上 下
1 / 3

1.

しおりを挟む
実「はあ、疲れた…」
日付をまたぐギリギリに、俺はバイトの帰りの帰路についていた。
少し空を見上げると、紫がかった暗い空に、色とりどりのガラスの破片を散りばめたような、綺麗な星が空を埋め尽くしていた。
(あぁ、夏の空だな…)
たしか明日は近所で夏祭りが開催される。
夏祭りといってもそんなに大規模なわけではなく、町内会の人達で神社の周りに出店を出すだけのお祭りだ。
俺は実家暮らしだから親に「手伝え」とよく言われるが、面倒なのでお祭りがある時は毎回バイトや予定を入れることにしている。
それにしても、夏祭りは俺が小さかった頃からずっとやっているが、なぜ毎回やれるような、資金があるのか疑問でならない。
去年は打ち上げ花火で、一昨年は神輿の巨大化、やる事なす事町内会とは思えないものばかり。
まあ、その代わり出店は金魚すくいと食べ物とくじとしょぼいが。
そうこう考えていると、大通りにでていた。
俺の家は大通りの脇道を少し行って、竹林を抜けたところにある。
俺が抜ける竹林には名前がついていて、同じような光景しかないから近所の人からは
「迷いの竹林」
と呼ばれている。
いや、俺ぐらいになると、迷わず自宅へ戻れてしまうが。
そうこう考えているうちに、竹林へたどりつく。

ここを右に行く。
そして左へ。
また左に行き。
まっすぐ行って。
さらに右に行くと、俺の家に着く。
ほら、出口が見えてきた。

しかしそこで俺を待っていたのは、全く違う光景だった。
どういうことだ?
道を間違えたか。
いや、十七年通い続けて今更迷うなんてあるはずがない。
じゃあなんだ。
夢か、幻想か。
それにしては現実的すぎる。
ならどうすれば現状の説明がつくんだ。

俺の目の前には、高い丘の上に太い木がぽつんとあり、周りは何も無い草原があった。
空は先程と同じ散りばめた空のまま。
俺は突然のことで、頭の整理が追いつかなかった。
ひとまず、一旦落ち着こう。
深呼吸、深呼吸。
すー…はー…
?「貴方も迷い込んだの?」
実「っ!?」
突然、後ろから声をかけられて、俺は振り返ると同時に距離をとった。
?「うふふ、そんなに怯えないで」
そこには、ピンクのセミショートで、水色の着物を着た、俺と同年代くらいの女性がいた。
実「誰、だ…?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
櫻「私?私は西行寺 櫻(さいぎょうじ さくら)。貴方と同じ境遇の人よ。貴方は?」
実「お、俺は魂魄 実(こんぱく みのる)だ。それにしても、同じ境遇って…」
櫻「どうやら、私たちは異世界のような場所に飛ばされてしまったみたいね」
櫻さんは面白そうな口調で話す。
いや、俺にとっては笑い事じゃない気がするけど。
櫻「さて、これからどうしましょうか」
櫻さんは、ワクワクした様子で周りを見渡す。
実「とりあえず、この世界から脱出して、元の世界に戻る方法を探してみよう」
櫻「んー、それもそうね。たしかに、帰れないと色々と心配させてしまうだろうし」
そういい、櫻さんは頷いた。
…気のせいだろうか。
櫻さんが一瞬、悲しそうな顔をした。
(まあ、気のせいでも気のせいじゃなくても、どんだけ今の境遇に興奮してんだか…)
そして俺は櫻さんと行動を共にした。
しおりを挟む

処理中です...