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6. 惣の束縛 絹の呪縛 どっちにしても逃げらんない

惣の束縛 絹の呪縛 どっちにしても逃げらんない ⑧

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 惣一郎の記憶を思い出してから、箍が外れている自覚はある。
 どうしてここまで美佳に執着するのか、惣一郎は絹に執着したのか、それはわからないが、手に入れないと安心しない。
 手に入れても、もしかしたら惣一郎のように安心できないのかも知れない。

 軟禁状態にするのは遣り過ぎと思う反面、何か解ってしまう自分が怖いとさえ感じる。
 惣一郎もそうだったが、他の女では埋まらない何かを絹や美佳は持っていた。言葉にするのは凄く難しいのだが、強いて言えば彼女がぽっかりと空いた隙間に充足感を与えてくれた。
 今思えば、どうして六年も離れていられたのか不思議だ。

 初めて絹に出会った時、一も二もなく欲しいと思った惣一郎。三味線の師匠からそれとなく情報を引き出し、絹の実家に出入りしてる商い仲間に渡りを付けて、見合いに漕ぎ付けた。
 惣一郎のこの根回しの良さには、我ながら感心する。

 絹の色よい返答に舞い上がって、ひと月の間に何度も誘い出した。
 遊び女たちとはすっかり手を切り、身綺麗にして絹と祝言を挙げ、間もなく絹は懐妊した。皆が喜び、幸せの絶頂であの女は現れた。
 その女、ツタと知り合い男女の仲になったのは、惣一郎が十九の時。艶めいたいい女で、惣一郎お気に入りの女だった。

 どうもこの頃から女の趣味は一貫しているらしい。
 この時代、惣一郎に限らず男も女も性には奔放で、お互い遊びと割り切っていた筈だったが、ある日ツタは子が出来たと言って大店の嫁として家に入り込もうとし、当然両親は激怒したが、すぐにツタを丸め込んでその場を退かせた。大方、贅沢な暮らしができるだけの金でも握らせたのだろうと惣一郎は納得し、それきり顔を出すこともなくなったツタの存在をすっかり忘れていた。

 しかしツタは風の噂に惣一郎が祝言を挙げ、子供が出来たことを聞きつけるや、店に乗り込んできた。
 彼女はずっと惣一郎と夫婦になれるものだと、信じていたようだった。
 父がツタに子を流す薬を渡していたことをこの時知ったが、何の感慨も湧かなかった。けれど彼女にしてみれば、余りに理不尽だったろう。
 同じ惣一郎の子供で在りながら、喜ばれる子供と疎まれる子供。
 怒りの矛先は絹に向かった。

 最初は絹宛に嫌がらせの文が届き、次には猫の死骸が届いた。それから暫く平穏な日を送ると、初めは怯えていた彼女の恐怖も薄れ、外出するようになり、供をしていた絹の子供の頃からの小間使いの娘が、彼女を守って命を落とした。
 それだけでも絹には大きなショックだったろうに、逃げていたツタは裏口から家屋に忍び込み、深夜まで潜んでついに凶行に及んだ。
 幸い大事に至る前に惣一郎が目を覚まし、ツタを取り押さえて役人に引き渡したものの、度重なる心労で絹は流産しかけた。

 幸せは転がるように奈落へ落ちていく。
 自業自得とは言え、絹からの信頼は失墜した。
 惣一郎が何をしたところで、絹の花が綻ぶような笑顔は取り戻せず、寧ろ彼女は疑心暗鬼に囚われ、溝は深まって行くばかりだった。

 初めは絹に努めて優しく接していた惣一郎も、やるせなさを紛らわせる為に再び女遊びを始めた。嫉妬の一つも妬いてくれたら、直ぐに絹の元に戻ったろう。
 どんどん泥沼に嵌まっていった。
 次第に本当に愛しているのかすらも分からなくなって、絹のことを振り返ることもなくなっていた。

 産後伏せることが多くなり、錦から暇乞いの話が出るようになると、惣一郎の両親も彼にお伺いを立ててくるようになった。絹が綾太郎を置いて実家に帰るような薄情とは思っていなかったが、どうにも心配で惣一郎は絹を軟禁し始めた。

 そんな事をするくらいならもっと大事にすれば良いだろうと思いつつも、自分も美佳に同じ事をしそうだと危惧している。なんと言っても惣一郎はかつての自分なのだから。
 二度も同じ過ちを繰り返す訳にいかないと、分かっていながら独占欲が剥き出しになっていく。

 特に好みの美人でもスタイルでもないのに、やっぱり美佳が欲しい。
 身体の相性は、すこぶる良い……が、それを差し置いてもだ。
 離れたら自分を保てない。
 けれど絹は先に逝ってしまった。
 どうか今度は、今度こそは……。

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