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-11『期待以上の成功』
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こうして旅館は商工会と業務提携を結ぶこととなり、商工会に属している各店舗との割引などのサービスが始まることとなった。
その詳しい内容についてはジュノスにも相談に乗ってもらい、私の素人の知識以上の補佐をしてもらった。おかげでそれなりに、私達と他店からしても相互の利益関係を結べたと思う。
なによりジュノスの発言権は代表を降りた今でもかなり強いらしく、彼の後ろ盾を得られた私達は、破竹の勢いでその知名度を町中に轟かせていったのだった。
私の予想以上の成果だ。
「ほっほっほっ。子らの成長を眺めるのは楽しいもんじゃ」
まるで竜馬を見ていた時の親のような優しい笑顔でそう言って付き添ってくれるジュノスは、私にとっても本当の祖父のような親しさを感じさせた。
それから商工会などにも頻繁に顔を出して町内の会議などに加わらなければならなくなり、旅館の若旦那であるロロが忙しく出ずっぱりになってしまっているが、これも嬉しい悲鳴だろう。
彼の持ち前の人当たりの良さもあって、今ではすっかり輪にとけ込んでいるようだ。以前は荒くれ者達の立ち寄る印象の悪い旅館も、身近な仲間として好意的に接してくれる人も増えた。
更には嬉しいことが立て続けで、私達が前に助けた行商人達からこの旅館のことを聞いたというお客様が来訪するようになり、以前より確実に客足が増えていた。
彼らに恩を売っておけば何かしら返ってくるだろうと思っていたが、広告塔として十分すぎる働きをしてくれているようだ。
その身を挺してまで助けに来てくれた。そして急な宿泊にも関わらず快く受け入れ、美味しい料理や酒を振る舞ってくれた。そう良く評判を広げていってくれているらしい。
ことさら温泉に関しては大絶賛で、行商人の中にも「また迂回してでも立ち寄りたくなったよ」と喜んでくれる人がいるほどだった。
「私達はいつでもお客様のお越しをお待ちしております」
すっかり言い慣れたそんな常套句と共に頭を下げる私の姿も、すっかり旅館の従業員として板に付いてきた感じがする。
「シェリーのおかげだよ。本当に」
「どうしたのよ、ロロ」
ほどほどのお客様が来るようになって忙しくなったある日の仕事終わりに、事務所にいた私にロロが言う。
「なんだかこの前までの寂しさが嘘みたいだ。忙しいけど、すごく充実してる感じがする」
「この旅館にはもともとそれだけの素質があったってことよ。私はそこにちょっと口を出しただけにすぎないわ」
実際、何十年も前の女将さんの時はもっと賑わっていたのだ。時代が変わって環境も変わったが、けれども一度は栄えるほどには魅力があるのだ。それに、廃れたものが一周してまた流行を取り戻すことだってある。
「でもまだ駄目。このくらいじゃ、そこらの小さな宿場町の宿とそんなに変わらないもの」
お父様に認めてもらうには、きっと、もっと繁盛させなければならない。それこそ旅館の部屋が毎日埋まり、人でごった返すほどでなければ。領主故にこれまで多くの店を視察に回ってきたお父様の眼鏡に適うにはあとどれほどだろう。
考えても果てが見えない。
「でも、やり方次第でこの旅館はきっともっとやれるわ。ちゃんとうまくやってみせるから、私に任せなさい」
「……うん」
なにやら歯切れが悪そうにロロが顔を伏せる。
「どうしたの?」と尋ねる。するとロロは私の顔を除きこむように上目遣いに見て、
「シェリー、大丈夫?」
「なにが?」
「いや、その。僕にも何か手伝えることがあったら言ってね」
「ありがと。でも今のところ大丈夫よ」
「……そっか」
私の返しにロロはふっと小さく微笑むと、何もなかったように首を振り、明るい笑顔を作った。
「シェリーがいてくれて本当に良かったよ」
「さっきそれ言ったじゃない」
「あ、うん。そうだね、あはは……」
