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アマルガムの繭(前編)
第3話 闇夜3(葵サイド)
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真っ暗だった視界が白い光に包まれる。薄っすらと開いていく瞼に少女の姿が映り込む。
「おはようございます」
口調こそ丁寧だが、声音には鋭い棘が含まれている。
橙木真理単語。真面目で合理的な努力家気質の少女だ。やたらと気が強いのは昔の名残らしい。
見た目は小柄で明るい栗色の髪は漫画で目にするような縦ロールになっており、釣り目気味の青い瞳は凛々しい令嬢というイメージを固める。ベージュのスーツではなくドレスを身に着けたらさぞ似合うだろう。実際のところ目を通した経歴によれば欧州を基盤に置く魔術師の末裔と言われている。
「どれくらい寝てた?」
「予定通りに1時間です」
「まだアラームが鳴ってないぞ?」
葵が問いかけると真理は端末を手に取る。
「ほぼもう時間です。それに果たすべき仕事は山ほど溜まってます」
惰眠を貪っているわけではないが、無理やり叩き起こされたことに少し不快感を覚える。尤も真理が言っていることも間違ってはいない。
「報告書はもう終わってる」
「例の企画は?」
「終わってるよ」真理の言葉に葵は茶封筒と紙の束を渡す。
紙の束は前回の襲撃の記録、茶封筒の方には上部組織への改革案が入っている。前者は義務であるが、後者は勝手にやったことだ。
「ありがとうございます。…1つだけ、確認してもいいですか?」
剛毅さを感じさせる表情そのままに口調には何処か躊躇いがある。
「本当に…吸血鬼が…」
「攻めて来るよ」
寝起きの頭を覚まそうとデスクの上に置いてある缶コーヒーを開けると葵は一息に煽った。温くなっても変わらない苦さが体に染みこんでくる。
真理が言うようにここ最近は出撃回数が増えている。対処が追い付いていないだけで吸血鬼が裏で絡んでいる事件も増加しているはずだ。
吸血鬼と戦うという立場にある限りは戦闘員が死ぬことは免れない。そのリスクをただでさえ上昇させることになる疲労困憊は出来るだけ避けたい。
「聞きたいことはそれだけ?」
葵はまだ続きがあるかもと感じて促す。さっきとは違って青い目が少し泳ぎ、やがて意を決したように葵の目を見る。
「通ると思いますか?」
「どうだろうね。アタシの知る限りのことは列挙した。しかし、紙面でしか戦場を知らん奴らにどれほど力説しても恐らく無理だろうね」
「…そうですか」
意気消沈して真理は顔を俯けるが、瞳の奥には普段見せない怒りをメラメラと燃やしているように見えた。抱えている報告書が圧力で歪む。
「残念ながらそれが現実。人間は自分が知らないものは想像できない」
コーヒーを飲み干すと葵は缶をゴミ箱に投げるも淵に当たって床に落ちた。
「自分で拾ってくださいね」
言いたいことを言い終えたらしい真理は背を向けて部屋を後にした。
周囲を見渡すと配置されているデスクには誰も座っておらず、コンピューターにも電源は入っていない。扉近くに設置してあるネームボードにはそれぞれの行き先が記されていて誰もしばらくは戻ってきそうになかった。
「ご飯食べよ」
1人ごちると葵は立ち上がって扉を開けた。
「おはようございます」
口調こそ丁寧だが、声音には鋭い棘が含まれている。
橙木真理単語。真面目で合理的な努力家気質の少女だ。やたらと気が強いのは昔の名残らしい。
見た目は小柄で明るい栗色の髪は漫画で目にするような縦ロールになっており、釣り目気味の青い瞳は凛々しい令嬢というイメージを固める。ベージュのスーツではなくドレスを身に着けたらさぞ似合うだろう。実際のところ目を通した経歴によれば欧州を基盤に置く魔術師の末裔と言われている。
「どれくらい寝てた?」
「予定通りに1時間です」
「まだアラームが鳴ってないぞ?」
葵が問いかけると真理は端末を手に取る。
「ほぼもう時間です。それに果たすべき仕事は山ほど溜まってます」
惰眠を貪っているわけではないが、無理やり叩き起こされたことに少し不快感を覚える。尤も真理が言っていることも間違ってはいない。
「報告書はもう終わってる」
「例の企画は?」
「終わってるよ」真理の言葉に葵は茶封筒と紙の束を渡す。
紙の束は前回の襲撃の記録、茶封筒の方には上部組織への改革案が入っている。前者は義務であるが、後者は勝手にやったことだ。
「ありがとうございます。…1つだけ、確認してもいいですか?」
剛毅さを感じさせる表情そのままに口調には何処か躊躇いがある。
「本当に…吸血鬼が…」
「攻めて来るよ」
寝起きの頭を覚まそうとデスクの上に置いてある缶コーヒーを開けると葵は一息に煽った。温くなっても変わらない苦さが体に染みこんでくる。
真理が言うようにここ最近は出撃回数が増えている。対処が追い付いていないだけで吸血鬼が裏で絡んでいる事件も増加しているはずだ。
吸血鬼と戦うという立場にある限りは戦闘員が死ぬことは免れない。そのリスクをただでさえ上昇させることになる疲労困憊は出来るだけ避けたい。
「聞きたいことはそれだけ?」
葵はまだ続きがあるかもと感じて促す。さっきとは違って青い目が少し泳ぎ、やがて意を決したように葵の目を見る。
「通ると思いますか?」
「どうだろうね。アタシの知る限りのことは列挙した。しかし、紙面でしか戦場を知らん奴らにどれほど力説しても恐らく無理だろうね」
「…そうですか」
意気消沈して真理は顔を俯けるが、瞳の奥には普段見せない怒りをメラメラと燃やしているように見えた。抱えている報告書が圧力で歪む。
「残念ながらそれが現実。人間は自分が知らないものは想像できない」
コーヒーを飲み干すと葵は缶をゴミ箱に投げるも淵に当たって床に落ちた。
「自分で拾ってくださいね」
言いたいことを言い終えたらしい真理は背を向けて部屋を後にした。
周囲を見渡すと配置されているデスクには誰も座っておらず、コンピューターにも電源は入っていない。扉近くに設置してあるネームボードにはそれぞれの行き先が記されていて誰もしばらくは戻ってきそうになかった。
「ご飯食べよ」
1人ごちると葵は立ち上がって扉を開けた。
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