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7. Please, open the box 【 R18】
Please, open the box ③ 【R18】
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黒塗りのベンツの後部座席で、謙人は窓の外を眺め、佐保はずっと俯いたままだった。謙人の右手は、ずっと佐保の手首を掴んだままだ。
松下佐保は、記憶にもない頃から当たり前のように傍にいた。
祖父たちは疎開先で知り合い、戦後の混沌とした時を一緒に過ごした。苦楽を共にしてきた祖父たちの結束は固く、互いに家族を持った後も変わりなかった。縁戚関係を結ぶ約束も子の代では至らず、孫の代でも無理かと諦めた時、佐保が生まれ、次いで謙人が生まれた事によって、望みは繋がれた。
最初は、祐人の許婚になる予定だった。
祐人とは十も年が離れていて、それでは祐人が気の毒だという事になり、謙人の許婚として約束が交わされた。
謙人がそれを知った時、子供心にも複雑な気持ちになったものだ。
大人たちの根回しにより、いつも一緒にいる事が義務のようだったが、佐保とは仲が良かったし、疑問にも思わなかった。しかしそこに祐人が加わると、佐保は祐人にべったりだった。
佐保に祐人を取られるのも、祐人に佐保を取られるのも、許せない気持ちが年を追うごとに強くなったが、軽くあしらわれる度にそれを素直に表に出すことが出来なくなり、中学に入る頃にはすっかり捻くれてしまっていた。
「こっちには、完全に戻ったの?」
彼女を見もしない。ただ掴む手に力が入った。
佐保は掴まれた手を眺め、
「一時帰国。謙人、もうすぐ卒業でしょ。年明けすぐに結納するから、戻るようにって」
「……はあ!? 結納なんて聞いてない!!」
突然突きつけられた現実に、意地でも見るつもりはなかった佐保を、思い切り振り返ってしまった。
「私だって三日前に聞いたばかりだもの」
慌てて帰国準備をし、飛行機に乗った。
「私だって驚いてる。すごく急だったし、あんな別れ方したから、謙人に会うの怖かったし。でもいざ帰国したら、会いたくて」
「俺が、何に一番腹立ててるか分かってるよね?」
「…うん」
謙人を一瞥すると、佐保はぽたぽたと涙を零した。
高校進級前の春休み、皆が忙しい時間を縫って、渡来家の別荘に集まった時の事だった。
この頃の謙人は、周囲の人間にかなり反抗的になっていて、別荘にも嫌々連れて来られていた。
家族同士の団欒にも加わらず、一人部屋に籠もっている謙人を佐保が呼びに来た。
「謙人! ちょっと謙人ってば! 別荘に来てまでする事なの? 」
佐保に背中を向けたまま、黙々とギターを弾いていた謙人に、段々と苛立ちが募ったようだった。
「こっち向いて。お互いの親には仲の良い振りくらい見せて。一応許婚同士なのよ?」
謙人は振り返り、珍しく頬を紅潮させて怒る佐保を一瞥した。
そしてまたギターを弾き始め、
「無理すんなよ。どうせ形だけなんだから。ぬか喜びさせるだけ酷ってもんだろ。佐保にとったら俺なんて、弟であって男じゃないんだし?」
許婚と言われる度に息苦しくなる。
なのにそれに抗えない自分もいて、腹が立って仕方ない。
あら、と言って佐保が隣に座り、顔を覗き込んで来た。
「結婚はするわよ。もちろん謙人とね」
「え…?」
思わず聞き返してしまった。
「子供の頃から結婚する相手は謙人だと思っていたし、その気になってる年寄りを落胆させるのも可哀想じゃない? それに謙人の事は好きよ」
「だから!! それが無理してるって言ってるの」
好きであればある程、この約束に “愛なんて必要ない” そう言われたようで、彼女が憎くなった。
それくらい彼女が好きなのに、気持ちが届いた感じがしたことはなく、いつしかそれを伝えることに疲れてしまった。
「弟として好きでも、男としては見てないだろ俺の事」
佐保はモテる。
通学路で待ち伏せして告白する者も多く、何人かと付き合ってみた話を、どういうつもりだか本人から聞いている。
「義理なんかで結婚決めるなよ。佐保の好きになった奴と恋愛して、そいつと結婚すればいい」
実際にそんな事になったら、とても辛いのは承知の上だ。それでも彼女の心が手に入らないまま結婚したって、体を手に入れることが出来ても辛さが増すばかりで建設的だとは思わない。
佐保は「や~だぁ」とコロコロ笑う。
「恋愛と結婚は別物でしょお。渡来の家なら勝手知ったるだし、私、姑問題で苦労したくないもの」
(俺との結婚は、何をしても許されるための免罪符か?)
そんなやるせなさが付きまとう。
「それってさ、別に俺じゃなくてもよくない? 兄さんだっていいじゃん。二十七でフリーだし、金持ってる」
片やこの春やっと十六の子供だ。比べ物にならない。それに佐保は祐人が好きなんだから、問題ないはずだ。
「ダメよ。祐人ちゃんは跡取りだもの。私には荷が重いし、年も離れ過ぎて子供扱いしかしてくれないわ。それこそ妹としか見てないもの。謙人と結婚するのが一番自然じゃない?」
悪びれなく言った佐保。
――――壊したい。
謙人の気持ちを無視して、どこまでも傲慢な彼女を壊したい。
手が付けられない破壊衝動。
二度と自分の前に姿を見せたくなくなるくらい、ボロボロにしてしまいたかった。
佐保の頭を鷲掴み、引き寄せ、唇を奪った。
「…いやっ!!」
佐保は謙人を突き放し、彼は冷ややかに笑った。
「何で逃げんだよ」
「い…いや」
「どうして? 可笑しなこと言うね。佐保は俺と結婚するんだろ?」
佐保の顎を掴むと、小さな悲鳴が漏れた。謙人は喉の奥でクツクツ笑い、震える佐保に迫る。
「なに怯えてるの? まさか結婚の意味知らないとか言うわけ? ままごとの延長とか思ってないよね? それとも俺じゃ不服なの?」
「謙人…変よ。らしくない」
「俺らしいって何? 佐保のいう事に黙って従ってれば俺なの?」
「ち……がう。違う」
佐保の両肩を掴み、フローリングの床に押し倒した。
「じゃあ、何が佐保のいう俺なの? 佐保にとって都合のいい奴って事じゃないの?」
佐保に跨ってブラウスのボタンを引き千切った。
露わになった白い肌を指でなぞる。
彼女は必死で逃げようとし、勢いで謙人の頬を叩いた。怯んだ隙に身を返し、這って逃げようとした彼女を謙人が取り押さえる。
シャツを剥ぎ取り、背後から彼女の口を塞ぎ、抱き寄せた肩に口付けて薄く笑う。
「無神経なんだよ佐保は。俺がどんなに佐保を愛してるか知ってる?」
佐保を組敷き、暴れる彼女の衣服を全て剥いだ。滑らかな白い肌を眺め下しながら、ジーンズのファスナーを開ける。
「他の男とデートしてんの見て、何も感じないと思ってた? こんな結婚、籍さえ入れりゃ、たとえ何人の男と寝ようが許されると思ってる? 俺は、少しも俺のコト愛してない女と結婚する気ないよ」
必死に抵抗する佐保の腰を引き寄せ、背後から無理やり捩じ込んだ。
佐保の短い悲鳴と嗚咽。
強引に捻じ込まれ、かなり痛かっただろう。抵抗することを諦め、身を委ねながら、脱がされた服を握り締め、今をやり過ごそうと震える背中。
それでも何度も突かれれば、体を守るために嫌でも濡れてきて、次第に謙人の感度も上がってくる。佐保の声が出なくなるまで執拗にいたぶり続けた。
佐保の中で何度もイキながら、彼女を解放してやらなかった。
「お願………い。もう…やめ……て」
腰を高く上げられたまま、床に突っ伏した佐保の振り絞った声。謙人はこのまま止めてやるつもりなどなかった。体位を変えようと彼女から杭を抜き、そして目を瞠った。
ぐちゃぐちゃに混ざり合って溢れ出した液体に入り混じった赤が、佐保の内腿を伝って流れ落ちていく。
急に頭の芯が冷えた。
無理やり抱いた謙人を罵倒するでもなく、散乱した服をかき集め、切ないほど静かに泣いていた。
謙人はこの時初めて、愛情を持って佐保を抱きしめた。
「俺を愛してよ」
こんな酷いことをしておいて、言える立場じゃないのを承知しながら、口走っていた。
「どうしたら愛してくれんの? 佐保の心をくれよ」
彼女の肩に顔を伏せた。
佐保は恐る恐る謙人の頭を抱き、頬を寄せる。
「ごめんね……ここまで…追い詰めて」
佐保は、ゆっくりとした口調で、心情を吐露した。
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