なんだか調子が崩れるロロの様子が気にかかりながらも、私は名前でいっぱいになった宿泊者名簿を見てにんまりとしていたのだった。
その詳しい内容についてはジュノスにも相談に乗ってもらい、私の素人の知識以上の補佐をしてもらった。おかげでそれなりに、私達と他店からしても相互の利益関係を結べたと思う。
なによりジュノスの発言権は代表を降りた今でもかなり強いらしく、彼の後ろ盾を得られた私達は、破竹の勢いでその知名度を町中に轟かせていったのだった。
私の予想以上の成果だ。
「ほっほっほっ。子らの成長を眺めるのは楽しいもんじゃ」
まるで竜馬を見ていた時の親のような優しい笑顔でそう言って付き添ってくれるジュノスは、私にとっても本当の祖父のような親しさを感じさせた。
それから商工会などにも頻繁に顔を出して町内の会議などに加わらなければならなくなり、旅館の若旦那であるロロが忙しく出ずっぱりになってしまっているが、これも嬉しい悲鳴だろう。
彼の持ち前の人当たりの良さもあって、今ではすっかり輪にとけ込んでいるようだ。以前は荒くれ者達の立ち寄る印象の悪い旅館も、身近な仲間として好意的に接してくれる人も増えた。
更には嬉しいことが立て続けで、私達が前に助けた行商人達からこの旅館のことを聞いたというお客様が来訪するようになり、以前より確実に客足が増えていた。
彼らに恩を売っておけば何かしら返ってくるだろうと思っていたが、広告塔として十分すぎる働きをしてくれているようだ。
その身を挺してまで助けに来てくれた。そして急な宿泊にも関わらず快く受け入れ、美味しい料理や酒を振る舞ってくれた。そう良く評判を広げていってくれているらしい。
ことさら温泉に関しては大絶賛で、行商人の中にも「また迂回してでも立ち寄りたくなったよ」と喜んでくれる人がいるほどだった。
「私達はいつでもお客様のお越しをお待ちしております」
すっかり言い慣れたそんな常套句と共に頭を下げる私の姿も、すっかり旅館の従業員として板に付いてきた感じがする。
「シェリーのおかげだよ。本当に」
「どうしたのよ、ロロ」
ほどほどのお客様が来るようになって忙しくなったある日の仕事終わりに、事務所にいた私にロロが言う。
「なんだかこの前までの寂しさが嘘みたいだ。忙しいけど、すごく充実してる感じがする」
「この旅館にはもともとそれだけの素質があったってことよ。私はそこにちょっと口を出しただけにすぎないわ」
実際、何十年も前の女将さんの時はもっと賑わっていたのだ。時代が変わって環境も変わったが、けれども一度は栄えるほどには魅力があるのだ。それに、廃れたものが一周してまた流行を取り戻すことだってある。
「でもまだ駄目。このくらいじゃ、そこらの小さな宿場町の宿とそんなに変わらないもの」
お父様に認めてもらうには、きっと、もっと繁盛させなければならない。それこそ旅館の部屋が毎日埋まり、人でごった返すほどでなければ。領主故にこれまで多くの店を視察に回ってきたお父様の眼鏡に適うにはあとどれほどだろう。
考えても果てが見えない。
「でも、やり方次第でこの旅館はきっともっとやれるわ。ちゃんとうまくやってみせるから、私に任せなさい」
「……うん」
なにやら歯切れが悪そうにロロが顔を伏せる。
「どうしたの?」と尋ねる。するとロロは私の顔を除きこむように上目遣いに見て、
「シェリー、大丈夫?」
「なにが?」
「いや、その。僕にも何か手伝えることがあったら言ってね」
「ありがと。でも今のところ大丈夫よ」
「……そっか」
私の返しにロロはふっと小さく微笑むと、何もなかったように首を振り、明るい笑顔を作った。
「シェリーがいてくれて本当に良かったよ」
「さっきそれ言ったじゃない」
「あ、うん。そうだね、あはは……」
なんだか調子が崩れるロロの様子が気にかかりながらも、私は名前でいっぱいになった宿泊者名簿を見てにんまりとしていたのだった。
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