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14. A・Dの夏休み 【R18】

A・Dの夏休み ③

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「美空、早く!」

 十玖はエレベーター前で何度も手招きした。
 待ち合わせ時間から、もう十分も経過している。

「晴さんきっと怒って…………ないですね」

 エレベーターのドアが開いて、真正面に見えた顔に妙な笑みを浮かべた。
 四人がバツの悪い笑顔を張り付けて、エレベーターのドアが閉まる。

「よお十玖。すっきりした顔してんな」
「そう言う晴さんこそ」

 言ったきり、二人は口元を緩めて無言になる。美空は男二人の背中をげんなりとした目で見、

「二人とも気持ち悪い」

 二人が振り返って同時に口を開く。

「なんでぇ!?」
「にやにやして、やだ」

 眉をひそめて見上げる美空に、十玖と晴日は目を合わせ、苦笑いを浮かべた。
 エレベーターが一階に着き、十玖が「そう言えば」とロビーを歩きながら晴日を振り返る。

「叔父さんから着信入ってたんですけど、そっちには連絡行きましたか?」
「ああ…あったな」

 思い出して、些かむっとした顔をする。

「良かった。マナーにしてたんで、気付かなくて」
「良かっただと? それでこっちは萌とプチケンカになったんだぞ」
「……あー。それはご愁傷さまでした?」
「虐めてやったけどな」

 意地の悪い笑みを浮かべ、萌を見る。彼女は赤くなって、晴日の膝裏に蹴りを入れた。ガクンとなり、危うくコケそうになるのを十玖が腕を引っ張って支えた。

「も~え~!」

 晴日に睨まれて、萌は「きゃー」と走り出し、晴日は「待てっ!」と追い駆けた。
 すぐトップスピードに乗るアスリートを、長身のそのストライドでカバーし、両腕にとっ捕まえてブンブン振り回す。萌の楽しそうな声が上がった。

「なんか楽しそう」
「美空もしたいの?」
「いや。結構」

 腕を広げて抱き上げようとした十玖を、ぐいっと押し退ける。十玖はニヤニヤと笑っていた。

「やってあげるのに」
「恥ずかしいからヤダ」
「じゃ二人きりの時ね」

 下から覗き込んで「ね?」と笑う十玖に、唇を尖らせつつも笑みを隠せない。

「しょうがないなあ。やりたいならやらせてあげる」
「うん。やりたい」

 にっと笑って素早くキスをし、「Hなこともね」と囁く。

「とおくっ!」

 真っ赤な顔になった美空が、ビニールバッグで殴りつけてくる。十玖はケラケラ笑いながら走り出し、晴日たちを追い越して行く。続け様に美空が文句を言いながら追い越して行くと、

「晴さん追い駆けて!」
「ラジャー」

 萌を抱えたまま走り出した。



 四人が砂浜まで走って辿り着くと、立ち止まった十玖はビニールバッグでボカボカ殴られて笑っている。

「ほれほれ。じゃれてないで、場所取り」

 抱えている萌を振り回し、彼女の足で十玖を打つ。「萌がやってるんじゃないよぉ」とか言いながら、ゲラゲラ笑っている彼女もなかなかいい根性だ。

「は~る~さあ~ん」
「行け!」
「分かりましたよッ!」

 十玖は美空と手を繋ぎ、「まったくもお」と振り返って晴日を睨むと、すたすたと歩きだした。

 二人は適当な所を見つけるとビニールシートを広げ、美空が出したバナナボートを十玖がその肺活量を以って膨らまし始めた。そこにのんびりとした足取りで、晴日たちがやって来た。

「上等上等」

 萌を下ろし、満足そうに頷く。
 晴日は浮き輪を膨らまし始め、十玖のバナナボートとほぼ同時に膨らまし終えた。

「鬼の速さで膨らましたな」
「一応、ヴォーカルなんで」

 ピースをする十玖。晴日は、けっとした顔をして立ち上がる。

「パラソル借りに行くぞ」

 十玖に立てと合図する。立ち上がるのを見ながら、

「何が飲みたい?」
「あたしお茶がいい」
「萌はコーラ」
「了解。男に声かけられても無視しろよ?」

 そう言い置いて、二人は海の家に向かった。
 美空はビニールバッグから日焼け止めを出し、萌を見る。

「塗ってくれる?」
「いいよお」

 日焼け止めを受け取り、美空がパーカーを脱ぐのを眺めていた。滑らかな姿態に、花がプリントされたビキニが映える。萌の目線が一点に集中した。

「おっぱいデカっ」
「萌ちゃんッ」

 赤くなって胸を隠すと、萌は深いため息をついた。

「いいなあ。とーくちゃん嬉しいだろ~なあ」
「萌ちゃ~ん」
「萌なんか貧相なもんだよ」
「アスリートが胸大きかったら、走り辛いんじゃ」
「そうなんだけど! もう少し欲しい」

