120 / 167
17. それがA・Dだろ 【R18】
それがA・Dだろ ②
しおりを挟む晴日と竜助が生徒会長のしつこさに辟易していた放課後、十玖が今年もまんまと苑子に嵌められ、憔悴した面持ちでふらふらと三年のクラスにやって来て、そして柳田の顔を見るや、青褪めて一目散に走り去った。
「…何したんだ奴は」
首を傾げる竜助を見、晴日は柳田を指さした。
「コイツ見て逃げなかったか?」
「野生の勘か?」
「十玖の危機察知能力、パねえな」
言って晴日が立ち上がる。
「十玖が逃げ出すとは、ある意味すげえよ」
竜助も立ち上がって柳田の肩を叩き、
「諦めろ。十玖がアレじゃ歌ってくれんぞ?」
「百パー無理だな。メンバー中一番の頑固もんだかんな」
二人はカバンを手にすると、「そんなあ」と情けない顔をした柳田を振り返りもせず、教室を出た。
晴日が十玖に電話する。
「よお。どこだ? 話あるんだろ?」
でなければ十玖が三年のクラスにやって来ることはない。必要以上に騒がれたくない十玖らしい。
『下駄箱前にいました』
「いま行く。待ってろ」
『…はい』
晴日たちは急いで下に降り、十玖と合流した。心なしかやつれて見える。
三人は斉木家に移動する事にした。
その道中、十玖が話し始めた内容に晴日と竜助は呆然とした。
「何とゆーか、周到だね。お苑ちゃん」
竜助は口元を抑えて呟いた。
苑子のことだから何か仕掛けてくるとは思っていたが。
「筒井マネも抜け目ねえな。学祭如きにここまでするとは」
「稼げるチャンスを逃さない仕事っぷりは賞賛するけど、くうちゃんまで丸め込んだら、十玖に逃げ道ないな」
「大人って汚い」
涙目で呟く十玖に、言葉もなく苦い笑みを浮かべた。
三人は地下鉄を降り、晴日の家に向かう。
しばらく歩いたところで、十玖がため息交じりに口を開いた。
「そう言えば、思わず逃げてしまいましたけど、柳田会長、何の用だったんですか?」
顔を見た瞬間、寒気がして咄嗟に踵を返していた。
「逃げて正解。今年もライヴやってくれって」
頭がくらりとした。
片眉をそびやかした晴日を見詰め、キャパオーバーの頭を抱えた十玖。
「ちょ…ちょっと僕、いま本気で気絶しそうになった」
「そうだろうとも。去年の十玖が悲惨だったから、晴と断り入れてるんだけどな」
「諦め悪くてよぉ。でもまあ、柳田にはお苑ちゃんみたいなコネはないから安心じゃん?」
苑子にコネを作らせてしまったのは、他でもない自分である事に十玖は頭が痛い。
「去年ので味を占めたんだろうけど、簡単に考えすぎなんだよ」
玄関扉を開いた晴日は、竜助と十玖を招き入れ、まっすぐキッチンに向かう。十玖たちは勝手に晴日の部屋でくつろぎ始めた。
程なくして五百ペットのお茶を持って来た晴日が「ほれ」と二人に投げた。どっかりと胡坐をかき、「しかし何だなあ」とキャップをこじ開ける。
「ここまで周囲固めてくるお苑ちゃんの執念はスゲエよな」
「母さんの教えの賜物でしょうかね。華子さんの教えまで乞うてるとは、思わなかったけど」
「使えるものは何でも使うあの根性と押しの強さ、女にしとくの勿体ないよな」
分かっちゃいても、大体の男が退く。
免疫のある十玖と太一だから、付き合えると言っても過言じゃないが、最近チャレンジャーが一人加わった。
「みんな十玖にここまでさせたい理由って何だ?」
竜助が言う。
「苑子曰く、みんな僕 “で” 遊びたいらしいです」
「……分からなくも…ない」
確かに十玖を揶揄うと面白い。二人とも否定はしない。
「遊んで得になるなら誰でも遊ぶわな」
いつも先頭きって十玖で遊ぶ晴日だが、今年も大学祭までぎっちり入った一日だ。ベストなライヴを最優先している。
十玖は立てた膝の上に頬杖をつき、見るともなしに二人を見た。
「でもタロさんとせっちゃんが得する事ってなんだろ?」
十玖の良い写真が撮れたら、DUNEで何枚か使って貰えるとして、慎太郎のメリットってあるのだろうか?
SERIにしても同じことが言える。
晴日たちはしばらく首を傾げ、竜助が最もあり得る事を口にした。
「そこは純粋に遊んでるだけとか?」
「せっちゃんは多分。……僕と淳弥が圏外なのって、せっちゃんの初期設定で、僕らが女の子の恰好をさせられていたせいだと思うんですよね。だからやっぱり僕たちに女装させるの好きだし。タロさんは美空の師匠だから?」
晴日は一瞬天井を仰いでから十玖を見、
「そこは直接本人に訊いてみたらいいんでない?」
「なんか、墓穴掘りそうで怖い」
慎太郎自身は、人当たりの良い穏やかな人だが、今回何故だか裏で暗躍しているアノ華子の旦那なのだから、安心してはいけない気がする。
三人はあらぬ想像してどこか虚ろに笑った。
0
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる