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23 裏社会の誼

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「若人、怒りたもうな。これも魔女どのの、ほんの一時いっときの気散じでござれば」

 と、男は苦笑した。
 はた迷惑な退屈しのぎだが、ここでムキになるのも大人気ない。
 おまけに、

「ごめんネ」

 かわいく舌など出されては、もう笑っとくしかないじゃないか。
 繰り返すが今日のジュリアはいたいけな少女のなりをしている。また泣かれでもしたら、いい大人が子供を苛めている絵図になってしまう。
 たとえその正体が【千年魔女】の異名をとる大魔術士サマであってもだ。
 かように容姿ビジュアルは強力な抑止力となり得る──効果的だが模倣できない戦略をひとつ学べたということで、あとは皮肉でもひねり出しておくしかなかった。

「お願いしますよジュリアさん。メンタル弱い若輩をからかって苛めないでくださいよ」
「あら、フィル君ってつよいじゃない」
「そんなことないですって。結構、傷ついて落ち込んだりするんですから。俺が泣いてもかわいくないから、誰もいないとこで泣いてるんです」
「お、これは一本とられましたな、魔女どの」

 ハオリの男がまた笑った。

「もう、その手は使えませぬな」
「そーね。また別の意地悪を考えておかなくっちゃ」
「ははは、それにしても魔女どのに皮肉を言うとは、なかなか肝の据わった若人だ」

 そういうあんたもな。
 初めて会ったのならいざ知らず、彼女の正体を知っていればデズモンド氏のような反応をするのが一般的なのだ。
 とある迷宮ダンジョンのラスボスをやっていたという噂まである人物である。目の前にいるとつい忘れるが、怖ろしげな伝説には事欠かない。
 商売柄、俺は馴れてる。魔女ジュリアに馴らされてるといったほうが正確かもしれないが。
 ロレッタは同業だ。キャリアの差は天と地かそれ以上でも、魔のつく肩書きは共通している。

 このハオリ男は?

 まず世間一般からは距離をおく世界の住人なのは間違いないだろう。でなければこんなに気やすく千年魔女と会話ができるもんじゃない。
 加えてこの雰囲気。
 飄々とした風貌と裏腹に、鍛え抜いたというより実戦を繰り返して練りあげた暴力の匂いがする。
 つまり、同業者だ。
 であればやることはひとつ。

「突然、失礼致します。ノーザン・クエストで渉外部兼盗人シーフをやっておりますフィル・エメリックと申します。以後、お見知りおきを」

 俺は名刺を差し出した──誼を通じておくに限る。
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