 しょんぼりしながら、美空の背中に日焼け止めを塗っていく。

(お兄ちゃんがいいんだったら別に問題ないと思うんだけどなあ…? それで問題があるなら、むしろ嬉々として育てようとするよね)

 晴日検定一級の実妹は思うのだけど、とは言え美空が口出しても、萌の慰めにならないのは解る。だから口にしない。
 しばらく黙々と二人は日焼け止めを塗っていたが、萌が沈黙を破った。

「ねえ美空さん」
「なに?」
「潮吹きってしたことある?」

 予期せぬ質問に、美空は吹き出し真っ赤になって吃った。

「なっ…ななな何? いきなり!」
「あるの? ないの?」

 真剣な目で見入られて美空が後退るも、萌に「どっち?」と詰め寄られ、美空は顔を両手で隠した。
   つい先刻のことがまざまざと脳裏に甦ってきて、知らず美空は見悶える。
  
   十玖に花芯と膣内なかを同時に攻められ続け、もの凄い波が来た瞬間尿意にも似た快感とともに噴き出した。彼に「これって潮吹き?」とマジマジ聞かれ、真っ赤な顔でぷるぷる震えていたら、「気持ちよかったんだ?」と凄く幸せそうな顔をした。

 まあそれで気を良くした十玖に攻め倒され、約束の時間に十分遅れたけれど。
 指の隙間から萌を見た。

「…………ある」

 余りにタイムリーな質問に消え入りそうに答えると、萌は「そっか」と呟いた。

「あれってメチャクチャ恥ずかしくない?」
「訊かれてる今も、充分恥ずかしいんだけど」
「そお?」

 女同士じゃん、と萌は平然としている。
 萌のこのおおらかさが羨ましい。
 美空を塗り終え、交代して萌の背中に塗り始めると、間もなく声を掛けられた。何ともなしに振り返って、美空たちはしまったとばかりに顔をしかめた。

「彼女たち友達?」

 ニコニコした二人組。

「ねえねえ。ビキニの彼女、俺好みなんだけど」
「ちっこい子も二、三年後が楽しみな美人だけどね」

 ちっこいは余計だも、と口中で呟いた萌が二人組を睨んだ。二人組は全く気にも留めてないらしく、美空に迫り寄って来た。

「ビキニちゃん。俺たちと遊ぼうよ」
「連れがいますので、遠慮します」
「そう言わないでさっ」

 美空の腕を取り、引っ張り上げようとする。ザワっと鳥肌が立ち、思わず叫んでいた。

「とおーくッ!!」

 ドスッ!!

 何かが倒れ込む音を聞いてそっちを見ると、腕を掴んでいた男が吹っ飛んで転がり、美空の隣に十玖が仁王立ちで立っていた。

「人の彼女に汚い手で触るな!」
「とーくちゃんカッコいい!」

 萌が目を輝かせて拍手する。

「いきなり飛び蹴りかよ」

 晴日はニヤニヤと神経を逆撫でする笑みを浮かべて二人組を眺め回し、十玖は眇めた目で顎をしゃくった。当然カチンとくるわけで。

「ヤローッ!」

 もう一人が十玖に殴りかかって行くのを晴日が足払いし、体制を崩した背中を十玖が一突きすると、敢え無く二人組は砂浜に転がった。
 十玖はTシャツを脱ぎ、有無も言わせず美空に被せる。

「肌見せ禁止。危ない!」
「やだ。こんなの着てたら泳ぎ辛い!」

 唇を尖らせ、Tシャツを脱ごうとする美空の胸に、十玖が顔を埋めた。

「ちょっ!」

 周囲の視線が一気に集まった。
 必死で十玖を遠ざけようとする美空。暫くするとムスッとした顔で十玖が離れて、胸元をマジマジと見、

「これで良し。美空、日焼け止め塗ったの? 不味いんだけど」

 口元を拭い、顔をしかめる。

「これでもTシャツ着ないでいられる?」

 胸を指差され、美空は目線を落とすと悲鳴を上げた。くっきりと付いたキスマークに、慌ててTシャツの袖に腕を通す。

「十玖のバカ! スケベ!」
「知ってる」

 しれっと言う十玖を、癇癪を起こしたように手当たり次第に叩きまくる美空。晴日は失笑し、

「兄貴の見てる前でするか? 普通」
「ダメですか?」
「ダメじゃないが、しないだろ」
「聞き分けないんですもん。美空ってば」

 ポカポカ叩き続ける彼女の手首を掴み、そのまま抱きしめて、背中をポンポンと叩いてあやし始めた。それですっかり大人しくなった美空を眺めながら、晴日は「バカップル」と呆れた顔で言い捨て、十玖が放り出したパラソルを拾う。
 さっきまで転がっていた二人組は、こそこそと逃げ出していた。


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