、素敵、神様になるんだね。私のかわいい神様」
真面目な話になってから今まで無言だった三雲さんが明人を抱きしめながらそうつぶやく。その顔は惚けきっていてどこか危うげである。
「信仰したら何かご利益でもあるのか?」
「力が欲しいんでしょ? だからその力をあげるよ。そうだなぁ出会いの記念にお兄さんには未来予知を……それでどうかな?」
「どうかなって……そんな力もらったら悪用するかもしれないぜ? 一応人類を見守ってるんだろう?」
「んー、あんまり無体なことをするようだったら取り上げるよ。でも他人より信者を優先するのは仕方ないよね」
「ひどい神様だな」
「信仰はそういうものでしょう?」
そんなものか俺としては明人を神様と崇めるのも悪くないと思っている。友人の代わりに借金を背負わされたあの日、俺は神に祈った。助けてくれ助けてくれと、そして明人と出会ったあの日あの時、俺はたまたまとはいえ救われているのだから。
「まぁ、そうだな」
「そうだよね」
「加藤さんだけずるいわ。出会いに関係した能力って言うなら私は……治癒能力かしら?」
「治癒能力?」
「えぇ、そうよ私と明人の出会いは──」
そして語られるのは明人と三雲さんの出会い。
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