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アマルガムの繭(前編)
第9話 闇夜8A(合流)
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朝日の光はとても気持ちがいい。百葉単語に課せられていた早起きがこんな形で役立つとは夢にも思っていなかった。
準備を終えると家を出た。百葉には課外研修だと書置きを残してあるが、あまり長い時間が経過してしまうとこの嘘は効力を失う。嘘が効力を持つであろう時間は1週間が限界だろう。嘘をつくことに心が痛んだが、本当のことを伝えたところで無意味だということは分かっているからやむを得ないと自分を納得させた。
集合場所は駅の近くにある十字路を指定されている。ラッシュの時間が過ぎれば殆ど人の気配がなくなって密会には丁度良い場所になる。
到着すると政府のお偉いさんが使うような黒塗りの車が停まっていた。スモークガラスまで貼られていて近づくだけでも緊張する。向こうはそんなこちらの心情などお構いなしに動き出す。
ドアが開くと葵が出てくる。恰好は会ったときと変わらずスーツ姿だったが、体調が悪いようで顔面蒼白だ。
「…大丈夫ですか?」
真っ先に出た言葉がこんな言葉になるとは思わなかった。
「大丈夫。さ、こっちへ」
葵は自分が使ったドアから中に入るように手招きする。逆らわずにオレは車の中に入った。後に葵が続く。
車内は清潔に保たれていて特筆すべきところはない。強いて言うなら運転席に座っている女性が何者なのかぐらいだ。
「これを使っていただいてもよろしいですか?」
振り向いた女性の手には黒い目隠しが握られている。見てはいけないと暗に言われている状況が日常から離れた場所に足を踏み入れたのだと認識させられる。
受け取って顔に巻き付ける。
「2時間ほどで到着する予定です。気分が悪くなったら早めに言ってくださいね」
女性が言い終えると車が動き出した。
移動をしている間は誰も口を開かなかった。沈黙には慣れているが、普段とは比べ物にならないほどに重苦しい空気は経験がない。視界が塞がれていることもあって早く車から降りたくて仕方がなかった。
出発してからどれほど揺さぶられてかは分からないが、エンジンの音が止まった。
「外して結構ですよ」
目隠しを外し、目を開けた。
「…山、ですか?」
都会暮らしが長く両親の親族の家も地方にはないため山に来る機会はほぼなかった。
標高は大して高くないが、6月に入っている山は青々と葉を茂らせている。入口と思われる個所を見ていると怪物が口を開けているように見える。
「ここを目指してもらうよ」
葵は地図を取り出して1つの個所を指さす。半ばより少し上の個所に赤い点が打ってある。
「それだけですか?」
「1時間でね」
間髪入れずに葵は答え、ポケットから端末を取り出す。
「山にいる間これは没収ね」
いつの間にかオレの端末は没収されてポケットには彼女が用意した別の端末が入っていた。それからミネラルウォーターと携帯食料を入れたバックを渡される。
「時間通り」最後に葵は言い残して車に戻って行き、乗り込むとすぐに反転した。
車が見えなくなるとオレは入口と思われる場所に足を進めた。やたらと『時間通り』にという言葉を強調しているように思えて少し引っかかった。
準備を終えると家を出た。百葉には課外研修だと書置きを残してあるが、あまり長い時間が経過してしまうとこの嘘は効力を失う。嘘が効力を持つであろう時間は1週間が限界だろう。嘘をつくことに心が痛んだが、本当のことを伝えたところで無意味だということは分かっているからやむを得ないと自分を納得させた。
集合場所は駅の近くにある十字路を指定されている。ラッシュの時間が過ぎれば殆ど人の気配がなくなって密会には丁度良い場所になる。
到着すると政府のお偉いさんが使うような黒塗りの車が停まっていた。スモークガラスまで貼られていて近づくだけでも緊張する。向こうはそんなこちらの心情などお構いなしに動き出す。
ドアが開くと葵が出てくる。恰好は会ったときと変わらずスーツ姿だったが、体調が悪いようで顔面蒼白だ。
「…大丈夫ですか?」
真っ先に出た言葉がこんな言葉になるとは思わなかった。
「大丈夫。さ、こっちへ」
葵は自分が使ったドアから中に入るように手招きする。逆らわずにオレは車の中に入った。後に葵が続く。
車内は清潔に保たれていて特筆すべきところはない。強いて言うなら運転席に座っている女性が何者なのかぐらいだ。
「これを使っていただいてもよろしいですか?」
振り向いた女性の手には黒い目隠しが握られている。見てはいけないと暗に言われている状況が日常から離れた場所に足を踏み入れたのだと認識させられる。
受け取って顔に巻き付ける。
「2時間ほどで到着する予定です。気分が悪くなったら早めに言ってくださいね」
女性が言い終えると車が動き出した。
移動をしている間は誰も口を開かなかった。沈黙には慣れているが、普段とは比べ物にならないほどに重苦しい空気は経験がない。視界が塞がれていることもあって早く車から降りたくて仕方がなかった。
出発してからどれほど揺さぶられてかは分からないが、エンジンの音が止まった。
「外して結構ですよ」
目隠しを外し、目を開けた。
「…山、ですか?」
都会暮らしが長く両親の親族の家も地方にはないため山に来る機会はほぼなかった。
標高は大して高くないが、6月に入っている山は青々と葉を茂らせている。入口と思われる個所を見ていると怪物が口を開けているように見える。
「ここを目指してもらうよ」
葵は地図を取り出して1つの個所を指さす。半ばより少し上の個所に赤い点が打ってある。
「それだけですか?」
「1時間でね」
間髪入れずに葵は答え、ポケットから端末を取り出す。
「山にいる間これは没収ね」
いつの間にかオレの端末は没収されてポケットには彼女が用意した別の端末が入っていた。それからミネラルウォーターと携帯食料を入れたバックを渡される。
「時間通り」最後に葵は言い残して車に戻って行き、乗り込むとすぐに反転した。
車が見えなくなるとオレは入口と思われる場所に足を進めた。やたらと『時間通り』にという言葉を強調しているように思えて少し引っかかった。
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