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 どこか現代に似たこの世の中には魔法というものがある。
 しかしそれは女にしか使えない、だからこの世界では女は男を守るもの男は女に守られるものとなっている。

『大魔法使い専用恋人代行所』

 そう書かれた木で出来た門札をどこか幼さを残した青年がドアの前にぶら下げる。

「ふぅ、ある意味でこれは得役ともいえるんだよなぁ」

 青年。浅生あそうあきらはそう呟いてどうしてこうなったのだろうと考える。
 まずは浅生明という人間を構成する重要な要素を話しておこう。浅生明には前世の記憶というものがある。しかしそれはこの世界とは少し違った世界の記憶である。まず、前の世界には魔法なんてものは存在しなかった。次に魔法という物による男女の価値観の逆転だ。そして最後に明の呟きの答え……美女と醜女の価値観の反転がある。

「それにしても政府もよくこんな仕事許してくれたよね。……いや、支援してくれるほどだから必要だったのかな?」

 そもそも大魔法使いとは前世で言う男が30まで童貞だったら魔法使いになると言ったそれをコッチだったら女が30まで処女だったら大魔法使いにしただけだ。
 ……とはいえない、コッチでは本当に女が30まで処女だったら大魔法使いになるのだ。

 そして大抵、大魔法使いになるのは絶世のブス……前世なら絶世の美女といえるような人間なのだ。
 この世界で大魔法使いになるような女をどんなブス専の男でも生理的に受け付けない、そして50年に一人くらいの確率でしか大魔法使いは結婚できない。

 そんなわけで自暴自棄になった大魔法使いがいたりするわけでそれを押さえるために政府は大魔法使いの恋人をお金で募集したりしている。
 そのお金が高額なため極稀に志願する人がいるが大抵試験ですぐに逃げる。

 そしてそんな時に前世のような平凡な人生ではなく、今世は変わった生き方をしようと思った明がどうせならと起業したのが大魔法使い専用の恋人代行というものだ。

 政府はこれにすぐに飛びつき明を試験にかけ問題ないとすると明の支援に回ったのだ。
 そして程なくして大魔法使い専用恋人代行所というものが出来たのだった。

「あの!」

 門札をかけて考え事をしていた明に後ろから声が掛けられる。

「あっ。久しぶりですね。炎華えんかさん」

 明が振り返るとそこにいたのは政府が本当に大魔法使いの容姿に耐えられるかの試験として用意した大魔法使いの陽之目ひのめ炎華だった。その容姿は少々釣り目がちのきつめの絶世の美人と言ったところだ。

「え、えっと今日開業するんですよね?」
「はい、そうですよ」
「……一番目のお客さんとか大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですが……その、まずは事務所に入りましょうか」
「は、はい!」



 僕は事務所の応接間に炎華さんを案内して。では、座って待っててくださいと放置して所長室に入る。
 まだ物はほとんどなく企業の社長が扱うような机と柔らかそうな椅子。そして、パソコンがあるだけだ。

「えっと、陽乃目炎華っと……」

 パソコンを立ち上げて、そこに炎華さんの名前を打ち込み検索すれば簡単な経歴を見ることができる。
 今は32歳。一般家庭の出身で父親は居らず母子家庭。そもそも男が少ないし、精子バンクがあるのだ、これは珍しくないことである。
 勉強漬けで国内最高学府に就学、かなり上位の成績を修めて卒業したようだ。

 適性検査も問題なく通過して、王庁に入りそこから30歳までは事務仕事、2年前の大魔法使い覚醒からも外勤ではなく内勤であることからかなり優秀なようだ。
 大体の大魔法使いは男に嫌われるためその性質から国の外周部に追いやられるのだ。

 ちなみに王庁というが王が居るわけでもなく議会制をとってこの国は回っている。
 政に男が関わることはほとんどない、それというのも単純に仕事が面倒だからだ。
 たまに関わろうとする男が居るがわがまま放題で、とりあえずわがままを叶える人員が配置されて、そのうち仕事にもわがままにも飽きていなくなるのだ。

 それについて女が迷惑ということはなくて、だってそれくらい余裕でこなせるから。
 むしろ男のわがままを叶えるのを嬉しがってるくらいだ。

 王庁というのも昔カールという初代王様が居たときに作ったためにそのまま残り続けているのだ。
 おそらくなのだが、このカールという王様も僕と同じ日本から転生してきた人間だと思っている。
 まぁ、王様のことは今はおいておいて、炎華さんのことだ。

 資産状況から性癖まで載っている。
 もはやどうやって調べたのかというような情報もいくつか記載されている。

 とりあえずは……人間性何も問題ないようだから依頼を受ける方向でいこうかな。
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