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第2話『アマチュア天文ライター』 Side智幸

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 記事の題名は『未だ見ぬ星を求め、若者は空を見上げる』というものに決まった。

 数十もの案を出して一番まともそうだったのがこれだった。自分のセンスの無さに涙が出る。キャッチコピーについて勉強したこともあったが、無駄な体言止めを多用してダサくしてしまう癖がある自分には才能がないのだとよくわかり、諦めた。

 二日目になった今日は、荷物が多い事もあって自転車で学校へ訪れた。とはいえ坂道を登りきることはできず、結局は押して歩いて来たのだが。

 ちょうど授業が終わったころ合いを見計らってやって来たためか、下校する学生の集団と何度もすれ違った。

 ああ、こういう時期もあったな。などと懐かしみながらも、自転車を職員用の駐輪場に停めさせてもらい、部室棟へと向かう。

 天文部の部室の扉を開くと、昨日とまったく同じような光景がそこにはあった。

「あれ、美晴ちゃん一人かい」
「あ、蒼井さん。こんにちは」

 顔を出すと同時に美晴ちゃんと目が合ったので、軽く挨拶。美晴ちゃんの頭が下がり、ボリュームのあるセミロングの髪が元気良く踊った。

 それからざっと部屋を見渡してみたが、他の二人の姿は見えなかった。

「野原くんと天乃さんは職員室に行ってます。屋上の使用許可をもらえないか訊きに行ってるみたいです」

 なるほど。

 僕は背負ったショルダーバッグを床に置き、置かれていたパイプ椅子に腰を下ろした。きりきりと軋む音が聞こえ、僅かに尻の位置が下がる。学校に常備されているパイプ椅子というものはどうも今すぐ壊れそうな気がしてならない。

 まだしばらくは戻ってきそうにないとのことなので、僕はゆったりと一息つき、そしてバッグの中からメモ帳とペンを取り出した。

「じゃあ美晴ちゃん。とりあえず、記事の取材とかさせてもらっていいかな」

 恩師や後輩の頼みともなれば無償でレクチャーすることだって構わない。だが、どうせなら、と思ってしまうのは仕方のない事だろう。
 それほど迷惑がかかることでもないと思うし。ギブアンドテイクというやつだ。

 美晴ちゃんは恥ずかしそうに頬を染めて顔を俯かせながらも、大人しく正面の席についてくれた。

 ひとまず記事にしやすいように、彼女たちのことから訊いてまわることにした。

 ライターとして僕はまったくの初心者だ。どんな質問をすればいいかなど何も心得てはいない。極力踏み込んで、しかし気分を害すことがないように気をつけながら、僕は次々と話を切り出していった。

「きみはどうして天文部に?」

 家族構成やらを尋ねた後、前々から用意していた質問を僕は切り出した。前回、成り行きで加わったという話が気になったからだ。

 美晴ちゃんはどこか不器用にぎくしゃくした言葉遣いで事のあらましを語ってくれた。他の二人が倉庫整理していたところに遭遇したというところから始まって、正式に部員になったのはほんの一昨日のことなのだという。

 美晴ちゃんがすべてを言い終えるのに五分ほどは費やされていた。

「つまり。いろいろと手伝っていたらいつの間にか仲間に加わっていた、と」
「は、はい。知らない間にあたしの名前が書かれた入部届けも用意されてました。天乃さんが、人員は一人でも多いほうが良い、って胸を張って言うもので」
「随分と強引だったんだねえ」

 高校生活というものは青春だ。とても大切な、甘いひと時だ。それを他人の好き勝手にされてはあまり気分がいいものではないだろう。

 僕としても、あまり乗り気じゃないような子と一緒に時間を過ごすのはイヤだった。記事にもしづらいし、空気も気まずくなりかねない。

 しかし美晴ちゃんは、僕のくだらない杞憂を否定するように言った。

「あ、いえ。別にイヤってわけじゃないですよ。楽しいです。……えっと。野原くんも、居ますし」

 終わりに近づくにつれて声はしぼんでいき、最後のほうはもはや聞き取ることすら難しいほどだった。

 メモを取っていた僕が顔を上げると、その反動のように美晴ちゃんは俯いてしまった。少し癖のある前髪が垂れ彼女の表情を隠す。膝の上におかれた小さな両手は落ち着き無く指を絡まし、小麦色だった少女の小さな耳は心なしか淡いピンク色に染まっていた。

「もしかしてきみ、宗也くんに――」
「な、なんですかっ、いきなり!」

 咄嗟に美晴ちゃんは伏せていた顔を持ち上げ、僕の声を掻き消すかのように叫んだ。明らかに狼狽し、顔はすっかり紅潮しきっている。

 そこまで取り乱されると僕としても反応しづらい。

「いや、美晴ちゃん……宗也くんに」
「せせせせせ、セクハラですよ!」
「あ、いや!そんなつもりは……え、セクハラ?」

 椅子に尻はつけたまま、身を乗り出すようにして美晴ちゃんは叫んでいた。

 相当に気恥ずかしいようだ。
 なるほど、と僕は小さな文字でメモを取った。

 ――美晴ちゃんは宗也くんのことが好き、と。

 まず間違いはないだろう。

 上気してしまった顔をわたわたと振るわせる美晴ちゃんの仕草は、小動物のように可愛らしかった。

「宗也くんってどんな子なの?」

 最後に、僕はそんなことを訊いていた。

 深い意味はない。単なる興味本位だ。美晴ちゃんが好きになった少年とはどんな子なのだろう、と。まだ彼とはまったく話していないため、なおさらだ。

 すると、美晴ちゃんは驚くほど瞬時に冷静さを取り戻し、

「なんでも一生懸命に取り組む、とっても強い人です」

 どこか胸を張るようにしてそう言った。
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