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12. I love you too much and I don’t know what to do. 【R18】
I love you too much and I don’t know what to do. ②
しおりを挟む十玖と美空は朝のうちに預けていた荷物を、駅のコインロッカーから取り出した。トイレで着替え、電車に乗り、繁華街の最寄り駅で手荷物をロッカーに預けた。
手を繋ぎ、歩く姿はどこにでもいるカップルそのものだ。時折、十玖をガン見する人とすれ違うが、挙動るとかえって不審を招くことを学習した。
アーケード街に並ぶ店を、気の向くまま足を運ぶ。
太一や苑子を交えてなら、何度もこうして歩いたけれど、こんな在り来たりのデートが、二人にとって初めての事だった。
ヘアアクセサリーの店で、美空がシュシュを選んでいる脇で、自分好みのシュシュを見つけた十玖が「これが良い」と彼女の髪に近付ける。
「似合う?」
「当然でしょ。僕がチョイスしてるんだから…それ。美空、気に入った?」
「あ…ううん。そうじゃなくて」
「何回も手にしてるよ?」
美空の手からシュシュを取ると、彼女が奪い返す。
「違うの。あたしのじゃなくて、練習の時、前髪邪魔そうにしてたから」
「僕の?」
「ん。でもシュシュにするかカチューシャにするか悩んでた。シュシュなら使わない時、手首にしとけるけど、カチューシャなら手間がかからないでしょ」
手をカチューシャに見立てて、自分の前髪をさっと上げる。
「十玖は自分で結べる?」
「多分。美空が結んでくれてもいいんだけど?」
前髪を束ねて握り、美空の前に顔を突き出す。彼女はその顔を掌で押しやり、そっぽを向いた。
「そーゆーの反則」
「なんで?」
美空の手を退けながら、ニコニコしている。美空は上目遣いで十玖を見、
「分かっててやってるでしょ?」
「何のこと?」
にっこりと笑って見つめ返す十玖。美空から言葉を引き出すまで、絶対引かない性格は分かってる。
「後でね」
「いま言えない事?」
やっぱりね、と分かり切っていた事を思う。美空は十玖の袖を引っ張って、「キスしたくなるじゃない」と耳打ちをした。
拗ねた目で見上げる美空に、十玖は満面の笑顔だ。
「なんでそんなに言わせたがるのよっ」
「だって」
すうっと屈んで耳元に口を寄せた。
「僕ばかり美空を欲しがってるみたいで、不公平じゃん」
離れ際、耳に息を吹きかけ悪戯っぽく笑う。耳を押さえて真っ赤になる美空の手からシュシュを奪い、十玖はレジに向かった。
「ちょっ、それはあたしが買いたい」
すぐ追い駆けたが、手を高く上げて美空では届かない。十玖の周りをぴょんぴょん跳ねる美空を店員が笑ってる。そのうち十玖に頭を抱えられ、身動きできない間に会計が済んでしまった。
はい、と袋を手渡されて、美空はその場で袋を開けると十玖を手招きし、彼の前髪をちょんまげに結った。店員が小さく吹き出し、十玖が苦笑するのを見るや、「待ってて」と指差して指示し、戻った彼女は黒のカチューシャを手にしていた。十玖に近寄るなと手を突き出して、そろそろとレジに向かう。
「これは、絶対にあたしが買うんだから、手出し無用」
「今日は美空の誕生日でしょ」
「そう。だから何百円のことで怒らせないでね?」
せっかくの日を台無しにするほど、十玖もバカじゃない。彼が肩を竦めると、了承と取って美空が財布を取り出した。
十玖は頭のシュシュを取って手首に嵌め、ちょっと不服そうだ。
「僕の物買ってどーすんの?」
「賄賂よ。今日は散財して貰うから」
ニコリと笑って袋を差し出す。十玖はくしゃりと笑って「了解」と受け取った。
晴日は、繁華街の入り口付近にあるカフェに一人でいた。外の見えるカウンター席で、ぼんやりと温くなったコーヒーを啜る。
一度家に帰ったがやる事もなく、かと言って竜助とバカ話する心境でもなく、何となく街に出た。
萌と付き合う前は、よく一人で街をふら付いたりしたものだ。
その萌ともなかなかデートできない。付き合ってる事を公言していないから、待っている口実がない。
待ち合わせて帰えろうと言ったこともあるが、帰りの時間が遅いので、あの父親が毎日車で迎えに来てると言われれば、晴日には引くことしか出来なかった。
萌を心配して伏せたけれど、それが後になってこんなに堪えて来るとは、思わなかった。
スマホの時計を見ると、二十時を少し回ったところだ。ここにもう二時間もいる。
ゲーセンにでも行くかと、腰を上げかけた時、聞きなれた声に呼び止められた。
モデル体型のブロンド美人が、晴日に手を振りながら歩いて来る。
「It's been a long time.(久しぶりね)」
晴日に抱き着き、頬にキスしてくる。ボケっとしている晴日に、「Will you kiss?(キスしてくれないの?)」と微笑みながら催促してくる彼女の頬にキスをした。
「久々のノリだわ」
「What monastery did you enter?(どこの修道院に入ったのよ?)」
「入ってないから。ったく。日本語の勉強に来てるんだったら、日本語使えよ。アニー」
「いやん。ハルのいけず」
「そんな日本語ばっか覚えて」
彼女、アニーことアニータと知り合ったのは、晴日が中学三年の時、忘れ物を届けに来た母の職場の英会話教室だった。
誰かが「アニー」と呼んだので、母が近くにいるもんだと思って見回すと、返事をしたのはアニータだった。
母の愛称と同じだったことで、何となく話しかけ、意気投合して、ヤルことやった訳だが、あとから晴日の歳を聞いてアニータは酷く落ち込んだ。八つも年下だとは思ってなかったらしい。
けれど、日本に来たばかりで、寂しくて、ずるずると晴日と関係を続けていた。晴日が別れを切り出すまで。
「元気だった?」
「全然。若いエナジーが摂取とれないから、最近お肌が荒れちゃって」
「妖怪かよ」
「失礼ね」
アニータの人差し指が、喉元から顎へと伝い、くいっと持ち上げる。
「隣に座ってもいいかしら?」
「どうぞ」
アニータはカップを置くと、カウンターに肘を預けて足を組む。その膝が晴日に擦り寄るが、全く気にする様子もない。
「ここに来るなんて、随分久々なんじゃない? あたしが恋しくなった?」
そう言われれば、この店は待ち合わせによく使っていた場所だ。
無意識で来ていた事に、少なからずショックだった。
(どこかで、期待していたのか? アニーと会う事を)
晴日の首に両手を絡ませ、艶っぽく微笑む。
「うまくいってないの? 本気の彼女と」
「……」
「慰めてあげましょうか?」
目を覗き込んで来た彼女のキスを拒めなかった。
人肌が恋しくて、近くに誰かの息遣いを感じたくて、晴日から舌を絡めた。アニータはそっと晴日を離し、「移動しましょ」と微笑んだ。
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