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14. A・Dの夏休み 【R18】

A・Dの夏休み ④

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「ほら。馬鹿力。きっちりパラソル突き立てろ」
「了解です」

   晴日からパラソルを受け取り、振りかぶり気味に突き刺した。がっちりと砂に食い込んだのを確認してばさっと広げると、待ち構えたように美空と萌が空かさず日陰に逃げ込み、くすくす笑って十玖はペットボトルのスポーツドリンクのキャップを捻った。

「あのぉ。すみません」

 背後から声を掛けられ、十玖と晴日が振り返った。

「不躾で申し訳ないんですけど、私たちのパラソルもお願いできないでしょうか? 女ばかりで、どうしても斜めに倒れてきちゃって」

 僕に言っているんだよね? と十玖は首を傾げ、声を掛けてきた女性三人をじっと見てから、晴日を見、美空を見る。もう一度三人に視線を戻し、

「なんで? 海の家の人に頼んだら?」

 フェミニストらしからぬ発言だが、この場面で八方美人でもないだろう。
 三人はもじもじしながら、一人が意を決したように口を開いた。

「あの。A・Dのハルとトークですよね? 私たち大ファンなんです!」

   理解した。

(あ~。そーゆー事か…困ったなあ)

 ペットボトルのキャップを閉めて周囲を見渡せば、声高に言った彼女の声が、こちらを窺うギャラリーにも聞こえたのを悟った。

 ――有名人?
 ――A・Dだってよ。知ってる?
 ――ほらほら。CMで流れてる、えーと何だっけ?
 ――“To Be Free”!
 ――そお! それそれ

 ざわざわとした話し声とシャッター音が聞こえてくる。
 十玖が晴日を見ると、彼は肩を竦めて苦笑し、

「悪いけど、俺らプライベートで来てるから、そーゆーの勘弁してくんね?」
「じゃせめて二人のツーショット撮らせて下さい!」

 食い下がってくる三人組に、肩を竦めながら十玖を見る。嫌そうな顔をする十玖の耳元で、「ファンは大事にしないとな」と小声で言って仏頂面の十玖と肩を組み、「一枚だけにしてくれよ」と晴日が笑う足元で、萌が奇声を上げた。

「どうした?」
「謙人さんからライン。さっきのとーくちゃんと美空さんの絡み、もおSNSにアップされてるって!」
「はやっ!」
「あ。竜さんからも来た」
「二人とも暇なんだな」

 ぼそりと呟き、晴日は三人組に向き直った。
   面白くないお知らせで更に仏頂面全開の十玖を宥めつつ、何とかツーショットを撮り終えると、嬌声を上げながら立ち去る後ろ姿を見送り、晴日はしゃがみ込んで萌のスマホを覗き込んだ。

《KENT――十玖。炎上間違いなしだから、覚悟しとけよ!》

《RYU――筒井マネの悲鳴が聞こえる(笑)》

 晴日に手を引っ張られ、しゃがみ込んだ十玖もスマホを覗き込む。晴日が謙人のコメントに貼付されていたURLをタッチすると、連写された写真がアップされていた。
 十玖がTシャツを美空に被せる下りから、背中をポンポンするところまでしっかり写っている。

 舌打ちをし、十玖は周囲を見渡した。
 見たところで誰だか分かるはずもなく、ぶすっくれた顔でバナナボートを小脇に抱え、美空の手を引っ張ってズカズカと海に向かった。

 取り残された晴日たちは、コメントを読んでため息をつく。謙人の心配する通り、これは炎上するだろう。
 晴日がため息をつく隣で、萌がググると新たなコメントが列挙されていた。その一つを開いてみると、十玖と晴日の見事な姿態に対するコメントだった。

 ――二人とも、ちょー美body!!
 ――抱かれてみた~い
 ――どうやって鍛えてんのかな?
 ――兄貴って呼びたいっす!
 ――ハルの足元に写ってる子、トークに似てるけど、妹?

 等々。どこまでもコメントが続いて行く。

「抱かれてみたいだって」
「トークの妹かだって」

 同時に呟いた。
 二人は目を見合わせ、にっと笑う。

「どれ。俺らも行くか」
「待って待って。スマホ、パウチに入れる」

 急いでスマホ用の防水パウチに入れ、紐を首から下げる。晴日は浮き輪を萌に持たせると、彼女を抱きかかえて海に向かって歩き出した。

「抱かれる女」
「いや。この場合、抱っこされる女だよ」
「じゃあ後でじっくり抱くか」

 にやにや笑って萌を見る晴日をバシバシと叩くと、いきなり海に投げ込まれた。
  予期しなかったことに慌ててバシャバシャと暴れる萌を、引っ張り上げる。抱っこされると咳込みながら、性懲りもなく反撃し、再び放り投げ込まれた。
 晴日はゲラゲラ笑って萌を抱き上げると、顔をくしゃくしゃにして晴日の首にしがみ付いた。

「ひ…ひどい!」
「浮き輪使えよ」
「晴さんの鬼!」
「また投げるぞ?」
「やだあ」

 どんどん沖に歩いて行く晴日が楽しそうに笑うと、萌がびーびー泣き出した。

「何してんですか、先刻から」

 美空を乗せたバナナボートを引きながら、十玖が近寄って来た。

「とーくちゃ~ん。晴さんがイジメるよぉ」

 言って手を広げ、助けを乞う。
 ぐしゃぐしゃになって泣く従妹を「はいはい」と言って抱っこする。背中を擦られ、安心しきった萌から、十玖はいきなり手を放した。
 ドボッと水しぶきを上げ、あっぷあっぷする萌を晴日が救い上げた。ぎっちりと晴日の首にしがみ付き、パニックになった猫の様相を見せる萌に、十玖と晴日は爆笑し、「十玖ってば」と非難しつつ、美空が笑いを噛み殺しているのがバレバレだ。

「とーくちゃんのバカ!」
「はいはい。でも萌の彼氏は晴さんでしょ? そうやってしっかり捕まえてなさいね」
「二人とも萌ちゃんで遊びすぎ。可哀想でしょ」

  とか言いながら、美空も完全に笑いは殺せてないけれど。

「美空さ~ん。大好き」
「美空は僕のだよ」
「萌にまで妬くな」
「だって…萌が日焼け止め塗ってるし! 僕だって美空の水着見たかったのに」

  心配でそれどころではなくなってしまった。
  十玖はむすっとしてそっぽを向くと、「ずっとこうして機嫌悪いの」と美空が苦笑して肩を竦めた。

「とーくちゃんてすんごいヤキモチ妬きなんだ」
「そうだよ! 悪い?」
「…美空さん。とーくちゃんヨロシクね」
「それは勿論だけど、お兄ちゃんも相当だからね?」
「え~ぇ」

 本気で嫌そうな顔をする。

「なんだその反応は。また放り投げるぞ?」
「やだっ! …そう言えば、さっきパパにヤキモチ妬いてたよね?」

 にこやかに暴露すると、十玖と美空が吹き出した。

「悪いか」

 言って、晴日は萌を道連れに潜り、もがく彼女にキスをする。

 水中のことに興味がない二人は、すいーっと移動を始めた。


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