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12. I love you too much and I don’t know what to do. 【R18】
I love you too much and I don’t know what to do. ④
しおりを挟む二人はしばらくウィンドウショッピングを楽しみ、映画を見て、食事に来ていた。
創作イタリアンの店だが、家族連れも多く比較的お手頃で、味は従兄の淳弥のお墨付きだ。
人目を気にせず落ち着いて食事が出来る場所はないか、色々と付き合いの多い淳弥に訪ねたところ、この店を紹介してくれた上に個室まで予約してくれた。
美空はだいぶ躊躇していたが、スタッフが気さくなのですぐにリラックスしたようだった。
「十玖がこういうお店知ってるとは思わなかった」
「うん。淳弥に教えて貰った。美空の誕生日だから、良い所ないかって」
「ありがとう。嬉しい」
「美空が喜んでくれると、僕も嬉しいよ」
次々運ばれてくる料理を美空がスマホのカメラに撮っている。細かくこだわって撮らずにいられないのは、もはやカメラマンの習性か。
「美空。程々にして食べないと冷めちゃうよ?」
「あ。ごめん。夢中になってた」
「写真撮ってる時の美空、僕は好きだよ」
仏のような微笑み。
美空はスマホをテーブルに置いて、
「十玖はあたしに甘すぎ」
「そお? もっと、とろっとろに甘やかしたいのに」
左手で頬杖をつき、右手を美空の頬に伸ばしてくる。触れる指先にピクリと反応すると、十玖はくすりと笑って手を離した。
「食べようか」
何事もなかったように、食事を始める十玖の手元を見つめながら、美空も食べ始めた。
ウィンドウショッピングをしている時、シルバーアクセの店に立ち寄った。美空はペアリングが欲しかったのに、十玖に却下された。理由は十玖の握力。指輪が変形する事は間違いないからしたくないと言われ、仕方なくペアのブレスレットにした。
別にブレスレットに不満があるという訳ではないのだが、その時にふと思ったのだ。
この人はずっと指輪をしないのかな? ―――― と。
そう思ったら何となく寂しくなった。映画観たらすぐに忘れるくらい些細なものだったけれど。
映画の感想を話しながら食事は進み、空になった皿が下げられると、小さなホールケーキに蝋燭が立てられて運ばれてきた。
言葉もなくケーキに見入っている美空に声を掛ける。
「美空。誕生日おめでとう。さあ。願い事して」
にこにこしている十玖を見、指を組んで額に当てる。そっと目を閉じ、美空は願い事をすると火を吹き消した。蝋燭の独特な匂いが広がる。
「どんな願い事したの?」
「言ったら叶わなくなるじゃない」
だから内緒、と美空が笑うと、十玖が小さな箱をポケットから取り出した。
「開けて」
差し出された箱を、十玖の顔を窺いながら開けると、美空はうな垂れて無言になった。
「気に入らない?」
心配げに聞いた十玖。美空は大きく首を振ってボロボロ泣き出し、十玖は彼女の隣に座って肩を抱いた。優しく目を細め彼女の顔を覗き込む。
「美空?」
「何で…あたしが嬉しいと思うことが分かっちゃうかなあ」
「いつも美空を見てるから」
箱の中にはペアリングが入っていた。派手な装飾はなく、シンプルそのもののように見えたが、十玖は美空のリングを取り、少し傾けて内側を見せた。
内側にルビーとオパールが嵌め込まれ、二つの石の間に “You are all of me” と刻印されている。ルビーは美空、オパールは十玖の誕生石だ。
美空の手を取り、「予約」と言いながら薬指に嵌め、その手にそっとキスをする。
「もお。さっき指輪ヤだって言ってたじゃん。だから諦めたのにぃ」
「だってもう買ってるなんて言えないでしょ。それに前はホントに嫌だったんだよ。意味のないアクセは」
美空の前に指を広げて手を出した。彼女は十玖の指にリングを嵌めると、不安げに見つめてくる。
「アクセは迷惑だった?」
「とんでもない。だってちゃんと意味が有るでしょ? 美空が僕を好きだって」
「…うん。好き。すごく好き」
「僕もすごく好き。だから、十八になったら結婚して?」
言葉を失っして十玖を見た。
妊娠したかもと思ったときは、十八になったら籍を入れてとか考えたけれど、今は慌てて結婚しなければならない理由がない。
「え…と。どうしたの急に」
「急じゃないよ。ずっと考えてた。家族じゃないと、美空に何かあっても僕は蚊帳の外なんだ。近くに行きたくても近寄らせて貰えないのは、もお嫌だ。だから、僕に家族の権利を下さい。ダメですか?」
真摯な眼差し。
ただ好きで一緒にいたいからと言うのではなく、つらい時を乗り越えて来たから、切実に思うこと。
美空は十玖の首に抱き着いた。
「そんなの決まってる。OKだよ」
「うん」
美空を愛しく抱きしめる。
「後からやっぱなしとか言わないでよ?」
「十玖もね」
「僕がいう訳ないでしょ。美空いないとダメダメなのに」
頬にキスして、十玖は自分の席に戻った。
「クリームが溶けてくる前に食べちゃおうか」
微笑んでケーキを切り分け、大きい方を美空に差し出した。彼女が無言で抗議すると、「だって好きでしょ」とケーキを一口取り、美空の口元に持っていって「あーん」と口を開けてニヤニヤしてる。
口を尖らせて十玖を睨んだが、かえって嬉しそうに見えるのは何故だろう。
目の前のケーキを頬張ると、十玖は美空の口の端に着いたクリームを親指で拭き取り、ごく自然に舐めた。
その舐める仕草が、妙に艶めかしく、十玖の口元に視線が釘付けになる。食べる姿が色っぽく見えるものだなんて、今まで知らなかった。
美空の視線に気が付いてフォークを置き、首を傾げて彼女を見た。
「なに? どうかした?」
見惚れてましたとは言えず、俯いたままケーキをちびちびと食べる。上目遣いで十玖を盗み見て、口元や上下する喉仏にぞわぞわするものを感じた。
(あたし変かも~お)
そう思ったら、急に居心地が悪くなってきた。
二人きりでいたら、変な事をしでかしそうで自分が怖い。
急にピッチを上げてケーキを食べ始める美空を、十玖はくすくす笑って見ていた。
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